

降圧薬治療の手順
・薬の選択は医師の治療思想の集大成
使う薬は誰かから指図されるわけではありませんから医師の裁量にすべて委ねられます。
降圧薬は種類、強さ、薬剤特性が多彩で数もたくさんあります。高血圧治療にこれだけ多くの薬を手にした医師は幸せですが、逆にこれらをどう使い分けていくか個々の医師の個性と力量が問われます。
簡単な例として、軽症の高血圧に最初から強い薬を使えば血圧が下がり過ぎて患者が不快になります。重症な高血圧に弱い薬を投与しても治療効果はあまり期待できないでしょう。学会ガイドラインの推奨基準はありますがそれだけでは不十分です。
治療で使う薬の選択は医学知識と長年の治療経験の集大成であり医師の個性的な着想と言ってもよいでしょう。以下に書かれた多くの因子を総合し多くの薬の中から投与する組み合わせを判断します。
思考過程を「どうしてこの薬を選んだのですか?」と問われれば分かり易く説明するのに長時間が必要です。→◆処方薬は医師の治療思想のエッセンス 医師の思考が分かる
患者が内服する薬を見れば、その病気に向き合う医師の治療思想がある程度は想像できるものです。患者は何気なく飲んでいるでしょうが処方された薬はそんな個性的背景を持っています。
・投与の量と種類
一錠では弱くても量を増やせば効果は増えます。しかし副作用の出現頻度も増えます。降圧薬それぞれを普通量の範囲内で2種類、3種類と組み合わせて投与すれば相乗効果で良く効く場合があります。逆によくない組み合わせの方向に作用する場合もあります。
・合併する病気とその薬
患者が同時に持つその他の病気(脳卒中、糖尿病、心臓病、ぜん息、肝臓病、腎臓病、等)によって、降圧薬の相性の良し悪しがあります。またその病気で内服中の薬との相性も関係します。
薬の選択には患者の持つ複数の病気や現在内服中のその他の薬の特徴も大きく関係するのです。
・患者の性格や社会的事情
患者の年齢(若い、高齢)、性格(几帳面、こだわらない)、生活スタイル(昼型、夜型)、生活環境(自己独立、依存性)、経済的側面(治療費用)、医療制度(院内調剤、院外調剤)なども薬剤選択に影響します。
個人の特性に合わせたオーダーメードが医療の基本ですからそれぞれの因子は治療の進め方に重要です。ある一つの因子のためだけで治療方針が大きく変わってしまうこともあるのです。
・学会のガイドライン
学会が推奨した降圧薬の選択基準はありますが、現実の治療はそこで規定できない様々な個人的、社会的因子も考慮しなければなりません。
高血圧治療は個性ある患者に最適な組み合わせを探す試行錯誤の道のりです。ガイドライン通りにいかないことがあります。降圧目標に到達するまでかなりの時間が必要になることもあるのです。
目標血圧に達するまでの時間
・降圧する速さ
目標血圧まで降圧する時間も重要です。年齢や病気によって降圧する速さが違います。
高齢者や中程度以上の重い高血圧なら一気に目標血圧まで下げるのは問題があります。急に血圧が下がって体がびっくりしかえって体調を崩すでしょう。時間をかけ徐々に降圧します。
一方問題があまりない単純なケースに数ヶ月も時間をかけるのは長すぎでしょう。高血圧やその他の合併する病気にもよりますが、単純な高血圧なら1か月程度で目標血圧になるよう調整しています。
・次の診察までの間隔
生まれて初めて降圧薬を飲むなら、診察間隔は4日~7日で薬がなくなる前に再診してもらいます。血圧を下げる速さや薬の副作用のチェックはこの間隔が良いと考えます。
再診の時、期待通り血圧が下がっていれば薬を少し強めに変更し、次回は1週~2週後に再診します。数回の診察で1か月以内には目標血圧に到達するようにしています。しかし患者の事情によって変わるのは当然です。
・家庭血圧記録の重要性
朝と晩に毎日家庭血圧を測定しノートに記入しグラフにしてもらえれば治療に大変参考になります。患者も薬を飲んで血圧が直ちに下がるのを自分の目と体で実感できるでしょう→◆高血圧の症状は下がると消える!。
体の感覚とグラフを見れば薬の有り難さがしみじみと分かるようで、どなたも現代の薬の有り難さに感動します。
治療は医師の個性がでる
降圧目標を設定し、どの種類の薬を、どれだけの量、どんな組み合わせで、どんな飲み方で、どんな順番に、どれだけ時間をかけて治療するか。
患者の個人的、社会的事情など複雑な因子も多数あるので降圧治療の進め方には個々の医師の治療思想や個人的な性格と人生観が色濃く反映されると思います。
医師も人として様々なタイプがありますから、患者も自分の個性に合った医師を選ぶと信頼でき長い期間の治療を満足して継続できると思います。
