画像:不思議の国のアリス
薬を使わずに高血圧が○○で治った
「見せかけの高血圧」という考え方をシリーズでお話しています。今日はその第4回目です。
高血圧を治すために医薬品を使わない民間療法が盛んです。テレビ、週刊誌、雑誌、新聞、折り込みチラシ等に大きな見出しでこの様な言葉が踊っているのを見る機会が少なくないと思います。こんな見出しに皆さんはどのような感想を持っていますか。今日はこの話題についてお話ししてみます。
「これって本当ですか?」
患者から「高血圧が薬を飲まずに○○で治った」という話を聞きましたが、これは本当ですか?と質問を受けることがあります。患者は自分の経験から本当だとは思えないのですが、どこかでそんな記事を読み私に真偽を確認したいと思うのでしょう。この問題はいくつかの点で大変含蓄のある示唆的な話題です。
1)それが起こりうる場合
その様なことは全くあり得ないわけではなく、現実に起こることは十分理解できます。例えば比較的穏やかな高血圧で○○が血圧を下げる効果があることが医学的にも立証されているような場合です。
たとえば穏やかな高血圧の患者で、生活のストレスを減らし、適度な運動を毎日続け、食事の量を減らして体重を減量し、食事の塩分摂取量をかなり減らす、何かの民間療法等を十分に長期に実行できた場合などです。
そのような日常生活の改善で血圧がある程度下がることは確認されています。そんな生活をもしキッチリと実行できれば、医薬品を使わずにある程度の高血圧を改善することは理解できます。
2)科学的根拠なく多分困難な場合
もし高血圧が中等症から重症であれば、この様な日常生活等の努力だけで高血圧が完全に治ったというレベルまで下がることはかなり難しいと思います。
また○○が医薬品以外の民間療法で、例えば薬草(血圧を下げる効果のある漢方薬ではなく、効果がまだ確認されていない民間療法の薬草等)を飲んだとか、精神の在り方を変えたとか、精神を何かに集中させたとかであれば、可能性がないとは言えませんが、医薬品の様に本物の高血圧が明らかに劇的に治るのはかなり難しいと予想します。
医学は科学ですから、科学的に効果が立証されていない治療法で高血圧が治ったと言われても評価することが出来ません。従って、科学的手法で効果が確認されていない方法や手段なら、医学的な評価や判断はできないと答えるのが標準的な回答です。
ただし科学的に未確認だからそのようなことが起こるはずはないとは言えません。未知のメカニズムがあるのを現代医学が理解していないのかも知れません。しかしこの議論をすれば際限がないのでここではしないことにします。
見せかけの高血圧
患者は私からそのような標準的な回答を期待していないのは明らかです。そんな一般的な回答ではない、私の本音の意見を聞きたいでしょう。そこで私は別のお話もする事にしています。しかし「情報が少なすぎて厳密な医学的判断は出来ないですよ」と条件を付けます。
1)「見せかけの高血圧」の可能性がある?
私個人の感想としては、その様な効果未確認の民間療法がもし高血圧を治せたなら、一つの可能性として、その人の高血圧は本物の高血圧症ではなかったのではないかと予想します。
前からお話していますが、家庭血圧計で測った血圧が高く表示されてもそれは「見せかけの高血圧」の場合があます。「見せかけの高血圧」が少し高め程度ではなく、重症高血圧レベルまで高くなることもよくあります。しかしあくまでも一時的に高いだけの「見せかけ」であって、本物の高血圧症ではなく、測定しない時にはほぼ正常に近い血圧になっているのです。これを「見せかけの高血圧」と私は言っています。
こんな人に何かの民間療法(例えば○○)を施すと「見せかけの高血圧」が消えてしまうことがありえます。そんな場合はその民間療法○○はその人にとって高かった血圧を正常化する効果はあったと言えるでしょう。
2)「見せかけの高血圧」なら○○で治る
「見せかけの高血圧」では血圧を測る時だけ血圧が上がってしまう心理因子が作用します。もしある民間療法(○○を飲めば高血圧が治るといわれている)で患者がその心理因子から解放されるなら、その「見せかけの高血圧」は「○○で治った」と当然考えるでしょう。
血圧を測ってももう高くなりせんから、その○○で高血圧が確かに治ったように見えます。しかしそれは本物の病的な高血圧症が治ったのではなく、測ると高くなってしまう心理因子が消えた結果だと解釈するのがよいのではないかと思います。
