血圧とは環境、運動、心理に応じて敏感に反応し劇的に変動するものです。
ヒトは機械と違って同じ血圧を正確に保持するようには出来ていません。まったく反対で、環境変化に応じ時々刻々に変化しながら新しい環境に瞬時に適応するように作動しています。環境に自動適応する素晴らしい能力を備えた極めて高度な超精密自動制御装置なのです。
たとえば血圧を測る時に「高いと嫌だな~!」と考えながら測れば、その心理に応じて脳からの自動調節機構が働きその時の最適な血圧値に自動的に変化ていきます。好きな人に会うとドキドキして赤くなるのと同じメカニズムです。その時に血圧は恐らく高めに自動調整されているでしょう。
家庭血圧測定でよくあるのは最初の値は少し高め、二度目、三度目の測定と徐々に下がって三度目あたりで安定した値になります。どの値も全て正しいのですが最後の安定状態の値を記録に残すようにお勧めします。
注:写真は自動制御論の父と言われる Norbert Wiener 1894~1964
血圧は自動調節機構で支配
血圧は何を見ている?
血圧はデジタルの家庭血圧計、医療用の水銀血圧計、血管に針を刺す直接測定法など、どの方法で測定しても原理は動脈血管の中を流れる血液の圧を測定しています。
では動脈の圧とは何の事でしょう。喩えると水道管の中を流れる水道水の水圧を想像して下さい。水道水を送るポンプが強力で水道管の出口が細ければ水道水の水圧は高くなり、蛇口を開ければ水が勢いよく飛び出してくるでしょう。ポンプの力が同じでも水道管の出口が太ければ水の勢いは弱いでしょう。
血圧は環境や心理に影響される
血圧は心臓が拍出する力(ポンプの力)と血管の抵抗(水道管の出口の太さ)に大いに関係があります。結果として血圧とは心臓の強さと血管の太さで大きく変わるものです。
条件を変える主な因子は、環境(気温、騒音、皮膚感覚、目に見えるもの、聴こえるもの等)、運動、心理(興奮、怒り、不安、ストレス、平穏等)であり、その変化は脳・自律神経を経由して全身に波及します。
大胆に簡略化してお話すれば、血圧とはその時の環境、運動、心理の状態変化に敏感に反応するものです。
無意識で自動調節
血圧は心臓の動き一回ごとに変化しますから1秒単位で変化します。従って何度測っても同じ値が出ることはまずありません。もし同じならそれは偶然です。皆さんが「何度血圧を測っても毎回値が違う。この血圧計は壊れている、間違っている」と考えるのが間違いでそれが血圧の本来の姿です。
ヒトは機械とは違います。同じ値を正確に保持するようには出来ていません。その環境変化に応じ瞬時に体全体が変化し、新しい環境に瞬時に適応できるように作られています。非常に高度な環境自動適応能力を備えた超精密な装置です。
従って環境が変化すれば血圧も瞬時にその環境に合わせて最適な値に自動的に変化しますから、たとえ安静であっても、ほんの少し動いたり、別のことを考えた瞬間に血圧は自動的に調節され、その値は最適目標値に向かい変動して行きます。
心理変化で激変する
心理変化で瞬時に調節される
血圧を測る時「高い値が出ると嫌だな!」と考えて測ると、その心理に応じ体の自動調節機構が作動しますので環境に合わせて最適な血圧値に自動的に変化します。その感情で恐らく血圧は高くなっているでしょう。
好きな人に出会うと心がドキドキして顔が赤くなり手に汗をかいた経験は誰でもあると思います。ドキドキするのは心臓の拍動が強く多くなっています。顔が赤いのは血管が広がり血液の循環が増したサインです。手に汗をかくのは体が緊張状態に入ったことを表します。自分ではまったく気づきませんが瞳は大きく開き、息は少し早く、全身の体毛は立ち、血圧も上がっているでしょう。
心理変化で体は瞬時にこんなに大きく変化しているのです。血圧の値も同じようなことが常時繰り返し起きていると考えて下さい。
「あれっ!、いつもより高い。どうしたんだろう?、もう一度測ってみよう」と再測定すれば、その不安がさらに緊張心理を高め、自動制御機構の作動で無意識に心臓の拍動は早く強く(ドキドキ)なります。血圧は高くなるでしょう。
この悪循環になりますと、血圧を測る度に血圧が益々高くなっていきます。これはすべて不安による自動調節制御機構のなせる結果です。その悪循環の最終像が「高血圧パニック」です。 ◆「高血圧でパニックに」 ストレスや不安で血圧が急上昇
「壊れてる!」と思うほど瞬時に激変
この様にさまざまな状況に応じて血圧は精巧に自動制御されますので、環境、心理、運動の条件変化に応じ測る度に血圧はダイナミックに変動します。その変化は素晴らしく迅速です。一瞬で(一秒で)変わりますから、120mmHgから1分以内には180mmHgにまで上がっても不思議ではありません。
自分の感情や心理変化だけで誘発されたこの激しい血圧変動を患者は理解できません。頭が混乱します。「この血圧計は壊れている!」と思うのも無理ありません。
血圧は安定状態を基準に
記録は安定値を採用する
血圧は心臓の拍動ごとに値が変わりますから何度測っても同じ値が出ることはまずありません。しかしどの値もすべて正しいのです。血圧とはそういう性質のものです。
非常に乱暴な言い方ですが、最初の測定値は少し高い値で、二度目、三度目で徐々に下がっていき、三度目あたりから変化が少なくなり安定するでしょう。どの値もすべて間違いではなくそれぞれ正しい値ですが安定した値になった頃の数値を記録に残すようお勧めします。
しかしこれは数回の測定条件(姿勢、周囲の環境、心理状態など)が同じ場合であって、二度目、三度目で測定条件が大きく変われば(驚いた、不安になった、話しかけられた等)血圧も大きく変化するでしょう。
最近の高血圧学会では二回測定してその平均値をとることを推奨しています。この方法を毎日続けるのは継続性に無理があるように思いますので、慣れれば一回測定でも良いとお話しします。
測定に慣れますと、患者も測り方の要領が分かってきますので一回で十分安定した値が得られるようになります。まだ慣れていない初期の頃や何度も測りたいなら数回の平均値をとるのも良いとお話しします。
そして・・・
高血圧の五部作
血圧は高度に自動制御されている:
◆248 高血圧 測る度に違う。どの血圧が本当か?
高血圧にはハッキリと症状がある:
◆239 高血圧 三大症状
急に血圧が上がる理由は?:
◆080 安定していた血圧が急に上がった その原因は?
薬で下がり過ぎることもある:
◆254 高血圧 薬で下り過ぎると危険ですか?
薬でも下がらない訳は?:
◆064 薬を飲んでも、血圧が下りません
高血圧でも、長生きするなら・・:
◆258 高血圧 それでも、長生きできますか?