初めて狭心症になった患者です。症状や一般的な検査から判断して病状が軽症から中程度までであれば、心臓カテーテル検査を急いでしなくても生活改善、薬剤内服、心臓カテーテル検査以外の一般的な検査の組み合わせで狭心症を診断治療できないことはありません(診断的治療)。
直ちに生活改善を開始し薬剤治療もキッチリと継続すれば、狭心症の症状が消えて出なくなることがあります。そして安全な状態になれば、冠動脈障害の重症度評価のために心臓カテーテル検査や冠動脈CT検査を検討してもよろしいと思います。
心配な時は医師に相談ください。
◆心臓病 症状から自己診断は、リスクあり危険
心臓カテーテル検査の必要性
狭心症とカテーテル検査
生まれて初めての症状があり病院を受診したら医師から狭心症が疑われ、診断するために心臓カテーテル検査をしてもらいたいと言われました。どんな検査か大まかには教えてもらいましたが、その検査は入院しなければならず、何だか危険な事もありそうであまり気乗りしません。
しかし狭心症かどうか診断し治療を始めないと場合によっては進行し命にかかわる心筋梗塞になってしまうと言われ「やりたくないが、心臓カテーテル検査を覚悟しなければならないかも・・」と思っている患者がいるかもしれません。
今日はそんな人が「心臓カテーテル検査はどうしても必要なのか、出来ればそれをしないで狭心症を診断し治療が出来ないのか?」という関心の高いテーマについてお話ししてみたいと思います。
当院のような小さなクリニックでは、狭心症を疑うほとんどの患者さんは受診した時にはすでに症状は消えていて、以前の症状を説明するだけです。多くの人では一般的な心臓の検査で明らかな異常は見つからないでしょう。そんな狭心症疑いのケースについてお話しします。
大きな病院や専門病院では外来の狭心症患者の重症度は全く違います。もっと緊急性の高い重症の患者が多いと思います。あくまで当院のような小さなクリニックの外来患者について限定したお話です。
1)診断が容易な珍しいケース
たくさんの患者を経験しても狭心症の診断はいつも難しいものです。しかし稀にですが容易に診断できる場合があります。そんな運のいい典型的なケースとは、
★気になる症状が現在起こっていて、その症状が典型的な狭心症であり、心電図検査をすると典型的な狭心症の所見があり、ニトロをなめると症状が弱くなったか消えて、心電図の異常も正常近くに戻った。
こんな条件がそろえば教科書的で、重くなければ心臓カテーテル検査をすぐにしなくても狭心症と診断して治療を開始出来ます。しかしこのような条件が全部そろうことは当院のような小さなクリニックでは滅多にありません。診察中、偶然に狭心症の発作が起こった時でさえこんなに典型的に推移するとは限りません。
狭心症の診断と重症度の診断は別です。一見軽いように見えても心臓カテーテル検査をすれば非常に重症であるというケースもあります。症状の重症度と冠動脈病変の重症度は同じではありません。
冠動脈病変の重症度評価は診断的治療では不可能なのです。冠動脈の検査結果が極めて重要です。
2)心カテ検査が必要なケース
狭心症かどうか証拠がなく診断に迷うが
◆診断を確定する必要のある患者
◆症状や心電図から中程度以上で厳重な検査、治療、管理が必要な患者
◆重症が想定され、緊急に心臓カテーテル治療を含む入院治療が必要な患者
などは心臓カテーテル検査が必要です。
3)心カテ検査が直ちに必要ではないケース
軽症から中程度までの狭心症なら、急いで心臓カテーテル検査しなければならない訳ではないかも知れません。こんなケースであれば、患者が希望すればカテーテル検査をしないで診断的治療を試みます。
当院では重症狭心症はほとんど来ません。当院の多くの患者にこの診断的治療を使いましたが、幸いにも今までのところ問題となったケースはありません。運がよかったと思います。
狭心症の診断的治療法
診断的治療
この方法で全員に狭心症の診断が確定できるわけではありません。中には狭心症ではないのにその治療を継続する患者が紛れ込んでいるはず です。そんな患者はいずれ治療を終了することになります。
この診断法のメリットとディメリットは以前お話ししました。 ◆狭心症の治療開始 誰でもわかる、初めての診察の風景)。メリットが多いと考えるか、ディメリットが多いと考えるかで、この診断法を希望するか否かが決まります。
治療しながら推論し診断
診断的治療とは、薬剤内服治療をしながら治療の反応から病気の診断を進めていく方法です。診断の検査技術が難しかったり、診断する方法が困難であったり、検査に苦痛が強かったり、リスクを伴ったり、患者が強く否定するなどの場合に使われます。
診断的治療の具体的方法は、狭心症発作の場合なら、症状が起こった時(狭心症発作と思われる症状)持っているニトロを使ってみることです。ニトロは狭心症の症状にしか効果がありませんから、もしニトロで効果があればその症状は狭心症由来である可能性が高いと判断します。
