高血圧の治療を開始するときに「血圧の薬は飲み始めたら一生ですか?」と尋ねられることがあります。薬を飲み続けなければならない不安からの疑問だと思います。
降圧薬は効果の持続が長くて24時間程度です。あたかも魔法が消えるシンデレラの深夜0時みたいなものです。
降圧薬内服を始めて目標血圧を維持するためには開始の頃は薬の種類や量が多くても、数年間の確実な内服を続ければ薬を減量できる人がたくさんいます。少数ですが止められる人もいます。人により違いがありますが当院での経験です。
降圧薬の効果持続時間
高血圧患者の深刻な悩み
高血圧になった患者さんが治療のため当院を訪れます。拝見すると確かに治療するべきレベルの血圧の高さです。一通り診察と検査をしてから、患者さんに「そろそろ薬の治療開始を・・」とお勧めします。
そんな時、「先生、血圧の薬は一度飲み始めたら一生飲まないといけないものですか」と尋ねられることがあります。
病気は普通なら薬を飲んで治れば薬はもういらないはずです。血圧が下がって病気が治っているのになぜ薬を止められないのか分からない、さらに薬を死ぬまで一生飲み続けなければならないと誰かから教えられた不安で、そんな質問が出てくるのだと思います。
この話題は多くの患者さんが抱く疑問のようで、これまで患者さんに何度もお話しする事となりました。 ◆006 高血圧の薬 始めたら、一生飲み続けますか?
薬を飲んで効果の続く時間
皆さんも既によくご存知のように、高血圧を完治する根本的な治療方法はまだ見つかっていません。
効果の長い降圧薬であっても、最大24時間程度しか効果が続きません。薬の効果が消える頃にはまた同じ薬を飲まなければならなくなるのです。薬の有効な時間が短いのです。これが現在の高血圧治療の限界です。
薬を飲んで効果が有効な時間内であれば降圧はよく実現できるのですが、時間を過ぎれば血圧を低くしておくことがもう出来ません。再びゆっくり高くなっていくでしょう。
降圧薬の有効な時間とは、あたかも魔法が消えるシンデレラの深夜0時みたいなものです。
降圧薬は、数年で減量可能になる
数年間治療すれば、薬は減量可能
一方こんな経験もあります。当院でのことですが、血圧を下げる治療を始めた頃にはかなり多くの種類や量を使わなければ目標血圧(正常血圧)まで下げられなかった人です。しかし目標血圧に入ってからも薬を飲み続けていれば数年後には徐々に薬が減らせる方向になる人は珍しくありません。
長い期間降圧薬で治療している人の過去の血圧と薬を比較すると、治療年数とともに加齢が加わっているにもかかわらず薬は種類も量も逆に少なくなっていることがあります。もう一息で止めることも可能なレベルにある人もそれほど珍しくありません。少数ですが完全に止めてしまった人もいます。
当院での経験ですが、このように高血圧の薬は飲み始めたら絶対に減らせないし一生止められないわけではありません。ただ種類や量は別にして多くの人は、長期にわたり高血圧の薬を飲み続けなければならないのは確かなようです。
薬を減量できる人は、どんなタイプ?
どのような人が薬を減量できるのかについて調べたことがありません。何とも言えませんが、真面目に薬の飲み忘れなく厳格に飲み続けた人にそのようなケースが多い印象はあります。ちなみに当院の患者さんのほとんどは診察室血圧が130/80mmHg 以下にコントロールされています。
しかし薬を減量できた人でも、何かの事情で薬を2~3日も中断すれば、血圧は再び高くなってしまいます。当院の多くの患者さんはその事を自分の体験からよく知っていますので、よほどの事情でなければ故意に薬を中断することはありません。
大規模災害時に医療機関が機能しなくなり薬が手に入らなくなった時、高血圧患者さんの不安や苦痛はいかばかりであったかと察せられました。
高血圧も将来は完全に治る時代が来るかも知れません。そうなれば血圧の薬を延々と飲み続けなくてもよくなるでしょう。しかし残念ながら、今現在そのような時代が到来するだろうとの兆しは見えません。
まとめ
高血圧患者さんの治療を開始して、最初は薬の種類や量が多くても、数年間の確実な内服治療を続ければ、薬を減量しても目標血圧(正常血圧)を維持できることがあります。少数ですが薬を止められる人もいます。
人によって違いますが、薬を始めたら何時までも同じで生涯続けなければならないわけではありません。薬の種類や量は変化しながらも、治療経過と共に徐々に減量していく人の方がむしろ多いと思います。当院での経験です。
降圧の目標値:正常血圧
*参考情報
当院の降圧目標値
当院での目標血圧は以前の日本の学会の正常血圧を指標にしました。
●診察室 130/80mmHg 以下
●家庭血圧 125/75mmHg 以下
長い間この値を目標にして、降圧薬を増減してきました。