期外収縮で来院する患者
心臓病で当クリニックを受診する人で最多は期外収縮だと思います。中でも患者の訴えで多いのが一瞬の動悸です。
「時々、胸がドキンとなりますが、すぐに治ってしまいます。でもしばらくするとまたドキンとなります。痛いとか気分が悪くなるとか特別辛いわけではないのですが、嫌な感じです。心臓に何か大きな病気が隠れているのではと不安です」と心配します。
期外収縮の症状
期外収縮の症状は、一瞬単発のドキン(ドキッ)が典型的です。「単発の一回完結」が特徴です。それが時間をおいて(数秒から数時間の間隔)、何度も繰り返すこともよくあります。その表現は患者によって多彩で様々な言葉で言われます。→◆097 心臓病 「一瞬、ドキン (ドキッ)!」 これはどんな病気?
胸が「ツマル」、「ポコン」、「バコン」、「ドキン」、「ウッと」、「クッと」、「バクバク」、「ハッと」、「中で空気が破裂する」、「ズキンと痛い」、「コロンと回る」、「一瞬の胸騒ぎ」、「心臓が動 きを一回休んだ」、「心臓が一瞬の空回り」、「胸が一瞬締めつけられた」、「脈が一回飛んだ」、「脈が一個抜けた」、などなどで す。
感じる症状:一日の回数
期外収縮を自覚する回数が多い時には一日に何十回もありますが、少ない人なら一日に数回しかありません。毎日ある場合や週に一日だけしかない場合もあります。おこる時間帯も様々です。
布団に入ってから寝込むまでの間だけ、仕事の休み時間や帰宅してからだけ、仕事中だけ、出勤中の時間帯だけ等、症状がおこる回数、頻度、誘因、時間帯にバラツキと言いますか患者毎の個性があります。
生活スタイルや誘発する原因によって症状の組み合わせは多数あります。しかし数が多いと訴える患者でも、朝から晩まで継続して症状を自覚し休む時がないと言う方はさすがに少ないと思います。
ほとんどの方は一日で数回から数十回です。症状はあくまで一瞬(その繰り返し)です。起こると不快で気になりますから、回数は少なくても何とかしたいと受診することになります。
患者の話を聞いてから、診察、心電図、胸部レントゲン写真の検査をしますが、検査結果が揃う頃にはその病気の全貌がほぼイメージ出来ます。
30分ほどで検査結果が揃って再度お呼びした患者に、症状の原因となる病気の診断名、病気の重さの程度、原因、治療、今後の推移などを話します。多くの人は治療が不要ですからそれで終わりになることが多いのです。
しかし時に少し詳しく検査する必要がある人もいます。患者がひどく心配して更に詳しい追加の検査を希望する場合もあります。
そんな時に追加する検査は当院では、心臓超音波検査(心エコー検査)とホルター心電図検査(24時間心電図)の二つです。どちらも大切な情報が得られますが今回はホルター心電図の話をします。
24時間心電図:期外収縮の回数
ホルター心電図検査をすると、症状の原因となる不整脈(この場合は期外収縮)が見つかります。見つからないこともあります。症状を自覚し患者が押したスイッチの時間に不整脈が何も記録されていないことがあります。逆に症状を自覚していない時に期外収縮の波形が記録されていることもあります。
患者は何を感じてスイッチを押しているのか詳しく尋ねますが、時にはただの不安感であったりすることもありますし、狭心症の軽い発作の場合もあるかも知れません。しかし患者の症状があるのに心電図では相当する異常所見がない場合も現実に多数あります。
患者が自覚した時にスイッチを押して、そこに心電図で期外収縮の記録が見つかれば患者の症状と心電図異常が一致して証拠となります。24時間で発見される期外収縮の回数は患者毎に様々ですが、ゼロから数万回までの幅があります。
心臓が動く回数は一日24時間でほぼ10万回(平均69回/分)が標準ですが、その10万回のうち乱れた拍動(期外収縮)の回数がゼロ~数万回ということです。一日の心臓拍動のうち乱れる回数が、0%~40%位の幅になります。
