

「見せかけの高血圧」をシリーズでお話しています。
画像:不思議の国のアリス
意外な思いがけない時に高い血圧が
「見せかけの高血圧」の第6回です。
普段はいつも正常に近い血圧ですが、何かの機会に高い血圧になってしまうことがあります。そんな高血圧を見せかけの高血圧と呼んでお話ししてきました。こんな機会は日常生活でありふれていますが、あまり血圧を測る習慣のない人にはその事実に気付きません。
ある時にたまたま血圧を測ってみると日常の意外な場面で血圧が高くなっています。そんなことくらいで血圧が高くなると知らなければ、「自分は高血圧になってしまったのか?」と真剣に悩むでしょう。しかしその高い血圧はしばらくだけですぐに元の正常血圧に戻るのです。決して心配しなくてよい高い血圧なのです。
皆さんが予想もしていない日常のどんな時に血圧が驚くほど高くなるのでしょうか。患者のいろんなケースに遭遇しましたが、よくある典型的なケースを幾つか紹介しましょう。
高い血圧:予想外の機会
■トイレを我慢している時
当クリニックでは、定期的に血液と尿の検査をしています。患者もその日の診察で、私の診察の後に採血と採尿の検査があると予想している時に、朝からトイレを我慢して来院します。
外来が混雑していると、予想外に診察までの時間を待ってしまうことがあります。診察前にトイレに行き用をたすと、診察後の尿検査で検査用に出なくなってしまいますから、診察が終わるまでトイレに行くのを我慢するのです。
診察の順番になって診察室に入ります。少しお話ししてから私が血圧を測るといつもは120/70mmHg程度の血圧なのに、150/90mmHg位に高くなっています。高くなった背景を幾つか伺います。「今トイレを我慢していませんか?」と尋ねると「ええ、今日は検査の日ですね。我慢しています」と答えます。
「血圧が高いのはそのためでしょう。すぐ看護師から採尿カップを貰ってトイレをすませて下さい。検査後に看護師からもう一度血圧を測って貰います。多分下がっているでしょう」とお話しします。
排尿後にゆっくり採血して、看護師が血圧を再検しますと予想通り120/70mmHgに下がっています。患者も安心してお帰りになります。
排尿や排便を我慢しているとこの様に意外に高い血圧になることはよくあります。血圧を測る時はそのような条件でない時を選んで下さい。
■待合室で楽しく話していた時
患者が待合室で珍しい人と偶然にお会いすることはよくあるようです。本当に久し振りに親戚の人に会ったとか、小学校の友人に会ったとか、待合室では患者同士の様々な出会いがあるようです。
そんな時には懐かしい話も弾み、診察に呼ばれるまで夢中で楽しくお話しをされているようです。お話の途中に私から診察に呼ばれ慌てて診察室に入ってこられます。
簡単な病状のお話しの後に私が血圧を測りますと非常に高くなっています。時には180/100mmHg位まで高くなっている時もあります。
珍しい人と会った時だけではなく、いつも会っているお馴染みの患者同士であっても話が弾むとやはり診察室で高くなることがよくあります。楽しい話題のお話しであっても血圧は上がってしまいます。
患者もその事をよく知っていますので、診察前には出来るだけお話ししないように心がけているようです。しかしたまたま隣に座った患者から話しかけられると黙って無視するわけにもいかず、つい話の相手をしてしまうそうです。「診察室で血圧が上がってしまうのに・・」と思いながら隣席の方とお話しているそうです。
診察室では予想通り高い血圧になります。患者も「今、話していましたから・・」と自分の方から上がった事情を打ち明けてくれます。「そんな時に高くなるのは気にしないで下さい。どうぞ待合室では楽しくお話しなさって下さい」とお伝えします。
診察後10分ほどしてから看護師が再検しますと正常に下がっているのがほとんどです。
■医師に質問しようと考えていた時
患者が「今日は○○○の事を先生に聞いてみよう」と思いながら待合室で待っている時があります。診察に呼ばれて私の診察で血圧を測定します。いつもと違ってかなり高くなっています。高くなったいろんな原因を私がお話ししても思い当たることがなく原因不明で診察を終わります。終わり間際になって患者から「先生、○○○の事についてちょっと聞きたいのですが」と質問を受けその相談をします。
当院ではどの高血圧患者も薬を調整して、いつも正常血圧になっていることが普通です。しかし診察室で高い場合はしばらく後で看護師が血圧を再検をすることになっています。原因不明で高い血圧の患者は後から再検で正常血圧に戻っていることが多いのですが、私に質問をしよう(家族の病気のこと等)と考えていた人、私に何かを頼もう(紹介状の依頼等)と考えて診察を受けた人が高い血圧になっていることはよくあります。
こんな場合は看護師の再検で正常の血圧になっています。私に質問、相談、依頼したい事等を考えていることがやはりストレスになって血圧を上げているのでしょう。
この様に全く普通の些細な日常の出来事ですが、予想外に高い血圧を誘発してしまいます。ましてもっと重大な出来事で激しい感情の起伏があれば驚くほど高い血圧になるのは簡単に想像できると思います。
たとえば、怒り、恐怖、驚き、深い悲しみなどの感情です。
■内視鏡検査や手術の前
この経験をした方は多いと思います。内視鏡検査など患者さんにとって少し辛い検査なら、検査前血圧が普段では考えられないほどの高い値になっていることがよくあります。検査に対する過緊張のためですから心配ないのですが、検査が終わるまでなかなか下がらない場合は困ります。
普段から高血圧の薬を飲んでいるなら、この異常な高血圧を避けるために検査前に血圧の薬だけは自宅で早めに飲んできてもらうようにして検査する医師もいます。
手術前で麻酔がかかる前に非常に高い血圧になることもよくあります。手術は内視鏡の検査以上に緊張する治療ですから、手術前に緊張が異常に高まってしまいます。手術が終われば普通に戻るのですが、局所麻酔で覚醒したままの手術なら、手術中も高く推移することがありますから、術者の医師にとっては悩ましい問題です。

■その他、家庭での予想外の状況
以上の条件以外にも、日常の普通の生活環境であっても様々な状況で驚くほどに血圧が高くなることがあります。そんな状況とは
●何かを考えながら測った
●血圧計の数値を凝視しながら測った
●話しながら測った
●テレビを見ながら、新聞を読みながら測った
●周囲が騒々しい環境で測定した
●高い血圧が続き、そのこと自体を心配している時
●睡眠不足であった
まとめ
様々な普通の日常生活の場面で、何気ない状況でありながら偶然に血圧が異常に高くなって驚くことがあります。そんな時は、直ちに「自分は高血圧になってしまった!」と悲観しないで、少し冷静になって朝と寝る前の穏やかな時間帯で毎日自分の血圧を測り続けてみて下さい。
その血圧をノートに記録してみると、自分の血圧が「本物」の高血圧か、「見せかけ」の高血圧かがボンヤリと見えてくると思います。区別する具体的な方法を以下でお話ししました。心配な方はここをお読み下さい。→◆その高い血圧 治療が必要な本物か?、不要な見せかけか?
決して慌てることなく冷静に対応し、迷ったら内科医に家庭血圧を記録したノートを持参して相談下さい。きっと悩みを解決してくれると思います。
