高血圧からきた症状をただの頭痛、肩こり、過労と思い込み、高血圧でありながら自分は健康で高血圧の治療は必要ないと誤解します。「高血圧は無症状」と思っているからです。
高血圧には症状がありますが、特有ではなくありふれた症状なのでイエローカードの警告であることを見落としてしまうのです。
高血圧には症状があること、それが特別のものではなく全くありふれた頭痛、肩こり、疲労感などであることを知れば、多くの人は高血圧の治療を軽視しなくなるでしょう。
「高血圧でも無症状。治療は不要」
母親が高血圧でも長寿。自分もそうなる・・
当院で診察している患者にはそういう人は少ないのですが、ある時ある人との会話の中で高血圧の話題になりました。驚くような事を発言され唖然としてしまった事があります。
「私は血圧が170mmHg程度で高いのだが、何も症状はなく全く元気です。自分の母は高血圧だったが治療しなくても長生きした。私も何もしなくても母のように長生きするだろうから、高血圧の治療はするつもりはない」
簡単にまとめればこの様な内容です。そうではないと手短に説明したのですが、その人はほとんど聞く耳は持たず反論されました。不愉快な表情をされたので、私が余計な事を言ってしまって気まずい雰囲気になったことを後悔しました。
私の患者やコラムを読んだ人なら、この論理は多くの点で誤解があり、知識の乏しさゆえの単純な思い込みである事をお分かりだろうと思います。
「高血圧でも長寿に・・」は大きな不幸?
どこが誤解でしょうか。
170mmHg程度の高血圧なら、普通は高血圧の症状があるはずですが、それを高血圧の症状と認識せずに無症状と信じて疑わない事が最初の不幸です。
珍しいのですが本当に無症状であったとしても、それほど高い血圧を放置しておけば血管の劣化や老化はかなり早く進行し、60歳代の男性なら、あと10年後には何か重大な心臓・脳血管の病気が発症する可能性が高いだろうと予想されます。
「母親が高血圧だったが長生きした」と言っても、何歳までだったのか、何歳から高くなったのか、どの程度の高血圧だったのか、その他の合併症はなかったか等によって、心脳血管障害が起こる確率や時期は違います。
条件によって心脳血管障害が発症する時期は大きくバラつくでしょうから、天寿まで運良くそれが起こらなかっただけかも知れません。その男性が母親と同じ条件とは限らないので、自分が母親と同じ寿命になるだろうの予想はあまり当てにならないと思います。
病気が発症するか否かは確率的な現象であり、高血圧患者全員が心脳血管障害を起こすわけではありません。発症する確率が高いことが問題なのです。
心脳血管障害の危険因子として、高血圧は最悪の一つですが、いろいろな病気や医療統計のデータに関心がない人にはあまり良く理解できないかも知れません。
健康や病気に関心が低く根本的な誤解があれば、そこから生まれた誤った信念でこの様な言葉に至ったのだと思いました。
この様な信念を持ってしまった人に、高血圧治療の重要性を納得して理解してもらうのは、時間をかけて論理的で粘り強い説得を続けなければならないでしょう。
しかし患者としてこんな人が現れた場合、対応する医師は限られた診察時間内で説得を成功するのは至難と思います。あまり遭遇したくない患者です。
私の長い医師人生でこの様な患者に遭遇したケースは少なく、それほど苦労しなかったほうかも知れません。しかしゼロではありません。そんな患者で苦労した記憶を元に書いたのが次のコラムです。 ◆高血圧でも、治療を希望しない人って?
