冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)
狭心症と心筋梗塞の違い
狭心症と心筋梗塞は心臓を栄養する血管(冠動脈)の劣化や老化で起こる冠動脈疾患(または虚血性心疾患)といわれます。
二つの病気の違いは、狭心症は冠動脈がまだ完全に閉鎖していない状態、心筋梗塞では血管が完全に詰まって閉鎖した状態です。狭心症は心臓の筋肉がまだ活動する「生きた」状態ですが、心筋梗塞なら完全に詰まった血管が潅流するエリアの心臓筋肉は活動できない「死んだ」状態になっています。
狭心症が冠動脈疾患の軽い段階で、心筋梗塞は更に進行して悪化した段階だといえます。
病気の重さの違い
現実の医療現場において個々の患者では、二つの病気の重さを教科書的にスッキリ単純に分けられないことが少なくありません。たとえば狭心症であっても狭くなった血管が広い範囲に及び重要な場所であったりすれば非常に危険な病態です。一方心筋梗塞であっても、ほとんど無症状に近いほど軽く病気の血管も軽微ですんだ軽症があります。
冠動脈の血管が開いているか完全に詰まっているかというよりも、3本の冠動脈のうちのどの血管で、どこの場所が、どの程度に、一カ所か複数箇所か、病変部分の長さや程度はどれくらいか、それらによって心臓が障害された部位や程度、心臓の拍出能力の低下レベル等を知り、心臓全体の詳細を把握することが狭心症か心筋梗塞かを区別するよりもはるかに大切です。
病気の重症度や緊急度の立場に立ってこの二つを考える場合、血管がまだ少し開いているか詰まってしまったかのような単純な区別よりも、全体として今の心臓がどれほど重症なのか、危険度が高いのか、緊急性が高いのかの評価の方がはるかに重要です。
従って、狭心症か?心筋梗塞か?と問うこと自体がそれほど重要な意味を持たない場合があるのです。症状が起こった時どちらの方が軽いとは一概には言えないのです。
冠動脈の血管病変を知る
では患者がどうやってこの冠動脈血管の病変や心臓全体の障害程度を知ることが出来るでしょうか。おこった症状だけからなら、患者はもちろん医師であってもその全貌を知ることは不可能です。
詳細を正確に知るには心臓カテーテル検査が必要です。最近は冠動脈の血管病変の評価で心臓カテーテル検査に代わる冠動脈CTという便利な検査法の精度が上がり広く普及してきました。
この方法は放射線被曝量が多い事や評価の精度等にいくつか限界もありますが、心臓カテーテル検査よりはるかに患者に優しい検査法です。外来で、それも短時間でできる苦痛の少ない検査であり、冠動脈の詳細な血管病変を明瞭に観察することが出来ます。
緊急性が低いなら、心臓カテーテル検査でなくまずこの検査をお勧めします。しかし緊急性が高い時には、治療も兼ね備える心臓カテーテル検査が必須です。
緊急性を予想する項目
症状から重症度を予想
胸が苦しくなって冠動脈疾患(狭心症か心筋梗塞か)が疑われる状況になった時、当事者の患者や家族はどうすればよいでしょうか。狭心症なのか心筋梗塞なのかの区別はここではあまり意味がありません。
冠動脈疾患であったとして、冠動脈の血管病変、心臓の障害程度、ポンプとして心臓の機能低下の程度、これらの詳細は分かりませんが、外に表れた患者の症状から、心臓ポンプ機能の大雑把な程度はある程度推測できます。医療従事者でなくても、なすべき方針が想像できると思います。
心臓発作で死亡する人の半数は症状が現れてから3~4時間以内に起きていると言われます。緊急度を的確に判断するために、症状が起こった時どのように症状を評価すればよいのか幾つかの視点を話します。
1)初めての症状
●初めて経験した発作
生まれて初めて経験する冠動脈疾患の症状なら、大きな危険が潜んでいる可能性がありますので、症状の軽重にかかわらず「重い状態」と考え対応して下さい。
