若い人のうつ病の原因
うつ病とは当クリニックでもありふれた病気であることは前にお話ししました。学校や仕事のストレス、大きな病気(癌や大きな事故など)、離婚、失業、配偶者を亡くするなどが契機となってうつ病を発症することは珍しくありません。これらは比較的若い方に起こる原因です。→◆054 うつ病はよくある病気。内科の病気や更年期障害と間違え易い。
高齢者うつ病の原因は若い人とは違う
しかし高齢者ではうつ病の原因が若い方のそれとは様相が異なっているように思います。もちろんそのようなことも原因になるのですが、高齢者には特有な原因が別に存在するのです。
そしてそれが比較的見落とされがちなのでこの病気の高齢者を治療せずに放置し結果的に長く苦しむことになります。
ちょっとした病気が切っ掛けでうつ病に
高齢者うつ病の一番の特徴は、自分の「ちょっとした病気」が切っ掛けになって、うつ病やパニック状態に陥ってしまうことです。これは若い人には想像できないかも知れませんが、高齢者では決して珍しいことではありません。
この原因は、当クリニックでは高齢者に普通に見られる現象です。そんな時は血圧も異常な高値になることが多く、脈は速くドキドキしすることも珍しくありません。
不安のためか特に血圧は非常に高く持続することがあるので、患者さんや家族もこの高血圧を心配して当クリニックを受診し、その隠れた本当の原因が発見される場合があります。
ちょっとした病気のことが切っ掛けになって、高齢者がうつ病やパニック状態に陥ってしまうケースを紹介します。
1)社会的に活発に活動していた人が・・
それまで健康で社会活動も十分にされてこられた高齢者が、一度何かの病気になった場合(それも大した病気ではなく些細な病気であったとしても)、そのことで急に自分の体力に自信がなくなり、自分の将来を不安視したり、これで自分の寿命が来たのかと悲観的考え込んだりしてしまいます。
このことを毎日繰り返し考え込んでいますと、しばらくしてうつ病に落ち込んでいきます。
うつ病になりますと意欲がなくなり無気力になります。長く打ち込んできた仕事に対して気力が消えてしまいます。大好きだったことにも全く興味がなくなります。生きがいだった仕事に驚くほど無関心になり、毎週何度も欠かさず行っていたカラオケ、ゴルフ、趣味の会などにも全く行かなくなります。
家族から見て、何かおかしいと心配してしまいます。
2)一人暮らしの人が・・
もう一つのケースは、一人暮らしの高齢者によく見られパターンです。
ほんの些細な病気のことなのですが、若い人には信じられないほどそのことで悩み苦しみ不安を感じ、自信を喪失してしまいます。
特に深夜になると一人暮らしのため、その不安が一気に高まって、発作的にパニック状態に落ち入ってしまいます。パニックになった結果、親族や親しい人に電話をして、深夜に病院の救急外来へ行くことになります。診察の結果はほとんどが気のせいとか、何でもないとかで決着をつけられて帰宅しますが、本当の問題は解決されたわけではないので、こんなパニック発作が繰り返し深夜に起こります。
その度に病院の救急に駆けつけることになります。本人は原因がある程度分かっているのですが、パニックになった時にはどうしようもなく辛いのです。助けを求めるのです。
3)友人の病気で自分の老いを自覚させられ・・
親しかった友人・知人や家族の変化から、老化した自分の現実を知らされた場合です。
自分の老化の現実を見せつけられたように感じるのだと思います。これもうつ病の大きな原因になります。家族・友人・知人が認知症になった、癌になった、亡くなった、老人施設に入ったなどを知り、大きな精神的ストレスを受けてしまいます。
自分の老化の現実認識のストレスは若い方には想像できない大きなものです。それを契機にうつ病に落ち込んでいきます]。