五つの種類
よくある心臓の病気、5種類をやさしく解説します
●不整脈:正確な拍動リズムに乱れ
●冠動脈疾患:栄養を送る血管に劣化
●心臓弁膜症:心臓の弁が不調
●心筋障害:心臓パワー源の筋肉に傷み
●心不全:ついにパワー不足になった!
冠動脈疾患(虚血性心疾患)
心臓に栄養を送る血管が劣化
心臓が生きていくために必要な栄養は血液からもらいます。心臓へ血液を送りこむための血管を「冠動脈」と言います。この冠動脈は心臓の周りをぐるりと囲むように張り付いています。
その血管の病気を冠動脈疾患と言います。たとえると水道管や下水道管が長い時間で劣化して、管内にこびり付いたゴミやヘドロで管の内腔が狭くなった状態と似ています。
血管の老化現象ですから本来は老化が進んだ高齢者層におこる病気です。しかし最近はより若い年代におこり、中年やもっと若い年代の患者が増加していることが問題です。
病気としては狭心症とさらに進行し重症化した心筋梗塞の2つがあります。症状はどちらも胸の痛みや圧迫感ですが個人差が大きく様々です。
■狭心症
冠動脈の内腔の一部が老化や劣化で狭くなってしまいました。血液が円滑に流れない状態です。狭心症は大別すると3種類あります。
1)代表的な、労作性狭心症(狭心症と言えばこのことです)
2)安静時の、異型狭心症(安静型狭心症や冠れん縮性狭心症とも言います)
3)女性に多く注目されている、微小血管狭心症
詳しい解説 > ◆117 女性に特有で、診断つかず不安が長びく心臓病:微小血管狭心症
この3タイプの違いは大きいですから、狭心症の可能性があるなら区別をよく理解して下さい。別のコラムで詳しくお話ししました。
■心筋梗塞
冠動脈の一部が老化で狭くなって血液が円滑に流れなくなった狭心症の状態から血管の劣化が更に進行し、完全に詰まってしまいました。完全に詰まった場所から先は血液が完全遮断され、数時間後にはその筋肉細胞は死滅してしまいます。その病気が心筋梗塞です。
狭心症から進行した病態で、狭心症より危険です。狭心症で命を落とすことは稀ですが、心筋梗塞では統計的に10人に1人が命を失うと言われています。命に関わる病気ですから、狭心症なら絶対に心筋梗塞にまで進行させてはいけません。
狭心症の段階で見つけて十分な治療と対策をすれば心筋梗塞へ行かずに済むでしょう。その対策はここで詳しくお話ししました。
詳しい解説 >◆168 狭心症から心筋梗塞に! 行かせない生活スタイル
■病気・症状の詳しい説明
特集:狭心症・心筋梗塞 症状・治療・リスク
心臓弁膜症
心臓の弁に不調
心臓は拍動して血液を全身に送り出しています。そのために心臓には4つの弁が配置されています(大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁)。この弁のおかげで血液が全身を逆戻りするようなことはありません。この心臓の弁が故障した状態を心臓弁膜症と呼びます。
弁がうまく閉じなくて血液の一部が元に戻ってしまう病気を弁の閉鎖不全症、弁の開放が不十分で血液を前方に送り出しにくい病気を弁の狭窄症と言います。4つの弁すべてこの二通りの病的状態が起こります。
最近この病気は高齢者でよくみる病気となりました。原因はやはり老化です。多くの心臓弁膜症は70歳以上の高齢者に見られます。定期的に病院に通院していない高齢者なら、病気がかなり進行しないと気がつかず見つかった時には相当に重症ですぐに手術が必要ということもあります。
若い人にこの病気はほとんどなくなりました。もしあれば珍しくて特別な原因と思われます。
■大動脈弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症
4つの弁のうち、最も大切な大動脈弁にその異常があります。
■僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症
大動脈弁に次いで大切な僧帽弁に異常がおこりました。
■三尖弁閉鎖不全症、三尖弁狭窄症
三尖弁という名前の弁に異常があります。
■肺動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁狭窄症
肺動脈弁という弁に異常がある病気です。
心筋障害・心筋症
パワー源の心臓の筋肉に傷み
心筋症とは、心臓のパワーの源泉である心臓の筋肉そのものに何かの障害がおこった病気のことです。心臓の筋肉は元来非常に丈夫で簡単にはダメになりません。
母親の胎内にいる時から動き始めて、百歳くらいまでの一生を、1日に10万回以上も動き続け、1日どころか5秒さえ休まず延々と動き続けることが出来るのです。心臓はこんなに丈夫な臓器です。そんな心臓の筋肉に異常がおこったのが心筋症(心筋障害)です。
病気は原因が分かるものと分からないものがあります。分かる原因で最多は「高血圧」か「心筋梗塞」でしょう。高血圧は心臓の筋肉に悪い代表格で「悪玉横綱」と言っていいでしょう。「血圧が高くても健康だ。どこも悪くはない。だから血圧の治療は必要ない」と豪語される方がいます。その方の人生観ですからご自由ですが、そんな方は恐らく高血圧の本当のタチの悪さを知らないのだと思います。
■高血圧性の心肥大、心臓弁膜症の心筋障害
心臓の筋肉がダメになる原因として、最多は高血圧でしょう。血圧が高いと心臓の筋肉に大きな負担となります。長年この負担が続けば心臓の筋肉は回復できないほど疲れ切ってしまうと考えて下さい。その治療は簡単です。降圧薬を飲んで血圧を正常にまで下げることです。
高血圧と較べれば遙かに数は少ないですが、もう一方は心臓弁膜症です。心臓弁が不調であるため長年月にわたり心臓の筋肉に負担がかかり続けます。
どちらの病気も長い時間をかけて心臓の筋肉の障害が重くなっていきます。心臓弁膜症では、筋肉を守るために、重い筋肉障害となる前に傷んだ弁を交換する手術を医師から進められるでしょう。交換すれば筋肉の損傷はそこで停止します。
正確には、これらの病気を心筋症とは言いませんが、理解のために便宜的にここでお話ししました。
詳しい解説 >◆060 高血圧でも、治療を希望しない人って?
