注目の微小血管狭心症
微小血管狭心症の症状
心臓病で特に女性に多いと注目されているのは「微小血管狭心症」です。 心臓の筋肉内の微小な血管に異常が起こって症状が出る狭心症です。ストレス、過労、不眠、寒冷などが誘因になりやすいようです。
狭心症では多くは「胸が痛い」と話しますが、この狭心症ではそれもありますがさらに「痛い胸のうしろの背中が痛む」「胃のあたりが不快」「首、あご、歯が痛い」「頭痛」、「吐き気がする」、「息が苦しい」、「耳の後が痛む」、「動悸」など狭心症の典型的な症状とは少し違うことが多いようです。
「胸からあごや歯に向けて痛みが上に移動する(歯から始まり下に降りる逆方向もある)」、「肩から左腕に向けて痛む」、「胸から背中の肩甲骨あたりへ突き刺すように痛む」、「胃が不快、胃が痛い」、「胸が固まる」、「のどにつかえる感じ」、「全身が何とも言えない不快な嫌な感じ」「強い吐き気」などと話すことがあるような気がします。
天野先生の解説
静風荘病院特別顧問の天野惠子先生の解説がありますので紹介します(出典)。天野先生はこの病気を日本で初めて紹介し病態の解明に大きく貢献された方です。
「30代半ばから60代半ばにかけて発症し、そのピークは40代後半から50代前半。安静時に多く、多くは5分以内で収まるが、なかには数時間または半日以上も続き、胸部のみならず、顎、歯、耳の後ろ、背中、左腕等にも痛みが生じます。また、寒さ、ストレスが引き金になる等の特徴をもっていました。
その頃、このような狭心症は心臓神経症といわれ、治療の対象になっていませんでした。しかしながら、1980年代前半の米国の学会で初めて、National Institute of HealthのCannon ROが見事にこのような胸痛が心臓由来であることを証明してくれたのです。カルシュウム拮抗剤が有効であることも報告されました。」
微小血管狭心症の特徴
主な特徴
(1)安静や就寝中に起こることが多い。活動中はほぼならない
(2)症状は数分で消えるが数時間から一日と続くことも珍しくない
(3)おこる回数が年に数回であっても数年間も続く場合がある
(4)一日に何度も発作がおこり週に何回も繰り返すタイプもある
(5)ストレス、不安、過労、不眠、寒冷が誘因となりやすい
(6)動脈硬化が原因とは思えない若い層にも少なくない
(7)発作が起きた同時期に強いストレスがあることが多い
(8)ニトログリセリンの効果が少なく全く効かない時も
(9)典型的症状でなくニトロは無効、検査も正常なので「狭心症ではない」とされやすい
(10)突然死するような病気ではない
(11)検査で有意な所見が見つからなく診断は医師のカン頼り
(12)知的な(仕事の)女性に多い印象がある
(13)女性に多い。少ないが男性にもあり女性だけではない
(14)治療は今のところ「診断的治療法」で進める
(15)治療には医師患者とも忍耐と根気が必要な場合がある
精密検査でも所見なく、診断が難しい
症状が狭心症らしくなく、ニトログリセリンがはっきりした効果なく、心電図検査や心臓カテーテル検査などの精密検査でも異常が発見されないので、診断が難しく病気が確認されるまでは「気のせい」「神経質」「怠けてる」とか「原因不明」とされて患者は症状に長く悩まされる。
原因が分からない病気の不安でうつ症状になることもあるようです。それがきっかけでドクターショッピング(医師を転々と変えること)するようになるとも言われています。そのことでますます診断が難しくなっていくでしょう。
原因と治療
動脈硬化より、強いストレスが直接の原因か?