「無症状でも治療は不要」高血圧以外にも
糖尿病、高脂質、肥満。これも治療不要論が
高血圧治療だけではありません。糖尿病、高コレステロール血症、肥満などについても、同じように強い信念を持って治療を拒絶される患者に難渋させられる経験も多くあります。
高血圧の治療の意義を理解してもらえない患者は、基本的にまず医療機関には来ませんので、診察行為が成立しません。しかし糖尿病や高コレステロールの場合は、もし高血圧を当院で治療中であれば合併している糖尿病や高コレステロールの治療も勧めなければなりません。
理由は分かりませんが、それを治療しないと固く信じている患者であっても、当院に通院する限り何度でも同じ事を繰り返しお話しして治療を勧める事になります。そんな繰り返しを数年~十年間続けても信念を変えない患者はやはりいます。
私の方もしつこいようですが、何年経っても繰り返してお話します。患者もそこまで行くと左から聞いて右から流しているかも知れません。そうやって10年が過ぎた患者もいました。そんなケースのコラムを書いた事もありました。 ◆糖尿病やコレステロール 薬を飲まずに頑張って10年を失った人
高血圧からの症状と分かっていない
今日は高血圧に注目してお話ししていますが、ほとんどの場合に高血圧は症状があります。ただ問題なのはその症状が高血圧のためだと患者が自覚していない事です。
もしそれが分かっていればもっと早くから治療を考えたかも知れません。その意味で高血圧は本来無症状だとする「サイレントキラー」の言葉は止めて、積極的に高血圧の症状を広く啓蒙した方がよいのではと思います。
もちろん高血圧の症状は血圧が幾つ以上なら出てくると簡単に数字で示す事はできません。かなり高い血圧であっても無症状の人も確かにいるのです。しかしよく聴くと、ほとんどの人は高血圧の典型的な三大症状の一つや二つはあるものです。それが高血圧によるものだと納得するチャンスを作る事も医師の治療行為の一つであると思っています。
「高血圧は無症状」は不幸な誤解
高血圧はサイレントではない!
強調すべきは、高血圧は「サイレントキラーではない」ことです。
高血圧は「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれます。高血圧とは何も症状がなくて静かに体の障害を進行させ、ある時突然重大な合併症(脳卒中、心筋梗塞、腎不全、大動脈破裂など)を発症すると言う事を一言でいい表した言葉です。
分かりやすいインパクトのあるキャッチコピーではありますが、この言葉が高血圧の症状について誤解を拡大してしまいました。高血圧はいつも無症状であると。
私が強調したいのは、高血圧は決してサイレントではないことです。明らかな症状があります。上の血圧(収縮期血圧)がたかだか140mmHg程度であっても、その症状は存在することが多いと思います。
「無症状」と言った人も、降圧で「体が軽くなった」
私が診療している高血圧の人々の大多数は治療前には症状がありました。ただし私が質問して症状の存在を自覚するまで本人は症状を理解していませんでした。
ほとんど全員と言っていいほど、患者はそれを高血圧による症状だとは考えていないのです。質問で確認しても症状がなかった人は少数でした。
治療前に「症状は全くない」と強調した患者でさえ、治療を開始してから再度確認すると、「少し体が軽くなった気がします」と言います。治療前の質問には「何もない」といった人でも気づいてないだけでやはり症状はあったのです。
ほとんど全ての高血圧患者は、高血圧による症状を「歳のせい、過労のせい、仕事のせい」と誤解しているか、軽くて存在に気づかなかっただけでした。
治療で血圧を下げれば、患者の症状は消えてしまうようです。 ◆高血圧の症状は、下がると消える! たとえ軽い高血圧でも高血圧にはそれなりに症状があると理解してください。
高血圧の症状はよくある何気ない症状から、危険なほどに高い血圧で起こる重い症状まで幅広いものです。その違いも理解して下さい。
高血圧には症状がある事を多くの人が理解するべきだと思います。そうすれば人は高血圧治療の必要をもっと強く自覚するでしょう。
高血圧の三大症状:頭痛、肩こり、疲労感
高血圧の症状を整理します。私が考える三大症状は、頭痛、肩こり、疲労感です。しかしそれ以外にも以下の様な症状があります。 ◆高血圧 三大症状
●頭が重い、頭がボーとする
●肩こり、首筋の張り
●ふらつき、ふわふわ感、雲の上を歩く様なめまい感
●階段・作業・運動・動いた時に、息切れや疲労感
●朝の起床時、疲労感や倦怠感
これらは血圧が140mmHg程度でも存在する症状です。こんな症状があっても患者はそれが高血圧のためだとは考えていません。更に血圧が高くなって危険なほどになって出てくる症状は別のコラムでお話ししました。 ◆危険な高血圧 症状と対応
以上のどの症状もあまりにありふれているので、歳のせい、仕事が忙しいため、疲れのため、睡眠不足のため、過労のため、ストレスが原因、などと患者は自己流に解釈してしまいます。
薬の治療で血圧が下がればこの症状は消えてなくなります。患者から楽になったと喜ばれます。もし治療せずに放置すれば、たとえ話の通り、高血圧がいずれ「キラー」になるでしょう。
症状がないなら「見せかけの高血圧」か?