■心筋梗塞から、虚血性心筋症へ
心筋梗塞で心臓の筋肉が大きく損傷されます。これも心筋症とは言いませんが、実質的には心臓の筋肉の高度な損傷ですからここでお話しします。
心筋梗塞になれば、その瞬間に心臓の一部の筋肉はダメになってしまいます。治療しなければ数時間でその筋肉はほぼ完全にダメになります。高血圧なら、数年の時間をかけてゆっくりと障害が進行するのですが、心筋梗塞は発症した数時間で筋肉は完全にダメになるのです。ここが高血圧とは全く違う点で恐ろしい病気なのです。
たとえ心筋梗塞が軽くてダメになった筋肉が少なくても、軽い心筋梗塞を何度も繰り返せばダメになった筋肉は増え、そのうち心臓の筋肉の大部分がダメになります。心臓は生きていくために必要な力を出せなくなるでしょう。この段階まで筋肉のダメージが進行すると、虚血性心筋症といいます。
心筋梗塞は繰り返さないことです。狭心症発作さえ起こさないことです。それが心臓を守る最大の治療です。基本は狭心症でお話ししたことと同じです。ここでまとめました。
詳しい解説 > ◆168 狭心症から心筋梗塞に! 行かせない生活スタイル
■ウイルス性心筋症(感染後の心筋症)
ウイルスの感染よっておこった心筋の障害です。ウイルス感染症とは分かりやすく言えば風邪です。ただの軽い風邪ですが、その感染したウイルスが同時に心臓の筋肉にも悪さを働き心臓の筋肉をダメにしてしまいます。最悪では、急速に重い心不全になるかも知れません。
この病気はおこった時に心臓の筋肉にかなり強いダメージが加わりますが、数年単位の時間でゆっくりと筋肉が回復していくこともあります。心筋梗塞などと違ってかなり回復可能な病気といえるでしょう。
■拡張型心筋症、肥大型心筋症
このタイプの心筋症は原因不明です。しかし幸い病気がおこる頻度は非常に少ないのです。
大きく分けてタイプは二つあります。「拡張型心筋症」と「肥大型心筋症」です。この病気の原因はともにまだ正確には解明されていません。治療法も十分に確立されたとはいえません。病状は長い時間をかけてゆっくり進行していきます。
心不全
心臓が、ついにパワー不足となった!
心不全とは、何かの心臓病から引き起こされた心臓のパワー不足で、全身の循環不全となった状態です。心臓のパワーが大きく低下して出力不足となり、全身への血液供給が不十分で、全身の代謝活動が低下させられます。
心不全の原因となる心臓の病気はたくさんあります。最近の数が多い心臓病を取り上げます。
詳しい解説 > ◆266 心不全とは? 誰でもわかる、例え話で説明
■心房細動:心拡大が進行した
高齢化社会になり、心房細動は増加の一途だと思います。心房細動は心不全になる確率はかなり高く、更に患者数は増えていくと予想します。
きちんとした医学的管理をすれば病気の進行を少しでも遅らせることは可能です。無症状だからといって放置するのが最悪です。
■心筋梗塞:心筋障害が拡大、進行した
心筋梗塞で心臓が大きく広範囲に損傷されれば心不全は必発です。心筋梗塞の重症度にもよりますが、心不全にならない人も多いと思います。狭心症なら普通は心不全にならないでしょう。
■高血圧:心臓が強く肥大から拡大へ
高血圧を長期間無治療で放置していますと心臓の筋肉が肥大します。それでも治療しなければ最終的には肥大した筋肉はダメになっていきます。そうなった時では心臓の筋肉全体の力が落ちてしまい、心不全が症状として表れてきます。予防は降圧薬を内服し血圧を十分に下げておくことです。
■心臓弁膜症:強い心筋障害に
高齢化の波で増えている病気です。弁膜症が重症化すれば心不全は必ず起こります。軽ければ心不全は起こりませんが、病気が進行して心不全となれば、最終的には弁の交換手術が必要です。
心不全症状が出てくる前に、弁の交換手術をするのが理想です。患者さんは高齢者が多く手術するか否かは年齢や活動レベルなどで決まるでしょう。最近は手術をしない、新しい弁の修復技術が開発されつつあります。