期外収縮が良性で一日24時間で100回以内ならほとんど問題になりません。治療する必要もありません。数千回程度であっても良性の期外収縮ならやはり薬の治療は不要でしょう。
一日に数万回もある場合は、あまりに回数が多いので良性でもその発生原因をより詳しく検討しなければなりません。しかし調べても心臓に何も異常が見つからない場合もあります。その時には原因が分からなかったのですが、後になってからストレス消失で不整脈も消えてしまったことがありました。不整脈はストレスが原因だったのでしょう。
このように期外収縮の重さの程度によって治療内容は変わりますが、当院のような小さな一次医療機関ではほとんどの例で治療は不要です。しかし大学病院などの専門医療機関では事情は全く変わってしまいます。問題のある患者が紹介されてそこに集中するからです。
症状と記録される期外収縮の差
今回皆に特に強調して話したいことは、24時間心電図検査で正確に調べた結果では、実際に感じる症状の回数は実際に起きている期外収縮の記録回数よりはるかに少ないという事実です。
患者はおこっている期外収縮を全て感じるわけではなく、そのうちの一部しか感じていないことです。場合によっては期外収縮の全部を感じなく、おこっていることさえ全く知らないこともあるのです。
期外収縮には、それを感じやすい人、感じるが比較的鈍感な人、全く分かっていない期外収縮不感症の人、等のタイプがあるのです。
●感じない(分からない)人、感じにくい人
極端な場合ですが、24時間心電図で一日に数万回も期外収縮がおこっているにもかかわらず一度もそれを自覚しない人がいます。そこまでではなくても、一日に数百回~数千回もおこっていても自覚するのはたった数回あるかないかの人もいます。
心臓でおこっている数多くの異常な拍動(期外収縮)を患者はほとんど感じないのです。こんなことが実際にはしばしばあるのですが、なぜまったく感じないのでしょうか。どんな人が感じないのか調べたことはありませんが、そこにどんな特徴があるのでしょうか。
●よく感じる人
一日に数回しかおこらない期外収縮ですが、そのほとんどを自覚する人がいます。こんな人は心臓の異常な動きをほとんど分かっているようです。こんな患者は一日の期外収縮の回数が比較的少ない場合が多いように思います。
その患者にもし一日数千回~数万回も期外収縮が出るようになったらその患者はどうなるのでしょうか。そんなケースを診察したことがないので分かりませんが、その全部を感じるようになるのでしょうか?多分そうではないと思います。
●期外収縮不感症?
一日に数百~数千回もある期外収縮をほとんど全部感じる患者さんに出会ったことがありません。きっとあまりに多い期外収縮に感覚が麻痺して不感症になるか、慣れてしまってその大多数を感じなくなるかも知れません。
一日に起こる期外収縮の回数が少ないと(一日に数回~数十回程度)、高い確率でそれを自覚するようですが、一日数千回~数万回と回数が多くなってしまうと期外収縮に麻痺してくるのか感じる確率は極めて低くなるようです。
期外収縮に対する適応現象かも知れません。期外収縮に対する体の反応が極端に低下してしまうようです。
従って、もし期外収縮を一日にたくさん(少しではなくて)感じる人なら、「期外収縮不感症」になっていないようですから、24時間心電図検査をすればきっと一日におこる実際の期外収縮の数は意外に多くなく、数千~数万もの多数ではないと予想します。
他方、期外収縮の一日の数が少なくてもまったく感じない人もいます。こんな人も「期外収縮不感症」なのでしょうか。期外収縮を感じるか感じないかはかなり個人差があるようです。
●感じた方が良いのか?悪いのか?
