元気な超高齢者
長い間診療してきた患者さんが超高齢(85歳以上)となり、配偶者にも先立たれ一人暮らし(または夫婦二人だけ)では生活が少し大変かなと感じる人が増えました。しかしそんな患者さんも何人かは気丈に自立した生活を維持しておられ定期的に通院しています。
元気に通院される超高齢で85歳どころか90歳代の人も少なくない数います。しかし完全な一人暮らし(または夫婦二人暮らし)ではなく、定期的に息子さんや娘さん等が様子を見に来て、自立生活できるようにと何くれと身の回りを調整しているようです。診察しますと会話は問題なく成立します。この年齢でお元気に生活されて立派なことと感心します。
子と同居する。施設に入所すると・・
ある時、一人暮らし(夫婦二人暮らし)を心配する息子さんや娘さんからの提案で、そんな親を自宅に引き取り一緒に生活することになります。
この提案は決して悪い話ではないので、そろそろ自分の生活に自信がなくなった患者さんも受け入れ易くお子さんの所帯に引っ越します。
新しい家から当院に継続して通院される場合もありますが、それを機会に引っ越してその後はお会いする機会もなくなってしまいます。
しばらくして、別の患者さんからその患者さんの消息を聞き患者さんは亡くなられたことを知ります。当院を離れて数か月から2~3年くらいでしょうか。
同様に、一人暮らしで元気に通院されていた患者さんが施設に入所する場合があります。施設に入ると当院には通院しなくなります。こんな人も入所してから亡くなられるまでの時間が短い場合があるように感じます。
依存する生活は老化を加速する?
いずれの場合も、子は年老いた親の事情を考え良かれと思い自宅に引き取ったり施設に入所させるのですがそれが逆の効果になったようです。
それまで苦労しながら何とか一人(夫婦)暮らしで頑張ってきたのに、上げ膳、据え膳の楽な生活になって、家の中で何もせず、何も考えず、何も悩まない生活になります。恐らくこの何も考えない悩みのない安穏な生活が老衰を加速するのかも知れません。
既に高齢ですからそのままの生活でいてもそれだけの寿命であったかも知れませんが、何人もの患者さんのケースを観察しているとやはり他者への依存生活は寿命を早めるような気がします。
人間はいつまでも考えたり悩んだり散歩したり買い物に出かけたり近所の人と茶飲み話をするなど、人間としての社会性を維持することが大切なのでしょうか。この社会生活がほとんど失われると、脳機能の劣化が早く進み生命力も急速に落ちてしまうのでしょうか。
強い生甲斐がある人は超高齢でも元気
反対に、自分の子に何か障害があってその子の面倒を見続けている超高齢の場合は多くの場合に驚くほど元気なのです。
年齢から信じられないほど生命力が充実しています。障害のある子(既に高齢の場合が多い)のために生き続けなければならない、その自覚が自分の生存への強い励みになっているのかもしれません。
自立生活が保てるよう支援する
私たち内科医の仕事は、体の内科的状態を常にベストなコンディションに調整し続けることです。生甲斐や気力や社会的な刺激を与えることは出来ません。これは患者さんが自分で維持しなければなりません。
年老いた親の孝行のため子は十分な世話をしてあげるのですが、場合によってはそれが親の生甲斐や気力を失わせることになり、生命力が急速に消えていくことになる場合があるのです。
そのようなケースを幾つか見てきました。本当の親孝行とは何かは難しい問題ですが「親孝行のつもりが親不孝になる」場合が稀ではないのです。
しかし子が親を引き取った後もそのまま元気に生活を続ける場合もあります。全員が同じ結果になるわけではありません。