もし血圧を測っていつもかなり高い値がでているのに症状が何もなければ、逆にその高い血圧は本物の高血圧ではない可能性もあるでしょう。「見せかけの高血圧」です。
「見せかけの高血圧」とは、血圧を測る時だけ高くなっても、それ以外の時は正常血圧であるタイプのことです。このテーマは別のコラムで詳しく展開してお話ししました。 見せかけの高血圧
★注意:以上の話はまだ仮説
患者の感想から推測した仮説
「高血圧は無症状」とする考えは、高血圧の症状がありふれて軽いことからおこった誤解ではないかと推測しました。しかしこの推測が妥当か否かは、十分な検証を経なければなりません。
「高血圧には症状がある」とする私の推測は、従来の常識とは反対の意見になります。この様な従来の常識と異なる見解を述べるには根拠となる妥当な方法論に基づいた公表データが必要と思います。
この意見の根拠となったのは、医師の質問とそれに対する患者の回答です。しかし主治医からの質問は患者にある種のバイアスや誘導を引き出す可能性があります。根拠となる患者の回答は症状変化だけであり客観性があまりありません。
評価に耐えるデータ集積が必要
広く認められた科学的で客観的なデータを集積し解析し公表することは当院では不可能です。当院がこのホームページでお話しした内容にはそのような客観的データが無いことを読者に明示しておかなければなりません。
「高血圧には症状がある」とする推測(仮説)は、まだ「事実」ではなく、個人的な感想や見解にしか過ぎないと強調します。
もし読者がこの意見に少し関心を持たれるなら、頭の隅に置いて高血圧の症状を考える際に役立てもらえれば幸いです。
★参考情報:正常血圧
当院の降圧目標値
当院での目標血圧は以前の日本の学会の正常血圧を指標にしました。
●診察室 130/80mmHg 以下
●家庭血圧 125/75mmHg 以下
長い間この値を目標にして、降圧薬を増減してきました。
米国心臓病学会(ACC)・米国心臓協会(AHA)
2017年11月の米国心臓病学会(ACC)・米国心臓協会(AHA)の高血圧ガイドラインでは、以下の様に基準がかなり厳しく改定されました。
●正常血圧 120/80mmHg 以下
●高血圧 130/80mmHg 以上
そして・・・
高血圧:五記事
血圧は高度に自動制御されている:
◆248 高血圧 測る度に違う。どの血圧が本当か?
高血圧にはハッキリと症状がある:
◆239 高血圧 三大症状
急に血圧が上がる理由は?:
◆080 安定していた血圧が急に上がった その原因は?
薬で下がり過ぎることもある:
◆254 高血圧 薬で下り過ぎると危険ですか?
薬でも下がらない訳は?:
◆064 薬を飲んでも、血圧が下りません
高血圧でも、長生きするなら・・:
◆258 高血圧 それでも、長生きできますか?