高血圧 治療しても降圧目標の達成率は50%!
日本では未治療の高血圧患者さんがまだまだたくさんおられます。さらに治療で病院に通院していながら、薬をキチンと服用せずに十分な治療効果が上がっていない高血圧のケースが多いことが話題になります。治療していながら、その恩恵を十分に受けていないのは全く勿体ないことです。ぜひ薬を毎日内服して十分な血圧まで下げておくことを期待します。
学会や医学講演会などでよく話題になるのは、薬で治療していながら、管理目標の血圧値まで到達していない患者さんが日本全国では半数くらいになるようです。そしてきちんと血圧を下げなければ問題が非常に多い方ほど、逆に十分に下がっていないことも話題になります。なぜ血圧が目標値まで下がらないか、理由はいくつか考えられますが、患者さんが毎日きちんと薬を内服していないことも、一つの重要な原因と想定されているようです。
薬を十分に飲まないのが原因か?
なぜ患者さんが利益のない内服方法を続けるのでしょうか。確かに薬を毎日キチンと服用するのはその習慣が出来るまでは、つい忘れがちになるでしょう。しかしそれが主な原因ではないだろうと思います。恐らく患者さんが血圧をキチンと下げておくことの価値や重要性を十分に理解していないからだろうと推測します。もしその価値を完全に理解できれば飲み忘れは格段に減るでしょう。
どの医師も患者さんには高血圧治療の意義と重要性を十分話しているはずです。それを話さないで、患者さんは薬を飲むわけがないからです。しかし、実際は多くの患者さんが十分な内服治療を実行してくれていないのです。どうすれば患者さんに満足に薬を飲んでもらえるのでしょうか。
当院の降圧目標達成率は平均より高い
当クリニックでは、全患者さんに調査して確認したわけではないですが、ほとんどの患者さんは時々の飲み忘れ以外ほぼ毎日決められた通りに薬を内服していることが予想されます。
当院の患者さんでは、家庭血圧の目標値(125/75mmHg以下)と外来血圧の管理目標値(130/80mmHg以下)をともに実現している方は全国平均の50%よりかなり高い値に達しています。この目標血圧値に入っていない方は少数派と考えています。
理由は、恐らく患者さんが高血圧治療に積極的に参加していることにあるのではないかと想像します。
本人が治療に意欲を持てば、目標血圧を達成可能
患者さんは自分の高血圧が自分の体にどのように悪い影響を与え、高血圧を治療すればそれがどのように改善してくるかを、一般的な言葉の説明だけでなく、自分の目でそれを確認できれば、高血圧治療に積極的に参加してくれるでしょう。薬を飲み忘れることもほとんどなくなります。
治療に意欲的になる実際的治療法
その具体的な診療方法です。以下のポイントは長年私たちがこのクリニックで実行してきたことの要点をまとめたものです。
(1)検査画像でビジュアルに。治療の必要性を痛感する
(A). 患者さんの胸部レントゲン写真で、胸部大動脈の動脈硬化の進行を表す大動脈の蛇行を、若い健常者と比較して説明します。ほとんどの患者さんは自分の悪くなった現状に驚き、治療の必要性を悟り納得します。
(B). 患者さんの眼底写真で、細い眼底動脈の動脈硬化進行の所見を見せて説明します。胸部大動脈の劣化の場合と同じく、健常者の眼底と高血圧性眼底出血や糖尿病性網膜症の眼底写真を比較して見せますと、その治療の重要性を理解します。
「百聞は一見に如かず」のとおり、言葉で詳しく臨床研究データを示したり、理論的な説明を尽くすより、「本人の検査写真の、悪くなった現実」を解説してあげることの方が大いに説得力があります。治療の必要性を一気に納得してもらえます。
(2)降圧治療で、体が楽になるのを実感する
高血圧は何も症状がないと思っている患者さんに、治療開始前に高血圧の症状の有無をまず確認しておきます。肩こり、頭痛、疲れやすさ、体力の低下などのあるなしです。治療して降圧すれば、一週間から一か月もすればその症状が軽くなっているはずですから、その症状を確認すると、患者さんは高血圧の治療は自分の体にとって大切なことであるのを自覚します。→◆046 高血圧の症状は、下がると消える!
本人がこの症状の消失を発見するためには、半年もの長い時間をかけて降圧しては違いが分かりません。目標血圧には一週間から一か月以内に到達するよう薬を調節します。超高齢者、脳血管障害後、頸動脈や腎動脈の狭窄ありなどのケース等では注意が必要ですが、普通はこの降圧治療スケジュールで問題となった例はありませんでした。
(3)動機づけを繰り返しながら、治療を継続する
その後の治療の継続は、毎日家庭血圧の測定を実行してもらい、データをグラフ化して手帳に記載し、外来に持ってきてもらいます。薬の治療で明らかに血圧は目に見えて下がり、飲まないとすぐに上がってしまうことが理解できるようになります。
グラフにすることが重要です。数字だけ見ては分からなくても、2週間表示のグラフで見れば血圧の変化が簡単に理解できます。高血圧の治療における薬の重要さを納得できます。→◆132 高血圧の治療開始? 誰でもわかる、こんな血圧なら病院へ
まとめ:必要性に気づき、効果を体感し、継続を動機づける
この様な具体的な方法を当クリニックでは長年徹底して実行してきました。その結果が当クリニックでの血圧の目標達成率が全国平均より高くなっている理由ではないかと想像します。
降圧治療の目標達成率を上げるには、自分の検査写真で血管が老化・劣化していることに気付き、高血圧の治療で自分の体が楽になることを実感し、家庭血圧を毎日測り、グラフにして観察を続け、治療継続の動機づけとしてもらう、以上の3点を実行することです。