”彩子先生執筆”
身体的、精神的なストレスによって人間の体の各種臓器は、敏感に様々な反応を示します。その中でも、消化管である胃や腸は反応が早く、また直接影響を受ける臓器と言っても過言ではありません。日常生活で強いストレスに直面すると、その数分〜数十分以内などの驚くべき短時間のうちにも胃に痛みが走ったり、下痢が起こります。その時胃では強い蠕動運動に加え、胃酸が多く分泌されることで自分自身の胃粘膜を傷つけたり、時には穴をあけてしまうほどの病変を作ることもあります。消化器内科の外来ではストレスによる胃痛で受診される方は少なくありません。
なぜそのようにストレスが関係するのかというと、胃腸は自律神経の働きと密接に関わっているからです。ストレスのせいで自律神経のバランスが乱れると鋭敏に胃の調子が悪くなったり、下痢や便秘を繰り返します。胃酸の分泌過多や低下のせいで胃痛や消化不良を起こし、胃の痛みや消化不良によって食欲低下や体重が減る人もいます。
しかし一番怖いのは、癌による消化不良、食欲低下や体重減少の場合です。数は少ないですが、体重が減るのはストレスで食べられていないからだろうと思っていたら、実は癌だったということがあります。思い込みで本当の病気を見逃してしまわないように、症状がある時にはきちんと病院で検査を受ける必要があるでしょう。
急性の胃炎は、胃の粘膜に急激な炎症が起こり胃痛が生じる場合です。軽ければ胃薬を使わずに自然に痛みや症状が治まることもよくあります。しかし重症の場合では粘膜に強い損傷が起こりますので、しっかり胃薬の内服治療を受けるべきでしょう。また慢性的に胃粘膜の炎症が続くと、胃もたれや胸焼けや膨満感などの症状で悩ませられることもあります。そして胃潰瘍・十二指腸潰瘍では、人によっては痛みよりもだるさ・倦怠感の症状のために病院を受診し、検査したら潰瘍から出血して貧血を起こしていた、ということがあります。貧血がひどいと入院加療になるケースもありますし、潰瘍が増悪し胃の壁に穴が開いてしてしまったらそれこそ大変で、手術が検討されます。決してストレス性胃炎でも甘く見てはいけないということです。
とにかくストレスを解消することが何よりも一番であるということは、言うまでもありません。言うまでもありませんが、これができたら誰も悩まないわけであって、このストレスの原因を排除することはそうそう簡単なことではありません。せめて少しでもそのストレスを解消する方法を模索したり、リラックスできる環境や趣味の時間を少しずつ行い、悩みを話せる知人がいれば話を聞いてもらうことも重要です。
さて、肝心な内服薬についてですが、ストレス性胃炎でも胃薬を適切に使うことが大切な治療です。症状があれば医療機関を受診し、胃カメラを飲むことも時には必要です。潰瘍を形成している可能性もあるため、この時には市販薬ではなく、病院から処方される強い胃薬を内服しなければいけません。胃薬には、胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬、蠕動機能改善薬などいくつか種類がありますので、これらを適切に使います。
またストレスによる不眠がある場合には、一時的にでも安定剤や睡眠導入剤を内服するなどして最低５時間以上の睡眠時間を確保しましょう。まずは規則正しい生活リズム適切な食事を心がけてください。気分の落ち込みが日常・社会生活にも影響を及ぼしていると思った時には、ためらわずに心療内科を受診することが解決の糸口になることがあります。放っておいたらもっと悪化してしまったり長い時間苦しむこともあります。ストレスで悩んでることは恥べきことではありません。それだけ真摯に問題を受け止めているということなのです。
しかし問題はストレスで体の調子がおかしいと気がつかない人も、意外やたくさんいるのが現実です。なんだかわからないけれど、最近体の調子がおかしい。食欲がなくて体重が減りがち、下痢と便秘を繰り返している。もちろん別の病気が隠れていることもありますが、ストレスと気がつかずに症状が起こっていることもよくあるのです。体の異変を察したら、一度病院を受診してみてください。なんでもない毎日を「普通に」過ごせるよう、自分の体と心にいつも向き合うということは、とても大切な日常の生活習慣なのです。
大事なことは、実はストレス性胃炎や腸炎だと思い込んでいても、その陰に胃癌や大腸癌が潜んでいる場合があるということです。胃癌でも食事後に続く腹部の膨満感や胃の痛み、食欲低下など様々な症状を呈し、これをストレス性胃炎と間違える人もいます。
癌の1日でも早い早期発見治療のために、症状があれば自己判断せずに早めに病院を受診することをお勧めします。
