心不全が起こる理由
心臓病に無縁な人は関心ないでしょうが、心不全に一度でもなったなら高い関心があるテーマです。
「心不全はなぜ繰り返し起こるのか?」についてお話してみたいと思います。心不全には少なくとも2種類があり、どちらかで説明に若干違いがあるのですが、両方をお話しすると分かり難くなりますから今日は心不全の代表的な方を中心にお話しします。
まず心不全が起こる理由です。心不全予備軍ならその能力は既にある程度まで低下しています。例え話をします。年老いた馬を想像して下さい。
心臓を「年老いた馬」に例えます
若い時より力が半分以下になった年老いて弱った馬です。それでも毎日荷物を積んだ車を引いて運んでいます。若い馬と較べれば少しの荷物しか運べませんが何とか毎日の仕事をこなし続けています。
ある時、荷物が多くなりました。速さも急ぎとなりました。お蔭でこの仕事が相当の重荷となってしまいました。しばらくするうちにこの無理がたたってそれ以上動けなくなってしまいました。
これが心不全発症の状態です。何とかこなしていた仕事以上をしなければならず、それが能力の限界を超えてしまい遂に耐えられなくなったのです。
心不全 一般的誘因
現れる心不全の症状は、息切れ、呼吸困難、動悸、全身のだるさ・疲れやすさ等です。きっかけはいつもより仕事がきつ過ぎたからなのです。弱った心臓(馬)にとって、その負担の多い辛いきつい「仕事=荷物」とは、血圧が高い、水分や塩分が多い、速い脈、過労、強い興奮・緊張・ストレス、重労働や作業、過激な運動、過食、肥満、貧血、風邪・肺炎などの感染症、甲状腺機能亢進等があります。こんなことが弱った心臓にとっては大きな負担となり心不全を発症させます。
心不全を起こす原因のもう一つは心臓の病気が進行性で弱っていく場合です。それは心臓の筋肉自体が徐々に病的に弱っていく場合や、心臓の弁など心臓の部品が進行性に傷んで結果的に心臓が弱っていく場合などがあります。
心不全 少ない原因
心臓の病気そのものが進行して心不全になることは当院ではそう多くありません。特別に珍しい原因の進行性の重症心不全(拡張型心筋症、肥大型心筋症等)や心臓弁膜症で急速進行性の心臓病であればそのようなことがおこります。
このような病気なら病気の進行が止まらない限り薬で治療しても心不全の発症を完全に抑え込むことは困難です。
心不全 よくある誘因
そのような進行性の心臓病ではなくて安定した病態が長く続く病気であれば、適切に治療管理するなら、病気が急速に進行し衰弱し心不全になっていくことはそう多くありません。
心不全予備軍の患者(心筋梗塞、心房細動、心臓弁膜症など)が心不全になるもっともありふれた原因とは水分の摂りすぎです。
多くの心不全予備軍は心臓の基礎体力がすでに落ちていますから無理なことはしたくても出来ません。重労働や激しい運動は普段から上手に避け生活しています。重労働などで心不全となる事は多くないでしょう。また患者は体力が落ちているのを自覚していますから風邪をひないよう日常生活にも注意しています。
しかし水を飲み過ぎないこと(水分制限)は意外に守られてない人が多いのです。分ってはいるのでしょうが何気なく少しずつ飲水量が多く気が付いた時には5~6㎏も体重が増加して心不全発症レベルになっていることが多いのです。
認知症は、飲水制限を守れない
認知症の高齢者は家族がよほど注意していないと、知らないうちに好きな様に飲水して気が付くと体重が相当増加して完全に心不全になってしまうことがあります。極端ですが一例を紹介します。
■認知症で、心不全を繰り返した例
数年前に心臓弁膜症の手術をして術後順調な経過で当院に外来通院する80歳代の女性です。40Kg弱程度が標準的な体重です。ある時の外来で「お腹が張る、疲れる、苦しい、脚にむくみがある」と話しました。血圧は少し高め135/95mmHgですが、体重は何と 47.6Kgまで増えていました。手術後初めての心不全でした。
利尿薬治療の強化と飲水制限で一週間後には43.9Kgまで減量 しました。「良くなった、息切れは少なくなった、むくみは消えた」と話しました。飲水過量による典型的な心不全です。
この患者はその後も数年の間、体重を増やし心不全になり薬と飲水制限で体重を下げて回復する、こんなことを繰り返しました。
きちんと飲水制限を守ることが出来ないのです。それは患者の意志だけではなく認知症のために飲水制限を徹底することが出来ないのです。
水を飲ん だことを忘れてしまうのです。忘れてまた飲んでしまいます。決して意志が弱く我慢できないからではないのです。水分過多で心不全になり治療で回復するを繰り返すという生活を数年間も続けてしまうことになったのでした。
ある日とんでもない状態で来院しました。前の診察からたった7日目なのに、車イスで家族が押しながら診察室に入ってきた時は唖然としました。瞼や顔が水で腫れあがり風貌が変わっていました。手や腕も丸くなるほどに腫れて、足首はいつもの倍近くはあろうかというほどの太さになっていました。ここまで むくみがひどくなったのは始めてです。それもたった7日で急速にです。水分過剰が10Kg以上もあったでしょう。こうまでなってしまうと外来治療はもう無理で入院しかありません。家族も患者も「苦しいから入院させてほしい」です。直ちに別の病院に紹介手配して入院させました。
水分過剰を避ければ心不全は最小に
心臓の基礎体力が落ちてしまった心不全予備軍では、少し重い負担がかかると容易に心不全が表れます。その負担をとれば心不全からいったん解放されますが、同じような負担がかかるとまた同じような心不全となります。
心臓への負担の中で最もよくある原因が水分の摂り過ぎです。患者は無意識のうちに水分や塩分を多く摂りすぎています。厳重に指導注意して飲水制限を理解し徹底しないと容易に水分過剰になります。
私は心不全予備軍の患者にはいつも口が酸っぱくなるほど飲水制限を繰り返し話して心不全を予防しています。上の認知症の ケースは例外です。私の患者では心不全を何度も繰り返す人はほとんどいません。1~2回の経験でよく理解する人がほとんどです。
続く・・・
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