心房細動は最近の高齢化によって患者数が増加している病気で、心臓病の中ではありふれた病気の一つになっています。
甘く見ると非常に危険な病気ですが十分に管理すればそれほど怖い心臓病ではありません。しかし放置すれば重症な脳卒中(脳塞栓)を起こして直ちに危篤状態になったり、回復しても後遺症で車イス生活になることがあります。
さらに発症から数年の経過で心不全を繰り返す重症心不全に進んでしまうこともある心臓病の中では数も多く重要な病気です。
心房細動の原因
この病気は年齢の高齢化に伴って急激に増加することから、心臓の老化が主因であろうと考えられます。70歳代以後に患者数が急増します。しかし50歳代から発症する人もいます。若い人では40歳代もいました。50歳代になったら心房細動は忘れてならない病気の一つでしょう。
症状の重さに差がある
この病気は発症した時の最初の症状が多彩なことです。どんな緊急事態が起ったのかと思うほど激しく苦しい症状から、自覚なく無症状で私が診察して初めて心房細動になっていることが分かる人まで症状の重さが非常に広くバラつきます。
心房細動は定期的に医師の診察を受けているならいずれ主治医が発見してくれるでしょうが、医療機関を受診する習慣のない人なら自分が心房細動になって いることを全く知らないままで過ごしてしまう事がありえます。
もし年に一回の検診さえしないなら、数年にわたって無治療で心房細動を抱えていることになり ます。そして心房細動が誘発した重い病気が発症し始めて自分が心房細動になっていたことを知ります。しかしそれでは手遅れです。
始めての症状
心房細動の症状(心房細動になっておこる症状を心房細動発作と言います)は、無治療か治療中かによってかなり違います。今まで健康であったなら無治療です。最初の発作の症状の強さは心臓の拍動数と血圧低下の組み合わせでほぼ決まります。
心房細動発作になった時、心臓の拍動数が一分間に150回/分なのか、110回/分なのか、80回/分なのか、血圧が120mmHgなのか、100mmHgなのか、80mmHgなのか、この心拍数と血圧の2つの組み合わせで症状の強さが変わってきます。
1)重い症状と軽い症状
最悪なのは心臓の動きが 150回/分程度以上、血圧が80mmHg程度まで低下した場合です。患者は突然起こった異常で死ぬほどの恐怖と苦しみを経験するでしょう。一方、起こった瞬間にj拍動数が80回/分程度で、血圧も110mmHg位ならほとんど何も感じないかも知れません。
2)中間程度の症状
実際の患者はこの両極端の中間が多いと思います。中間とは、心臓の動きが110回/分前後で血圧も少し低い100mmHg前後の場合です。症状としては胸がドキドキして速く動き、気分が悪く、息苦しく、疲れやすく、普通に仕事が出来なくなります。苦しい時間の長さにもよりますが、多くは病院に行こうと思うでしょう。病院に行けば間違いなく心房細動が確定します。
3)軽い症状が多い
症状の強さの分布は、当院の経験では重症に近い人は稀です。無症状と軽い症状がほぼ同じくらいでしょうか。初めての心房細動発作の症状は、重いより軽い方が圧倒的に多いと感じます。重い患者は当院には来ないで、救急車などで大きな病院に行ってしまうからかも知れません。
治療を始めたら
無治療での症状に較べ、薬で治療を始めれば、再び心房細動発作になっても症状は最初ほど辛くありません。心房細動発作が起きても心臓の拍動回数が100回/分以下に薬で抑えられ、血圧低下も軽くすむからからです。
心房細動発作がおこったり(数分間~数日間)治ったりを繰り返す患者の場合、薬で治療すれば発作がおこりにくくなりおこっても軽いので日常生活はかなり楽になります。初めての発作の苦しさは嘘のようで発作がおこってもケロッとして診察に来ます。薬の効果は明らかです。
一方心房細動が二度と正常に戻らず慢性的に固定化してしまった場合(慢性心房細動といいます)でも、薬の治療を始めれば、運動や力仕事をした時の息切れや疲労感がかなり楽になります。ハッキリ差がありますから患者は薬の治療効果を大変喜びます。
「無症状の不幸」、放置して悲劇に
