「良い」病院や「良い」医師とは
「良い」病院や医師とは患者の個人的価値観で意味が変わります。それを一般化してすべての患者にとって良い医師や良い病院のお話しをすることは出来ません。私から見た「良い」について明確にしておきましょう。
無料で診てくれる、代金を割安にしてくれる、サービスしてくれる、待たずにすぐ診てくれる、コンビニの様に24時間いつでも診察してくれる、現在社会の医療供給システムから考えて対応困難な条件等を「良い」基準にするなら無い物ねだりです。
また何を言っても怒らない断らない、話が面白いなどは患者から見て大切な条件かも知れませんが、医師の診療技術とは必ずしも関係ありません。
有名病院や有名大学の院長や教授、有名病院の有名医師という条件を「良い」と判断する方は、以下を読んでも参考になる情報はありません。おやめになって下さい。
多くの患者の診療経験から学んだ私の患者が話す「良い」医師や病院について話します。自分の家族を案ずるが如く愛情を持って患者に接し、患者の不安や苦痛を解決するために自分が出来る限りの最善の努力で診療し、患者が期待する以上に医師としてなすべきことをする、臨床経験豊富で的確な診療技術を持った医師。そんな医師が多く集まって患者中心の方針で組織的によく運営されている病院を「良い」と想定します。
これはかなり理想に近い医師像や病院像だと思いますが、それに近づこうと意欲的に努力している医師や病院も「良い」に含めます。
患者の病院評価
長く診療している患者から、どこの病院がいいかとよく尋ねられます。そんな時は自分がよく知っている病院や医師を紹介しますが、専門医を知らない時や地域が離れているような場合、お勧めする先生がいないことがあります。そんな時でも患者が私のアドバイスを是非と話される場合は病院や医師を探すヒントを伝えます。
私の長年の患者が診療中に、自分が通院する病院や医師の不満や満足をそれとなく話す場合がよくあります。患者が病院や医師の選択を間違ったなと思う時もあります。患者の病院や医師選択でたくさんの成功や失敗例を聞きますと、多くの患者が満足する病院や医師の上手な選び方とはどんなものかが徐々に分かってきます。
今日はそんな経験から、どのような病院を選び医師を選べば失敗が少ないかを私の個人的な考えも加えてお話しします。
病院選びの本質は医師選び
どんな病気であれ特殊な病気でなければ、選ぶのは病院ではなく医師であるという事です。何百人の医師がいる大病院であってもあなたを外来で診察するのはたった一人の医師です。外来の担当になった医師を不満だからといって次々と交換するのは、不可能ではありませんが、現実にはなかなか出来ないことです。ただし大学病院では年に一度の医師の入れ替えや移動があったりしますから、そのチャンスで医師交代となるかも知れませんが講師クラス以上なら交替は極めて少ないでしょう。
多くの患者はこの視点を見落とします。大きな病院なら設備も含めて全ての医師が良い医師だと漠然と解釈しているでしょう。大きな病院の良さは一人の医師で診療するクリニックより設備以外にも優れている点がたくさんあるのは間違いありません。
しかしそれなりの欠点や問題点があるのも事実です。どのようなタイプの医療機関を選ぶとよいかは病気の性質で判断が変わります(最後の参考情報を参照)。また組織としての医療機関の良し悪しと医師個人の良し悪しは区別して考えなければなりません。
医療機関のタイプではなく医師個人に限定するなら、医療機関の規模が大きいほうが「良い」医師と出会う確率が高いとは限りません。ただしこの「良い」という意味が大切です。
「良い」医師は診療技術と相性の両面で
長年外来で診察を受ける医師の「良し、悪し」は、医師として診療の専門技術の優劣が重要なのは当然ですが、それと同じほどに患者の人生観や価値観と同じ立場で診療してくれるかどうかも大切です。この二面で自分にとっての医師の良し悪しを判断するのが良いと思います。
医師の診療技量の優劣は診察を受けても患者にはなかなか分かり難いものです。そして私もそれを簡単に見分ける方法をお話しすることはできません。
ただしハッキリ言えるのは、大学病院、大病院、個人クリニックとの比較で医師個人の診療技術に基本的な大差がある訳ではないと言うことです。これを誤解している患者が多いと思います。
家族知人の推薦、街の評判、主治医の推薦
私の長年の経験から医師の技量の評価方法を挙げるなら、最も信頼性の高い情報は、家族知人などの身近な人達からのクチコミ情報と言えるでしょう。全く月並みなお話しでガッカリしたかも知れませんが、すべての評価因子を包含した臨床医の最終評価としてこの身近な人達のクチコミに勝る情報はないと思います。
ただし複数の人達からのクチコミ情報です。一人だけならその人の好みがありますから判断に偏りがあるかも知れません。いわゆる「街の評判」がその点でかなり妥当な評価だと思われます。
私の患者が他の病院で診察を受けた場合、患者から得られるその医師や病院の評価を大いに参考にします。これまで多くの患者からそんな情報を得ることが出来ました。私の患者は常識的に正しく判断できる方ばかりですから、その評価や判断はほぼ間違いないと考えます。
その医師の診療内容や言動を患者から聞けば、そこから医師でなければ分からない医師の診療技術レベル、診療哲学、患者への接し方が透けて見えます。同じく私自身も他の医師からそのように評価されているはずです。