2)症状の強さ
●胸の圧迫感であれ痛みであれ、症状は強いか
症状は、軽いよりも強い、激しい方が病気は重いでしょう。もしこの症状が2度目以後で、以前より強くなっているなら病気は悪化していると予想します。
3)症状の持続時間
●症状の持続時間が、5分以内、15分以内、15分以上、30分以上
数分で消えるものより長い時間続く方が重いと予想します。症状の時間が長ければ長いほど病気の程度は重い可能性があります。15分以上なら重いと予想します。以前より持続時間がさらに長くなっているなら、病気は重い方向に変化したと予測します。
4)症状の繰り返し頻度
●症状が、年一回、月一回、週一回、毎日、一日何回か
頻度が多いほど病気は重症と予想します。月一回以上あるなら重いと予想します。頻度が以前より多くなっているなら、病気が重症化していると予想します。発生する頻度は病気の重症度を評価するのに大変分かりやすい目安です。
5)症状が悪い方に変化
●症状の強さ、持続時間、発生頻度、運動の程度が以前より悪化している
以前と比べて起こった時の症状が強くなった、持続する時間が長くなった、起こる頻度がまめになった、軽い運動で起こるようになった。この様な症状の悪化があれば病気が重症化していると考えます。
6)特別に危険とみなす症状
●辛そう、苦しそう
●息苦しく、ハーハーして、呼吸が荒い
●汗(冷や汗)をかいている
●手足が異常に冷たい、白い
●吐き気がある、吐いた
●便意がある(便を出したくなる)
●顔色が非常に悪い(蒼白に)
●ふらついて立てない
●短時間であっても、意識を失った
この様な症状のどれか一つでもあればその病気の程度は非常に重いと予想します。該当する症状の数が多ければ多いほどより重症です。狭心症か心筋梗塞かは問題ではありません。
当てはまる数の多さにかかわらず、緊急事態ですから一刻も早く救急車を呼ぶ必要があります。
時間を無駄にしないためにはいつも通院中の医療機関ではなく、緊急の救命救急対応が取れる設備の整った大きな病院に救急車でそのまま行って下さい。
総合的に評価する
症状から重症度を総合的に予想
狭心症か心筋梗塞を疑う症状が突然に起こった時、以上の六つの側面から総合的に病気の重症度と緊急性を予測します。
予測の一例をお話しします。学会基準ではありません。飽くまで私の個人的な目安ですが無いよりはまし程度に考えて下さい。
A. 全てが軽い
●全てが軽ければ、病気はまだ軽いと予想します。
しかし心臓病発作は絶対に油断できません。特に初回の症状は軽くても危険な場合があります。危機意識を持って早急に病院で詳しく調べましょう。
B. 悪化しているサイン、重い条件がある
●「特別に危険な症状」はないが「重い条件」が一つでもあれば、すぐ病院へ行き詳しく調べましょう。
C. 特別危険な症状がある
●「特別に危険な症状」が一つでもあれば緊急事態です。直ちに救急車で救命救急施設のある大きな病院に直行して下さい。
虚血性心疾患のような症状が突然に起こった状況から、その病気の重症度を予想する考え方をお話ししました。将来の万一の場合に役立つでしょう。
そして・・、狭心症なら?
狭心症・心筋梗塞の五部作
胸痛を専門医が診断する手順:
◆062 胸が痛いのは心臓病? ーその診断方法ー
狭心症を早期発見する:
◆290 狭心症・心筋梗塞 超早期の発見は、静かな症状に注目!
発作から病気の重さを予想する:
◆349 狭心症・心筋梗塞 発作からわかる、緊急性と重症度
狭心症になり初めて診察:
◆130 狭心症の治療開始 初めての診察の風景
狭心症を、薬と生活で治す:
◆257 狭心症・心筋梗塞 食事・運動・薬でなおす
心臓病の究極予防:
◆369 心臓を健康にする ー心臓病・心不全の超予防ー