女性ではエストロゲンという女性ホルモンが血管を動脈硬化から守っていますから生理(月経)があるうちは狭心症になることは稀です。普通の狭心症なら月経が止まる前後の時期(閉経前後)でエストロゲンが減ってきた頃に起こり始めます。
ただし女性でもストレスが多い、タバコが多い、糖尿病がある、コレステロールが高い、高血圧の治療をきちんとしていない、家系に狭心症や心筋梗塞の人がいた、卵巣摘出術後などの危険因子の数が多くて高リスクなら若くても狭心症は起こりうるでしょう。
しかし正常に月経のある30歳代の若い女性で高血圧なし、喫煙なし、高脂血症なし、耐糖能異常や糖尿病なし、家族歴なし、肥満もなく、ほとんどリスクのないこの病気の患者が珍しくないので動脈硬化が病気の主原因とは想像できません。
この病気の患者では強いストレスが共通します。強いストレスが最も可能性の高い直接原因であろうと想像します。普通の狭心症とは違う大きな特徴です。
極く細い血管の異常
心臓を栄養する血管(冠動脈)は太いもので直径3mm、その他の細い血管は直径0.3mmほどです。普通の狭心症はこの血管の異常です。しかし微小血管狭心症ではそれよりもさらに細い血管で心臓の筋肉内を走る血管の痙攣(血管が強く縮むこと)や閉塞などで起こります。
診断は、診察所見、胸部X線、血液検査、心電図、心臓エコー検査、24時間ホルター心電図、運動負荷心電図の所見や症状等を総合的に判断します。
最近はマルチスライスCT(冠動脈CT)やMRIで冠動脈に狭窄病変がなければ、心臓カテーテル検査をせずに症状からの診断で治療を開始する場合もあります。
治療
微小な血管の拡張作用あるカルシウム拮抗薬の内服です。これらの薬には心筋内の細い血管を拡張する作用があり有効性が認められています。
普通の狭心症にはニトログリセリンがよく効きますが微小血管ではニトロにその血管の拡張作用がないので効きが悪いようです。ニトロがスパッと効かない印象です。
診断を確定する検査の証拠がありませんから、治療は医師の経験と勘で始めるしかありません。カルシウム拮抗薬を飲み始めて発作が消えるかどうかでこの病気を診断する「診断的治療法」しか現在はありません。
時にはカルシウム拮抗薬の種類を何度か変える必要がある時もあります。最初の一回で決まらないケースもあります。
年間に1~2回しか発作が起こらないなら一年間ほど薬を毎日飲み続けなければ薬の効果を判断できませんから非常に効率の悪い診断方法になります。この様な発作頻度の少ないタイプは患者の希望を十分考慮して治療を始めるかどうか決めています。
いずれにしても診断や治療が簡単ではない病気ですから治療には患者と医師の両者に忍耐、努力、根気が必要です。医師も緊張感とストレスそれに苦労を覚悟しなければなりません。
結論
当院でも30歳代から60歳代で発症したこの病気と思われる患者を治療しました。薬を飲んで治療を開始しほとんどの人で症状が軽快したか消えました。
長くこのような症状に悩まされ多くの検査をしても病気の原因が分からず苦しんでいるなら、この病気を想定して治療を開始していいかも知れません。
決してありふれた病気ではないですがそれほど珍しい病気でもないと思います。できれば心臓専門医に相談ください。専門医の所属団体のリンクを最後に貼りました。
そして・・、狭心症なら?
狭心症・心筋梗塞の五部作
胸痛を専門医が診断する手順:
◆062 胸が痛いのは心臓病? ーその診断方法ー
狭心症を早期発見する:
◆290 狭心症・心筋梗塞 超早期の発見は、静かな症状に注目!
発作から病気の重さを予想する:
◆349 狭心症・心筋梗塞 発作からわかる、緊急性と重症度
狭心症になり初めて診察:
◆130 狭心症の治療開始 初めての診察の風景
狭心症を、薬と生活で治す:
◆257 狭心症・心筋梗塞 食事・運動・薬でなおす
心臓病の究極予防:
◆369 心臓を健康にする ー心臓病・心不全の超予防ー