医師はお互い静かに厳しい眼で相互にその技量を評価しあっています。信頼する主治医が推薦する医師や病院ならほぼ大丈夫と判断してよいでしょう。
一方、マスコミ情報、出版された雑誌や本の記事は、医師や病院評価のための客観的で多面的な情報はあると思います。しかし記者が患者となって医師の診療姿勢や技量を評価したわけではありませんから、患者の立場からの本音の声は期待できないでしょう。
相性:医師選択のもう一つの重要な側面
医師が病気を診るのは当たり前ですが、ただ病気だけを診ているわけではありません。その患者の人生観、価値観、生活の嗜好、生活程度、社会的状況、家族関係など、生活する人間としての全体像を常に観察しながら長年の診療を続けています。
患者と全く異なった人生観や価値観の医師であれば、短期間なら表面化しませんが、長期にわたる診療では医師と患者の関係で問題が表面化してくるかもしれません。例えば、少数だと思いますが、患者に対する人間としての思いやりが欠如した医師がいるのも事実です。
私は医師患者関係の相性と言ってますが、それはあたかも会社の上司部下の関係、恋人関係、夫婦関係の相性に似ているかもしれません。ピタリと合えば円満に運ぶのですが、全く違うと悲劇的なのは同じです。どちらが悪いかの問題ではなく二人の組み合わせ、相性が悪いのです。
相性が悪ければ変える
医師患者関係のこの相性はしばらく診察を受ければ患者にも分かると思います。もし医師にしっくりこなくてギクシャクしたものを感じるなら、それは相性が悪かったと思わざるを得ません。
そんな時は思い切って主治医を変えることを決断してよいと思います。相性が悪い時は医師も同様に感じているはずですから、患者が自分の意志で変えるのは医師から見ても悪い事ではありません。相性の合わない主治医を変えることに遠慮はいらないと思います。
もしあなたが珍しい病気でその分野の専門医が地域ではその医師しかいない場合、医師との相性が悪いとしたら誠に残念と言わざるを得ません。何とも申し上げられません。
慢性で長年通院する良い医師とは
急性の病気(一過性の風邪など)で数回しか診察を受けない医師患者関係ならそれほど問題にならないでしょうが、長年にわたって診察を受け続ける慢性の病気(心臓病、肝臓病、高血圧、糖尿病、喘息、脳卒中など)では、是非この医師患者関係の相性を考慮して下さい。
相性が合う医師こそあなたにとって良い医師なのです。相性ですから患者毎に「良い」医師は異なります。万人から好かれる人はいないように、万人に良い医師は存在しません。あなたにとっての良い医師を見つけてください。それは良い結婚相手を見つけるように偶然の出会いかもしれません。
相性が合う医師と生涯健康な人生を
あなたにとっての良い医師は、決して大きな病院だけにいるわけでもなく、小さなクリニックにいないわけでもありません。病院の規模や外観や医師の見た目や話し方で決まるわけではありません。
良き結婚相手が見た目や話し方やどこの会社に勤務しているかで決まるわけではないのと同じです。個人的な偏見や先入観を持たず医師とじかに接し自分の目で相性の良し悪しを判断して下さい。
見つかったら良い医師患者関係を築き医師の支援を得て生涯健康な人生を実現して下さい。どの医師もあなたの良き健康アドバイザーとして生涯にわたり最良の診療をしてくれるでしょう。
私が言うのもおかしいですが、例外はあっても多くの医師は誠実です。生来の誠実とは限りませんが、多くの医師は仕事を通して徐々に誠実な人柄に成長していくのではないかと思っています。医師の技量と相性の二つの側面で自分にとって良いを判断して下さい。
参考情報:医療機関選択の一般的な基準
医療機関の選択には一般的に幾つかのポイントがあります。ここでは良い悪いの評価基準は加味しません。
1)何の病気か既に分っているか、何の病気かよく分からないか
2)よくある病気か、珍しい病気で専門的な病気か
3)急性の病気(急に症状が出て今つらい)か、慢性の病気(長く患っている病気)か
4)重症か、軽症か
こんな条件で医療機関の選び方が変わってきます。どの組み合わせならどの病院がいいとすべての組み合わせでお話しすることは出来ませんが、自分が病気になった時、受診する病院を考える際にまず整理してみて下さい。
1)何の病気か既に分っているか、よく分からないか
もし目が痛ければ眼科、耳が痛ければ耳鼻科、怪我をしたのなら外科か整形外科、皮膚病なら皮膚科と、すぐに分かるようならその病気の医療機関に行くでしょう。
一方何の病気かわからなければまず内科を選んでください。内科医は自分の領域外ならその病気の適切な病院を誘導してくれるでしょう。
患者を他の医療機関によく紹介する内科医は能力が低いからではなく、良心的な診療をしている可能性が高いと思います。
2)よくある病気か、珍しい病気や高度に専門的な病気か
珍しい病気や専門的な医療が必要な病気で困っているなら、それを専門にする医療機関を選ぶのがよいでしょう。自宅から少し遠くてもその医療機関を選ぶのがベストです。大学病院や総合病院や専門診療クリニックになるでしょう。
3)急性の病気(急に症状が出て今つらい)か、慢性の病気(長く患っている)か
慢性の病気(高血圧、糖尿病、喘息など長く治療を続ける必要のある病気)なら、その医療機関とは長いお付き合いになりますから自宅から遠くない地域の医療機関でその病気の専門医がいいでしょう。あとの選択の基準は自分と相性が合うかどうかです。