無症状なら、心房細動という危険で重大な心臓病を発見できず、放置することになります。結果的に社会復帰が不可能なほどの重い後遺症の重症脳卒中(脳塞栓)を起こしてしまう悲劇を生 みます。軽い症状は将来の悲劇を誘発するのでかえって不幸と思います。
70 歳以下で、心房細動以外に他に何も病気がないなら、心房細動があっても重篤な脳卒中は起こり難いとされます。しかし無症状で無自覚で医師の管理外に あれば、心房細動のためいずれ来るであろう脳卒中や心不全に向かう悲劇的なコースを止められません。
心房細動があっても無症状なら一見良いように思 いますが、病気を発見出来ず治療にも入れないという意味で逆に不幸です。もし心房細動で何か強い症状があれば、患者は必ず病院に行き治療を始めることが出来るからです。
特に短時間だけ発作が起こる発作性心房細動なら時間が短く自覚しにくいだけでなく、その発作が過ぎれば検査を受けても病気は発見できないのです。症状が軽かったり無症状であればこの病気を見つけることは至難となります。
50歳代男性で悲劇となったケース
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症状の軽重はその後と無関係
最初の心房細動発作で強い症状 だったか無症状だったかはその後の病気の進行と関係ありません。
症状が何もないから病気が軽く、激しい強い症状があったから重いとはならないのです。 無症状であることが幸か不幸か判断は難しいといえます。
引き起こす誘因
心房細動発作は突然起こりますが、しばらくして(数分~数日間)治ってしまう事がよくあります。このケースを発作性心房細動といいます。しかし時間がたつとまた発作が繰り返して起こります。
発作には誘因が関係する場合があります。誘因がある場合はそれを避けるような生活習慣が治療として大切で す。誘因とは、前夜のアルコール多飲、過労、強いストレスなどです。
誘因が分からない患者にとっては,いつ嫌なこの症状が起こるか予想できません。仕事、対人関係、旅行、外出について臆病になってしまうこともあるようです。人によっては大変につらい症状ですが直ちに生命に危険があるものではないことを理解して下さい。
多くの場合、発作は何週間も続くことはなく数分から長くて2~3日くらい続く程度です。しかし、発作の時間が長くなる、発作をしばしば繰り返す、こんな時には心房細動が元に戻らなくなります。発作がおこったり治ったりを繰り返す「発作性心房細動」が、元に戻らずに固定化してしまった状態を「慢性心房細動」または単に「心房細動」と言います。
脳塞栓の可能性と抑制治療
この病気では脳塞栓になる可能性が高いので、原因の心臓内血栓を作らせない治療(抗凝固療法)を開始するほうが良いとされます。
しかし60歳代まで、健康、高血圧なし、心不全なし、糖尿病なし、脳卒中の経験もなし、なら脳塞栓の可能性は低いとされます。血液を固まらせにくくする薬(ワーファリンなどの抗凝固薬)も必要ないと考えられています。
当クリニックの患者数
当院のような田舎の小さなクリニックでさえ、このような心房細動の患者は発作性と慢性を合計して約100人が現在通院しています。それほど今の高齢社会ではこの病気はありふれたものになっています。
心房細動で心不全。いずれ心不全の最大の原因に?
心房細動は正しく治療を続ければ決して怖い病気ではないのですが、治療が甘かったり治療せず放置していると重症な脳塞栓を発症しやすくなり、心不全にもなりやすくなります。
心房細動と心不全は現代では最もありふれた組み合わせになりつつあるようです。近い将来には心房細動が心不全の中心的な原因になる日が来るかも知れません。
悲劇を防ぐために心房細動の患者は、たとえ無症状でも正しい治療をするべきです。将来を見据えるなら「今、何でもないから治療はしない」の考え方は間違いだと思って下さい。
心房細動は放置すると重症な脳塞栓を起こし、車イス生活になることがあります。必ず専門医に相談して下さい
続く・・・
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