または狭心症の治療を開始してから、発作の回数や強さの程度が明らかに改善する場合にも狭心症の可能性を強く予想する事ができます。
診断的治療の問題と限界
当院では狭心症の可能性を疑えば、その日から薬剤治療を開始します。症状が月に数回しか起こらない患者であっても、2か月~3か月間の治療でその症状が全くなくなるか、あっても前より非常に軽くなっていれば、治療効果があり狭心症の可能性が高いと推測します。しかしそんな場合でも狭心症だと断定することはできません。狭心症でなくても運よくその時だけ症状が出なかったこともあります。
開始した治療薬が効果なかったり、ニトロが効かなくても狭心症ではないと断定することもできません。ニトロが効きにくい狭心症もそれほど稀ではありません。診断的治療では、病気が狭心症であってもなくても病名を正確に確定するのが難しい診断技術です。
狭心症の場合には、診断や治療効果判定に時間がかかること、病状を軽く判断してしまうリスクがあること、狭心症ではない患者にその治療を長期間続けてしまうこと、最終的に診断が確定出来ない場合があること、などが問題点であり欠点です。
しかし小さなクリニックでは、心臓カテーテル検査や入院検査をあまり希望しない人が多く、この診断をする場合が多いのは事実です。
この診断法で、もし狭心症と診断できたとしても、冠動脈病変の重症度の診断は出来ません。重症度は一般的には症状と関連しますが、個人毎に例外が多いので、最終的評価に心臓カテーテル検査か冠動脈CT検査のどちらかが必要です。
診断的治療はメリットだけでなくディメリットやリスクも伴いますので、狭心症で重症が予想されるなら避けるのを原則にします。
重症なら間違いなく直ちに大病院を紹介して専門的に精密検査を依頼します。
心臓マルチスライスCT検査(冠動脈CT検査)
患者が希望しないので、心臓カテーテル検査以外の検査で、狭心症の診断や重症度を調べたい場合があります。そんな時には心臓マルチスライスCT検査(冠動脈CT検査)をお勧めします。
近年発達したこの検査法にも検査上や診断上の限界はありますが、心臓カテーテル検査ほどの苦痛やリスクはなく外来でできますので比較的容易に受けて頂ける検査です。
短時間の撮像すれば冠動脈病変(狭窄や閉塞)が明瞭にわかります。このCTで狭窄病変が見つからなければ、まず重大な病変は無いと考えます。この検査で診断できる可能性は格段に高まりました。非常に有用な検査法です。狭心症や心筋梗塞を不安で心配している人には非常にお勧めです。
しかし冠動脈に有意な狭窄がある労作性狭心症と違って、明らかな有意狭窄が存在しないタイプの狭心症であればこの検査で診断はできません。そんな有意狭窄がないタイプの狭心症として、安静型狭心症、冠攣縮性狭心症、微小血管狭心症があります。日本人にはこのタイプの狭心症が決して少なくないことを知ってください。
冠動脈CT検査も決して完全で万能な検査ではありません。
ステント治療も兼ねる心カテ検査
心臓カテーテル検査が避けられないもう一つの病態は、診断だけでなく治療も同時に必要な場合です。
ステントと言われる小さな網状コイル状の金属を心臓の冠動脈が狭くなっている病変部分に挿入しその血管を中から外に向かって押し拡げる治療です。
軽症から中程度で完全に症状が安定している患者ならこの治療が必須とは限りません。ステント治療を急がないでもよいかもしれません。 ◆安定した狭心症等のカテーテル治療は、15年後でも生存率を改善せず(News記事)
まとめ
初めて狭心症になった患者で、軽症から中程度までなら、直ちに心臓カテーテル検査をしなくても、生活改善、薬剤治療、一般的な心臓検査の組み合わせで時間をかけ、狭心症だろうと診断できないことはありません(診断的治療)。詳しくは専門医に相談ください。
日常生活を十分改善し薬剤治療をキッチリと継続すれば、狭心症の発作が消えその後は全く症状がでないことは珍しくありません。
具体的な治療の進め方については次のコラムでお話します。 ◆狭心症・心筋梗塞 食事・運動・薬でなおす
そして・・、狭心症なら?
狭心症・心筋梗塞の五部作
胸痛を専門医が診断する手順:
◆062 胸が痛いのは心臓病? ーその診断方法ー
狭心症を早期発見する:
◆290 狭心症・心筋梗塞 超早期の発見は、静かな症状に注目!
発作から病気の重さを予想する:
◆349 狭心症・心筋梗塞 発作からわかる、緊急性と重症度
狭心症になり初めて診察:
◆130 狭心症の治療開始 初めての診察の風景
狭心症を、薬と生活で治す:
◆257 狭心症・心筋梗塞 食事・運動・薬でなおす
心臓病の究極予防:
◆369 心臓を健康にする ー心臓病・心不全の超予防ー
狭心症コラムの特集:
特集:狭心症・心筋梗塞 症状・治療・リスク
続く・・・
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