理由不明で血圧が上がる
血圧が正常な人も治療中の人も、元々の血圧の値は問わず、何かのストレスや不安がある場合に血圧が上昇することはよくあることです。「いつも血圧は高くないのに、なぜ急に高くなったのか?」と悩みこんでしまう方が少なくありません。
■診察室での高血圧、健診での高血圧など、血圧が高くなってはいけない場面ではかえって緊張し高血圧になることがあります。
■血圧上昇の原因として、緊張もストレスも不安も全く心当たりがないなら、血圧計や血圧の測り方などにその理由があるかも知れません。
■血圧は季節の温度変化に影響を受けて上がったり下がったりするものです。
■表には現われない沈黙の病気が原因の高血圧もあります。こんなケースは当クリニックでは少ないですが、腫瘍、ホルモン環境の異常、頸動脈や腎動脈の狭窄などです。このケースは専門病院に紹介し詳しい検査をしてもらいます。
ストレス・不安でパニック的高血圧
原因を悩むだけでなく、高血圧で不安が加速し繰り返し血圧を測るとますます血圧が高くなりますから、最悪ではパニックに陥ります。
呼吸は荒く、心臓はドキドキ、手足がシビレ、冷汗が出て、非常な体調不良になってしまいます。こんな状況は以前にお話ししました。
パニック的高血圧の引き金
様々なストレスや不安がこのように血圧を上げるのですが、ストレスや不安の原因とは、経験した患者さんでは自分の体調変化からきた「健康不安」が最も数が多いと思います。健康不安とはどんなものか、実に些細な体の変調がその引き金になるようです。
小さな体調変化が引き金となり大きな病気の健康不安に発展します。大きな病気とは、日ごろから自分が気にしていた病気だったり、知り合いがなった最近の重い病気だったり、テレビで見た有名人の珍しい病気だったりするようです。
健康不安からパニック的高血圧の例
最近知人がクモ膜下出血で亡くなりました。その知人は突然の激しい頭痛が起こり救急車で病院に搬入されたのですが手術の甲斐なくしばらくして亡くなりました。
その数日後、自分の頭が少し痛くなりました。知人のクモ膜下出血がイメージに浮かびます。「もしかするとこの頭痛はあのクモ膜下出血の始まりではないか?」と着想します。そこからさまざまな思い込みと空想の世界へ発展します。心臓がドキドキし、呼吸は苦しくなり、先ほどお話ししたパニックのコースに嵌まり込んでいきます。
「もしかすると血圧も高いのではないか?」などと考え血圧を測れば、予想通り180/100mmHg位に上昇しています。「こんなに高くては脳の出血が益々酷くなるかも知れない・・、どうしよう!」と危機的な世界に突入します。その悪循環に入り込みますと冷静ではいられずもうパニック状態です。
「落ち着かなければ、冷静にならなければ・・」と言い聞かせ、次第に落ち着きを取り戻す人もいます。それが分かっていながら悪循環のアリ地獄に落ち込んでしまう方もいます。これがパニック的な高血圧ですが、この経過のお話しは以前しました。→◆「高血圧でパニックに」 ストレスや不安で血圧が急上昇
パニック的高血圧の治療
こんな高血圧の時には降圧薬を飲んでもほぼ効果なく、焦って降圧剤の量を増やして飲むと、パニックが沈静化した後に降圧効果が強すぎてフラフラになり、今度は沈静化後の低血圧に苦しむことにがあります。
パニック的な高血圧の時には慌てて降圧薬を追加するのでなく、パニックを抑え込む抗不安薬を内服するのがよいでしょう。ほとんどの人はこれを一錠飲むだけで15~30分には沈静化します。
このようなパニック的な高血圧は問題が解決すると急速に血圧が正常化しますから、不安で苦しむのはたかだか1~2時間くらいで長時間続くわけではありません。
不安の期間は高血圧も続く
一方、ストレスや不安が長い期間継続するような場合は高血圧も同じく長い期間続きます。たとえばその一例です。
高血圧治療中で何の問題なく管理されている中年女性です。毎年子供の夏休み期間中だけは高血圧が必ず悪化します。それは夏休み中は子供が家にいるため自分の仕事が増えてしまうのでストレスが増えるのだそうです。自営業でもともと多忙な毎日なのに、子供のために更に多忙になるからだとその人は話していました。それがストレスになり血圧を押し上げるようです。
夏休みが終わると見事に血圧は正常に戻ります。このような場合はパニック的高血圧とは違いますので、いつもの血圧120/70mmHgが、夏休み中だけコンスタントに140/80mmHgになる程度の穏やかな上昇が普通です。
期間が短ければ患者さんも薬の増量は希望しませんが、上昇の程度が強く期間も長期化することが予測される場合は薬を増量することがあります。