期外収縮を感じる人、感じにくい人、全く感じない人、どれがよいのでしょうか。どれがよいとは一概に言えませんが、病気の発見という意味では感じた方がよいと思います。たくさん出ているので検査や治療をした方がよいのに、気付かなければ病院に行くきっかけがなく病気をそのまま放置してしまうことになります。
一方、つらさや不愉快さの意味では感じない方が患者は楽なことは確かです。期外収縮の症状は様々ですが、分かれば一瞬ではあっても不愉快で嫌なものです。患者は出来れば感じない方がよいと思うでしょう。
期外収縮が良性で治療不要の人なら感じない方がよいと思います。しかし良性ではない期外収縮なら、感じる方がその回数の変化で病状の変化を判断できますから感じた方がよいと思います。
●「期外収縮不感症」、3分間を自己観察
一日数千~数万回と回数が多い人なら恐らく「期外収縮不感症」になっていると思います。病状の変化や薬剤治療への反応は原則的には診察と検査で判断するしかありません。
当院では診察と検査以外に、患者が一日一回定時に自分で腕の脈を測って3分間の期外収縮数を数え、それを記録する方法を利用しています。3分間の期外収縮数の変化を病状の変化や治療の効果として評価の目安とするよう指導しています。
期外収縮による心臓の異常な動きには不感症でも、脈の異常(脈が飛ぶ、抜ける)は触ればはっきりと分かります。症状がなく期外収縮不感症なら、この方法は実際的な評価方法です。治療効果判定にも利用できます。
期外収縮は不安で増える
この期外収縮は何かの原因で一旦出始めますと、しばらく出やすい状態が続くことがよくあります。期外収縮は何かのストレスが引き金になる事が多いですが、そんな時期にはそのストレスがしばらく続くのでその間はこの不整脈も続くと考えられます。→◆213 不整脈 期外収縮の多発 ストレスが契機となる人が多い
不整脈を自覚する人にとっては不愉快な症状です。心臓の一瞬の異常な動きですから、これが起こる度に短時間であっても不愉快な気分になるのです。この不愉快さを気にし始めますと、「また出るのではないか、出ると嫌だなー」と考えるとその不安がこの不整脈を更に誘発する因子になり、ますます回数が多くなります。こんな患者が比較的多いことも私はよく経験しました。不整脈の自覚症状そのものが次の不整脈発生の誘因となります。従って一旦不整脈が出始めるとますます回数が多くなってしまう悪循環に陥るのです。
不安解消で期外収縮は消失
そんな患者の例をお話しします。
■60歳代の女性です。数年前にこの期外収縮で当院を初めて受診しました。心電図、レントゲン写真、心臓エコー検査、24時間ホルター心電図などの所見を総合して、心配ない上室性期外収縮であることが分かりました。患者には「心配のない軽い不整脈です。起こると嫌な感じはしますが、それで危なくなったり命を失うようなことはありませんから安心して放置しておいて下さい。気にしなければ自然に出なくなりますから、そのうちに忘れてしまうでしょう」とお話しして診察は終了しました。
その人が数年後に久し振りにまた来院されました。
「あれ以来、全く不整脈には悩まされずすっかり忘れていましたが、最近旅行中の電車の中で、また同じような不整脈の症状が出てきました。それ以来、不整脈の出る回数が徐々に多くなってきて今週は毎日のように出ています」というお話です。以前と同じように検査しましたら同じような不整脈が出ていました。一日の不整脈の回数も同じようであり、その他の検査にも大きな変化はありません。
「久し振りの不整脈ですから、この不整脈について少し神経質になってしまったのかもしれません。以前と同じようで大した病気ではありませんから、このままで様子を見て下さい。この結果に安心して不整脈は消えてしまうかも知れません。消えてしまえばそれでよいでしょう。もし変わらなければもう一度診察に来てください」とお話ししました。これで患者の症状は消え安定した元の生活に戻りました。
不整脈が一度発生すると、その深いな症状が嫌でそれが新たなストレスになり不整脈が誘発され益々回数が多くなる例です。こんな場合は診察と検査で安心すると消えてなくなるのが特徴です。
続く・・・
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