「見せかけの高血圧」患者は(心理因子で測定時だけ一時的に高い血圧になる人)、自分は本物の高血圧症だと思い込んでいます。その人が薬草等の民間療法○○を飲む「治療」によって「見せかけの高血圧」が消失してしまったのです。
その人は本物の高血圧症が治ったと判断します。一種の思い込みだと思いますが、その人にとって測れば必ず高く出ていた悩ましい高血圧が消えてしまったのです。高血圧症が治ったと信じて心から喜んでいることでしょう。それはそれで意味のあることです。患者の悩みは解消したのですから。
そしてこの様なケースはそれほど珍しくないと想像します。或る心理因子で「見せかけの高血圧」になっている人が、その心理因子から解放され直ちに血圧が正常化することは当院でもよく経験します。
このようなタイプの患者ではその原因の心理因子を解放することが即ち「高血圧の治療」なのです。
3)心理因子を解消するなら○○は何でもあり
「見せかけの高血圧」患者にとって、血圧を上げる心理因子が解除できるなら、それがどんなものであっても高血圧を治す「魔法の治療法」になります。一見して高血圧治療には全く無縁と思われるような方法であっても、その人にとっては心理因子を解除してくれるので高血圧の治療になるのです。
私達医師は同じような事を日常診療の場面で具体的に実行しています。測定した時だけ上がってしまう血圧がなぜ起こるのか、どうすればその心理因子が消えるのかを患者に説明することで患者からその心理因子を解消しています。
患者が医師の話に納得すれば治療は終わりで以後は高い血圧が出なくなります。特別な薬は使わないでも医師の説明だけで治療は完了です。実際によく経験しています。
「民間療法○○をすれば高血圧が治る」と信じた人にはその○○が血圧を上げる心理因子を解除する効果があったのだと思います。その○○が医師の説明や話と同じ効果となって患者から心理因子を解除したのだろうと予想します。
「見せかけの高血圧」なら薬を使わずに治る
日常診療で「見せかけの高血圧」患者は珍しくなくいます。高血圧患者の何割がそうなのか数字はありませんがグレイな患者さんも含めれば印象としては高血圧で初めて当院を受診する方の10%位でしょうか。この様な人に医薬品は不要ですしもし強力な降圧薬を処方すれば有害かも知れません。
よく見る「高血圧なら薬を飲むな!」、「高血圧は薬で悪くなる!」、「薬を飲まず○○で高血圧が治る!」、「○○すれば高血圧が必ず治る!」等は、医学的に納得できない意見ですが、本物の高血圧症ではない「見せかけの高血圧」なら十分にあり得ることです。
しかし「本物の高血圧症」患者であるなら、以上の見解には私も含めほとんどの医師は強く反論するでしょう。なぜなら降圧の効果が実証されていない民間療法○○で、本物の高血圧症が治ると考えるのは無理があると考えるからです。
その民間療法○○では「見せかけの高血圧」は治せても、本物の高血圧症には多分効果は少ないでしょう。またその○○の効果を信じてない人にも多分効果はないでしょう。治療効果があるのは「見せかけの高血圧」で○○の効果を納得して信じた人だけだろうと予想します。
本物と「見せかけ」:実際の区別は簡単ではない
「高血圧なら薬を飲むな!」等と主張する方々は、薬剤治療が必要な「本物の高血圧症」の人に誤った思想を植え付けることになるでしょう。一方「見せかけの高血圧」なら本来薬は不要ですから、こんな人には「見せかけの高血圧なら薬を飲むな!」は正しい考え方です。
事情が混乱し複雑になっているのは、測定した高い血圧が「本物の高血圧症」か「見せかけの高血圧」なのか、簡単に判断できないことです。
「見せかけの高血圧」なら薬の治療は不要ですが「本物の高血圧」なら薬で治療が必要です。誰がどんな方法でそれを区別出来るか判断出来るかが問題です。
その見分け方で、誰でも出来る具体的な一つの方法を以前コラムでお話しました(◆その高い血圧 治療が必要な本物か?、不要な見せかけか?)。それを参考にして下さい。客観的なもう一つの方法は、少し面倒ですが24時間血圧計を使って調べることです。しかしそれでも完全に区別できるかは分かりません。
血圧が高い人は迷ってないで自分がどちらなのか一度医師に相談することをお勧めします。