研究の内容と結論
今回、米ジョンズ・ホプキンズ大学医学部(ボルチモア)眼科学教授のRichard Semba先生らは赤ワインやブドウ、チョコレートなどに含まれるレスベラトロールの豊富な食事をたくさん摂っているイタリアの2つの村で65歳以上の男女783人を追跡調査して、尿中のレスベラトロール濃度と死亡、がん、心筋梗塞などとの関係を研究しました。
調査では最終的に狭心症や心筋梗塞などの発症率が最も低かったのはレスベラトロール尿中濃度が最も低い人でした。レスベラトロール尿中濃度と心疾患、がんの低リスクとの関連もありませんでした。
Semba先生は「赤ワインや食事でレスベラトロールをたくさん摂取したところで死亡、がん、心疾患が減少するとはいえない。野菜中心のバランスの良い食事と定期的な運動が健康に長期的なベネフィットをもたらす」と結論づけています。
この研究論文は「JAMA Internal Medicine」オンライン版に掲載されました。
仁三郎の見解
Semba先生の結論「・・・野菜中心のバランスの良い食事と定期的な運動が、健康に長期的なベネフィットをもたらす」は私たちがいつも患者さんにお話している通りであり、何も目新しい事実ではありません。しかしそれこそが恐らく健康長寿の王道なのです。
この研究から、言われている「赤ワイン信仰」を少し疑っても良いかもしれません。
参考情報
(以下の情報は、http://www.org-chem.org/yuuki/mow/0512/wine.html、から全文を引用しました)
レスベラトロール(resveratrol)
脂肪分の取りすぎが動脈硬化をもたらし、ひいては生死に直結する重大な心臓疾患を引き起こすことはご存知と思います。しかし動物性脂肪をヨーロッパで最もたくさん摂取するフランスの農民にはこれらの病気が少ないことが知られており、この現象は「フレンチ・パラドックス」と呼ばれて昔から謎とされてきました。
近年になり、これは彼らが赤ワインをたくさん飲むからであるという説が提唱され、注目を集めました。動脈硬化は、脂肪分が活性酸素と反応してできる「過酸化脂質」が動脈の壁にたまることによって引き起こされます。赤ワインに含まれるポリフェノール類は活性酸素などと反応してこれをつぶし、過酸化脂質の生成を防いでくれるというわけです。
こうした抗酸化作用が強いのはブドウの皮に含まれるアントシアニン類で、しかもそれが数分子つながった「オリゴマー」がさらに強い作用を示すことがわかっています。この重合反応は、ワインが樽の中で熟成される過程で進むことがわかっています。つまり心臓病防止作用は白ワインより赤ワイン、若いワインより年代物のワインが優れているということになります。
こうしたポリフェノール類の中でも注目されているのが、トップに掲げた化合物「レスベラトロール」です。この化合物は抗酸化作用の他、Sir2というタンパク質を活性化することがわかっています。このSir2は「寿命制御因子」とも呼ばれ、レスベラトロールを与えた酵母は寿命が1.7倍にも伸びたという報告もあるそうです。酵母の結果を単純に高等生物に当てはめるわけにはもちろんいかないでしょうが、注目に値する報告であることは間違いありません。