高血圧の薬を飲んでいて「なぜ1錠ではダメで、3錠も飲まないと下がらないのか分からない。薬が多すぎるのではないか」と思っている人がいるかも知れません。今日はこの話題について考えてみます。
血圧を下げる薬(降圧薬)には効き方が異なる幾つかの種類があります。下がりにくい高血圧の治療に、一種類の薬だけを徐々に増量していく方法と、タイプの違う数種類の降圧薬を少量づつ組み合わせる方法があります。
薬の副作用の発生を抑え体にやさしく有利な方法は、少量づつを多種類組み合わせて内服する方法です。血圧を下げるために1錠だけでなく2~4錠の違う種類の降圧薬を組み合わせる(多剤併用)のは、そんな背景があるからです。決して無駄に薬を多く処方しているわけではありません。
*参考情報 降圧の目標値:正常血圧
降圧薬の種類
「なぜこんなに薬が多い?」
高血圧の薬(降圧薬)を飲んでいる人が「何錠も飲んでいるが、これだけの薬が必要なのか?と疑問に思っている。強い薬を一錠ではダメなのか?」
この様に感じて医師の処方を気にする人がいるのではないでしょうか。今日はこの疑問についてお話ししてみたいと思います。
降圧薬は幾つかの種類がある
高血圧の薬は、薬の効くメカニズムの違いで数種類のタイプに分類されます。それぞれの種類には特徴があって患者の抱える病気や高血圧の程度によってその薬の選択の組み合わせは大きく変わります。
例えば、高血圧だけで他に何も病気はない単純な高血圧患者と、高血圧があるのはもちろん糖尿病、高コレステロール、肥満、脳卒中、腎臓病、狭心症なども同時に持っている患者とでは血圧の薬の選択が大きく変わります。
降圧薬のどの種類をどれだけ飲むかは、個々の患者の持つ病気の種類と重さの程度の組み合わせで無限に変化しますので、皆さんを混乱させず一般化してやさしく話すのは至難です。私には不可能です。
降圧薬の使い方
高血圧の治療はただ血圧を下げるだけでなく、同時に抱えている他の病気との兼ね合いで使う薬が変わるところに選択の難しさがあります。
最終的には、高血圧はもちろんそれ以外の他の病気にもよい効果があるような降圧薬の組み合わせが、その患者によく合っていると言えるでしょう。そんな薬の組み合わせを探して医師は処方しています。
薬の組み合わせには一応の理屈があります。しかし実際の患者に処方する時はそんな理屈通りにいかないことも良くあります。理屈通り組み合わせても、血圧が目標まで下がらないこともあります。患者の様々な病気の状態から薬の組み合わせを試行錯誤しながら、最適な組み合わせを見つけるまで何ヶ月もかかるのは珍しくないのです。
たった一回で薬が決まればこんなによいことはありませんが、そんなケースがあるとすればそれは軽症から中程度の単純高血圧だろうと思います。様々な他の病気を同時に持っている患者なら、病気との兼ね合いで降圧薬の組み合わせも複雑になりますから処方の内容は一度だけでまず決まりません。
高血圧治療のゴール
高血圧治療の最終ゴールはとにかく血圧を目標値まで下げることです。よい効果がどんなにたくさんある降圧薬であっても、その薬で血圧が十分下がらないなら患者はその薬では不十分と言わざるを得ません。
一般的ですが、単純高血圧の患者と較べ、高血圧以外にも多くの病気を抱えている患者ほど血圧は下がりにくく、降圧薬の種類や量が多くなる傾向があります。また高血圧の程度が重い患者ほど血圧は下がりにくく薬は量も種類も多くなります。
高血圧の薬はそのような配慮が働いて組み合わせが決まります。この選択の事情を患者に詳しく話す時間は実際の診察中ではなかなか難しいです。しかし説明する方が患者も薬の必要性をよく理解できて納得すると思います。
降圧薬を強くする方法
常用量で、薬の強さの差
薬には常用量の考え方があります。薬の効果が十分得られる量で副作用が少ない量のことです。分かりやすく言えば。この範囲の量で使用すれば薬は安全と思われる量です。どの降圧薬でも、一回一錠か二錠がほぼ常用量に相当します。
常用量の範囲内であっても弱い薬と強い薬の差があります。たとえば金属の比重を例にして考えてみます。全く同じ大きさのアルミニウムの塊と金(ゴールド)の塊を較べます。手に持ってみればアルミニウムは軽く金はずしりと重く全然違います。薬の常用量も、この例のように同じ常用量の一錠でも効果(降圧の度合い)には大きな差があるのです。
常用量の強さを比較する際に、薬のmg表示を比較してはいけません。常用量(一錠)が、薬Aは100mg、薬Bは1mgだから薬Aの方が強いと考えてはいけません。mgの値に意味があるのは同じ薬で比較する場合だけです(薬Aで10mgか40mgかの比較)。
違う薬をmgで比較するのは意味がありません。ここを間違えている患者さんが意外に多くいます。注意して下さい。
薬を強く効かせる、二つの方法
血圧を下げるために薬を強くするには二つの方法があります。まず服用中の薬の量を増やすことです。今使っている薬の量を二倍にすれば血圧は更に下がるでしょう。量を二倍にしても血圧は二倍までは下がりません。
二つ目は、使用中の薬はそのままで、もう一つ別の薬を追加することです。この薬は使用中の薬とは全く違うタイプの降圧薬を選びます。
A. 一種類を増量する
それぞれに一長一短がありますが、量を増やす場合、目標の血圧まで下げるために常用量の範囲(幅があります)を超える場合があることです。常用量を超えれば薬の副作用が出やすくなる欠点があります。
B. 種類を増やす
種類を増やす場合は、複数の薬で悪い相互作用がおこり予期しない副作用が表れる可能性があります。しかし降圧薬で相性のよい組み合わせを選べば体によい効果が生まれることも分かっているので、それぞれの薬が常用量を超えない範囲に抑えながら、複数の薬で血圧をより強く下げることが可能です。
多種類の方が安全でやさしい
血圧を下げるために、一種類の薬の量を増やし続けていくよりも、薬を常用量の範囲内に留めて複数の種類の薬を組み合わせて使う方が体にとってやさしく有利な面が多いと思います。1種類ではなく、2,3,4種類と多種類の血圧の薬を飲んでいる人がいると思いますが、それはこの様な理由からです。
もし内服中の4種類の薬の効果をたった一種類で達成しようとすれば、常用量の範囲では無理なので、かなり問題のある領域の量(最大限度の極量も超える量)まで薬を増やさなければならないことがあります。そこまで増やしても常用量で多種類の効果に及ばない場合もあります。一種類だけにこだわらない処方の理由です。
高血圧治療で、薬の安全な量(常用量)の範囲内でも多種類を組み合わせて使うことが多いのは、高い血圧を目標まで下げるための安全な降圧薬の使い方なのです。
まとめ
高血圧の患者の薬の種類を多くするのは、降圧薬をやさしく安全に内服する考えが背景にあることを理解して下さい。薬の種類が多いことに不安を持たないで下さい。
安全で体にやさしい優れた高血圧の治療法です。
降圧の目標値:正常血圧
*参考情報
当院の降圧目標値
当院での目標血圧は以前の日本の学会の正常血圧を指標にしました。
●診察室 130/80mmHg 以下
●家庭血圧 125/75mmHg 以下
長い間この値を目標にして、降圧薬を増減してきました。