はじめに
急性心不全とは、それまで平穏に生活していた人の心臓に突然重大な故障がおこり心臓のパワーが一気に大幅にダウンし生命の危機に陥る状態です。これには二つのパターンがあります。
第一は心臓に病気が潜んでいたのにそれに気付かず治療をしなかった人です。日常生活は一見普通でしたが、ある日突然病気が表面化(発症)し、一気に重症心不全になったケースです。
第二は心臓に病気があり既に心不全予備軍であった人です。心不全の対応も治療もしていたのですが、何かの理由で急に病気が悪化して重症心不全に陥ったケースです。
この二つはともに急性心不全と言っても、事情を知らない一般人には病気の発症の仕方が全く違ったように見えるでしょう。
1)心臓病に気づかなかった人
多くは急性心筋梗塞
このタイプの最もありふれたケースは、健康な人にある日突然発症した(ように見える)急性心筋梗塞です。
元気で何の病気もないように見えた人が、ある日突然急性心不全になり命が危ない状態になったと聞かされます。当事者本人もこれまで元気で自分がそのような病気の予備軍だとは夢にも考えなかったことでしょう。
周囲も驚く急変だった!
事のきっかけは、血管内腔が詰まる直前にあった冠動脈(心臓の栄養血管)の一本が、ある時ついに完全に詰まってしまったのです。完全閉塞のきっかけは多分何気ない事でしょう。恐らく何かをしたからではなかったと思います。その背景には重いストレスが長く続いていた状況が最も可能性があると思います。
冠動脈が完全に詰まった瞬間、胸の激痛と血圧の急激な低下で全身状態は急変します。真っ青な顔、全身玉のように噴き出す汗、強い全身倦怠感、吐き気等で「死ぬかも知れない」恐怖感に襲われるでしょう。
救急車で大病院の救命救急センターに運ばれ、急性心不全と完全閉塞した冠動脈の治療の両面から緊急治療をする事になります。
虚血性の急性心不全
以上が一見健康に見える人にいきなり起こった急性心不全の典型例です。この急性心筋梗塞をきっかけに起こった突然の心不全を虚血性急性心不全とも言います。
急性心筋梗塞の悲劇を避けるには、日常生活改善と前兆症状を見逃さず早めに治療を開始する事です。 ◆290 狭心症・心筋梗塞 前兆・超早期の発見は、静かな症状に注目!
虚血性以外の急性心不全
急性心筋梗塞以外の原因では、急性心膜炎、急性ウイルス性心筋炎、解離性胸部大動脈瘤、などがあります。しかしこれらの病気は相対的に数が少ないと思います。
2)心不全予備軍で治療中の人
病気が悪化し重い急性心不全に
このケースは心臓の病気が既にあって治療中の人です。心臓のパワーはかなり低下しているので、何時でも心不全となる可能性がある状況です。これを心不全予備軍と言いましょう。これまで時々軽い心不全に何度かなった事があるかも知れません。
こんな慢性の心不全予備軍の人が、何かのきっかけで急に重い心不全に襲われる事があります。そのきっかけは様々ですが、当院の経験では患者の水分摂り過ぎが最多の原因です。
心不全予備軍では心臓がかなり弱っているので、十分な薬剤治療と同時に厳しい飲水制限をしなければなりません。当院の患者の場合ですが、
それまで長く実行してきた厳しい飲水制限を、ある日突然止めてしまいました。そして数日後には重症の急性心不全となり救急車で自宅から大きな病院の救命救急センターに直行した例をお話ししました。 ◆310 水分制限を中断 それだけで重症心不全に!?
この様にパワーの衰えた心臓が、ある時急に重い急性心不全となる理由はいろいろありますが、それを一言でまとめるなら弱った心臓に何かの「重い負担」が加わったことです。
心臓にとって「重い負担」とは何か、別のコラムでそれを詳しく話しましたが、高血圧、過剰な飲水や塩分摂取、重い労働、強いストレス、高熱の感染症等です。 ◆125 心不全の治療 その原則は心臓をいたわることです
元々あった心臓の病気が悪化した
元々あった心臓の病気が悪化すれば、心不全予備軍の人が突然に重い急性心不全となります。心不全予備軍の心臓病なら、全てそうなる可能性が常にあります。たとえば、
高血圧性心肥大、心房細動、不整脈の一部、心筋梗塞、心臓弁膜症、拡張型心筋症、肥大型心筋症などが急性心不全の予備軍となります。
心筋梗塞になってしばらく後に繰り返しておきた心筋梗塞で急性心不全となるケースは決して少なくないでしょう。
虚血性の急性心不全
過去に狭心症や軽い心筋梗塞になって治療中の人です。それなりに安定しているように見えても、その人の冠動脈に再び狭窄や完全閉塞が繰り返しておこることは珍しいことではありません。
例えば、(1)以前心臓カテーテル治療で拡げてあった冠動脈の一部の血管が、再び狭くなってついに完全閉塞した、(2)前回の心筋梗塞後の冠動脈病変以外の場所で、新たな狭窄病変が発生し完全に閉塞したなどです。
以前の心筋梗塞のために元々低下していた心臓のポンプパワーが、追加の新たな病変でパワーが更に急に低下します。その結果、全身状態は急速に悪化し虚血性の急性心不全となります。
冠動脈の古い病変が繰り返して悪化したりや、新規の冠動脈病変によって誘導される急性心不全もやはり虚血性の急性心不全といいます。
そして・・、心不全の予防は?
心不全の五作
心不全の初期症状:
◆325 心不全の初期症状:ありふれて、間違えやすく、治りにくい
心不全の治療:
◆125 心不全の治療 その原則は心臓をいたわることです
心不全の予防:
◆025 心不全の予防 水は毒! 水分制限が一番
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◆266 心不全とは? たとえ話でやさしく説明
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◆268 心臓発作 夜中なら不安と恐怖 ー解説と対処法ー
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◆369 心臓を健康にする ー心臓病・心不全の超予防ー
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特集:心不全 症状・治療・予防
そして・・、狭心症・心筋梗塞なら?
狭心症・心筋梗塞の五作
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◆062 胸が痛いのは心臓病? ーその診断方法ー
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◆290 狭心症・心筋梗塞 超早期の発見は、静かな症状に注目!
発作から病気の重さを予想する:
◆349 狭心症・心筋梗塞 発作からわかる、緊急性と重症度
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◆130 狭心症の治療開始 初めての診察の風景
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◆257 狭心症・心筋梗塞 食事・運動・薬でなおす