高血圧は血管老化を促進
高血圧は血管を劣化させ体の老化を促進する病気です。この事はこれまでも何回も話しましたが、このことが高血圧の本質的な悪い作用であり忘れてはいけないポイントです。それでは体の中の見えない血管がどの程度まで劣化・老化しているかをどうやって知るのでしょうか。
正確に観察するならCT やMR の血管造影がありますが造影剤を使わなければならないのと目的とする血管ごとに違う面倒な検査が必要です。繰り返して検査を続けるにはそう簡単ではありません。しかしこの方法が血管の老化の度合いを肉眼的に見ることが出来る優れた検査です。
血管が見える簡単な検査
もっと簡便に手軽にできる検査で患者にも分かり易い方法はないか。当院のような小さなクリニックでは二つの検査を用いています。普通の胸部レントゲン写真と眼底写真です。
この検査で心臓、胸部大動脈、眼底血管の3種類の血管の劣化や老化の程度を大雑把に観察することが出来ます。この検査は全国どこの医療機関でも使用できるうえ患者にも分かり易い写真が得られます。
胸部レントゲン写真:心臓と胸部大動脈
心臓は「血管の親分」です。高血圧では程度の差はありますが、ほとんどと言って良いほど心臓は大きく(心拡大)なっています。同時に心臓の筋肉は厚くなっています(心肥大)。
特に大きくなった心臓は胸部レントゲン写真を医師が解説すれば患者にも簡単に理解できます。降圧治療をしばらく続ければ治療前に較べ心臓は小さくなっているでしょう。
体の中で一番太くて大きな血管(胸部大動脈)の劣化・老化も胸部レントゲン写真で分かります。体の中の更に細い血管なら眼底写真の撮影で分かります。
心臓:心拡大と心肥大
心臓は胸部レントゲン写真でその中央に大きな白い影として存在します。トップの写真で中央の楕円形の白い影です。
医師が写真を見ながら直接説明すれば誰でも簡単に理解できます。若い人の健康なレントゲン写真を患者の写真の横に並べて比較し話すと、自分の心臓の異常な形やサイズが一目で理解できます。
サイズが大きければ大きいほど一般的に心臓は劣化していると考えられます。高血圧ではほとんどの場合に心臓は大きくなっていますから写真を見て患者はその変化に大きな衝撃を受けます。
「人間ドックで何度も写真は撮りましたがこんな話しは初めてです。驚きショックを受けました。どうすればいいのですか」
多くの患者はこの様に話します。
そして高血圧治療を開始し1年後にその大きな心臓が小さくなった胸部レントゲン写真を私と一緒に見て患者は再び驚きます。
「よかった。ありがとうございます。治療した甲斐がありました」
笑顔のうれしい驚きで高血圧治療の優れた効果を二度と忘れません。
胸部大動脈:大動脈の蛇行と拡大
胸部大動脈は心臓から直接出る血管で体の中では最も太い血管です。心臓から出てまず頭の方向に向かって直上に進み、すぐに折り返して足の方向に真っ直ぐに下がっていきます。胸部大動脈が胸からお腹に入るとそこから先は腹部大動脈と名前を変えお腹の一番下まで真っ直ぐに伸びていきます。そこからは先は二股に別れ両足の方向に進んでいきます。
そんな胸部大動脈ですが、心臓から出た直後から胸の中を走行する間の胸部大動脈が、胸部レントゲン写真を撮影すれば写真の中にその影が写しだされます。若い人の正常な胸部レントゲン写真と比較しながら、患者の胸部大動脈の劣化の度合いや老化の程度を医師が説明すれば患者はその意味を容易に理解できます。
簡単に言えば、劣化していない若い健康な大動脈は太さが細く湾曲やたわみがなく真っ直ぐに体の中を進んでいきます。一方胸部大動脈が劣化・老化すれば太くなり真っ直ぐではなく曲がってうねり始めてきます。言葉で言うと分かり難いのですが若い健康な大動脈の写真と高血圧などで劣化・老化した写真を横に並べて比較し医師が説明すれば患者は簡単に理解できます。
心臓と同じく、自分の胸部大動脈が年齢や高血圧のため如何に劣化・老化しているかを発見し強くショックを受けてしまう人が多いです。何しろこの老化した胸部大動脈が破れたり破裂すれば緊急手術も間に合わずにほぼ即死になることが多いからです。
それまで元気だった知人がある時突然倒れたと言う話を聞くことがあると思います。そんな場合は、脳血管か、心臓か、大動脈のどれかが原因であった可能性が高いと想像して下さい。それほど心臓と胸部大動脈の病的な劣化・老化は命に直結する病気です。
眼底写真:細い動脈
胸部大動脈のような太い血管ではなく細い血管の老化については、目の瞳から光を入れて眼球の一番奥にある部分(網膜)の血管を観察します。そこはカメラで言えばフィルム(画像素子)に相当する部分の血管です。見るのに最も大切なその場所を写真撮影します(眼底写真)。
写真をみると細い血管をたくさん観察することが出来ます。この血管が劣化・老化していれば、硬くなった血管の所見があったり、血管が破れて血液が滲んだり広がっている所見などが見つかります。
これも言葉で説明するより眼底写真を見ながら医師が患者に説明すればすぐに分かって理解しやすい写真です。この眼底写真で体の奥深い細い血管の老化の進行程度が理解できます。
心臓、」大動脈、眼底血管、どの血管の変化も写真を医師が正常写真と比較して患者に説明すれば本当に誰でも簡単に理解できます。百聞は一見に如かずです。分からなかった患者はいません。
心臓、大動脈、眼底動脈の老化の改善
胸部レントゲン写真と眼底写真の二つの検査方法は、小さなクリニックでもできる簡便な検査法ですから、毎年繰り返しその変化を追いかけて観察することが出来ます。
初めて高血圧で来院した時に撮影した胸部レントゲン写真と眼底写真を見ながら、患者の心臓、胸部大動脈、眼底動脈の3つの血管の劣化・老化の度合いを患者に話します。
治療を開始し、1年後、3年後、5年後、8年後、10年後と経過を追って同じ写真を撮り、以前の写真と比較しながら患者に説明しますと患者にも高血圧治療の良い効果が目に見えて理解し易いと喜ばれます。
結論を言えば、高血圧治療前の最初の写真と較べ、大血管の改善はかなり明確に表れます。「血管の親分」である心臓は確実に小さくなります(心拡大がほぼ消える)。大動脈はかなり老化が進んでいても治療を始めてその進行速度が急速に遅くなるか止まっています。場合によっては改善し若返っていることもあります。
眼底動脈はそれほど明確ではありませんが、やはり少なくとも老化の進行は著しく遅くなるのが分かります。40歳代で相当老化が進行し悪化していた眼底血管が治療開始以後は進行がピタリと止まって20年間ほとんど変わらないこともあります。