若い時から高血圧。無治療40歳代男性
長年高血圧があるのですが、いたって元気に仕事を続け生活してきました。自分では血圧が高いと言われる以外、なに不自由なく健康で疲れを知らず人一倍仕事も運動も出来ました。
血圧が高いといろんな問題があり体に悪いとは聞いてますが、これまでは全く問題なかったので、気になっていましたが治療せずそのままで25年以上来てしまいました。
最初に高かったのは高校生の時で130mmHgくらいだったでしょうか。会社に入ってからの毎年の会社検診では最初から高く、20歳代の時は140~150mmHgでしたが、40歳過ぎの今では検診で180mmHgくらいになります。
今年の会社検診では200mmHg 以上もあったので、さすがに病院で調べなければと思い始めて来院しました。これまでの会社検診ではコレステロールが高いと言われた以外、レントゲン写真も心電図も異常と言われたことがありません。
3つの可能性
この様な患者がたまに来院します。若い時から高血圧だと分かっていたのですが、自分は本当は健康だと思っていたので血圧の治療は全くしてこなかったようです。検診でも高血圧以外たいした異常も指摘されていません。
このような人をどう考えるか悩まされるケースです。この様なケースには少なくとも3つのタイプがあると思います。
1) 若年性高血圧、無治療
第1番は若年性の高血圧であり、検査すると心電図や胸のレントゲン写真で既に長年の高血圧のため心臓と血管が実年齢以上に変化しています。長年の高血圧による血管障害と考えてよい明らかな所見を伴う場合です。
普通の高血圧とは違いますから、高血圧の専門病院で詳しい検査をしてから高血圧治療を開始します。
しかし今回の患者が若年性高血圧なら、高血圧の症状がない、検査に異常が見つからないのが矛盾します。
本物の高血圧患者であれば治療を始めて高血圧が正常になった時、体の状態や症状を確認するとほとんどが楽になったと答えます。「症状は何もなく健康だ」と話すのは実は高血圧の症状に気付いてないだけです。→◆高血圧には隠れた症状があるが、治療で消える
2)白衣高血圧
第2番のケースは判断が少し厄介です。検査でも心電図に異状なく、胸部のレントゲン写真でも心臓は若干大きいですが、大動脈の血管もほぼ問題なく年齢相応、眼底検査でも小さな細い血管は比較的きれいな場合です。
20年以上にわたり中程度以上の高血圧が継続してきたとはとても考えにくいようです。こんなケースは悩みます。
想像ですが、この患者は血圧が20年以上まったく正常であったとは思えませんけれど、150~200mHg位の高血圧が長年続いていたはずはないと推測します。そんな状態で心臓や血管が正常に保たれているはずがないからです。
ごく稀にホルモン異常などの特殊な病気も確認しておく必要はありますが、この患者ではそれらも正常でした。
この患者は繊細な感情の持ち主で無意識に緊張しやすい性格です。血圧を測るとそれだけで緊張のため高くなってしまいます(白衣高血圧)。測り終えると血圧は正常近くに戻ります。
血圧を測るその時だけ一時的に非常に高くなるのですが、測らない時は高くないのが実際の姿だと推測します。その時の真の値は決してわかりません。
本人に確認しますとかなり神経質な性格であることを認めます。真の血圧値を確認するには24時間血圧を測定し続ける装置の検査をすれば分かるかもしれません。
この患者は年齢とともに140mmHg~200mmHgへと上がってきていますから、血管の変化は進行していると想像します。諸検査が正常に見えてもそろそろ血圧の治療を考えても良い時期ではないかと考えます。
3) 若年性高血圧と白衣高血圧の混合
第1と第2のケースの混合型です。若年性高血圧で若い時から高いのですが、実際は血圧計で測った値ほど高くはありません。若年性高血圧タイプであっても、検査の時だけは異常といえるほど更に高くなってしまう白衣高血圧も合併した混合型です。
ここで提示したケースは、恐らく2)に相当すると思います。ただ単純な白衣高血圧ではなく加齢とともに普通の高血圧も加わってきたと推測されます。
潜む背景も大切
これほど極端な場合は少ないですが、患者の性格によって測る度ごとに血圧が大きく変動すことはよくあることです。
この現象を見落としていると、本当はそれほど高くないのに診察室だけで高い血圧の患者に強い降圧剤を処方してしまい、薬を飲むと低血圧となりふらふらで調子が悪くなってしまいます。
薬を飲むと気分が悪いため患者は薬を飲むのが怖くて嫌になります。医師に無断で薬を中止したり来院しなくなります。また薬が合わないと感じ病院を変えることもあるでしょう。
まとめ
実際の高血圧の治療は様々な多因子の総合判断で進みますが、血圧を測って数値だけから機械的に薬を処方するという単純作業ではありません。
高い血圧の裏に潜むいくつかの要因を考慮しながら治療しますが、患者の性格は血圧にとりわけ大きな影響を与えますので、この要因の考慮を決して忘れてはいけません。
繊細な神経の方は、気分をゆったりして血圧のことをあまり考えないようにしましょう。