「めまい」は体のフラフラした感じを表す漠然とした言葉です。その症状を詳しく表現すると、体がふわふわする、目が回る、頭がくらくらする、目の前が暗くなる、気が遠くなる、周囲がぐるぐる回る、体が揺れる、頭がボーッとする、よろける、ふらつく等、非常に多彩です。
めまいの原因は、1)耳の異常、2)脳・神経の異常、3)全身の血液循環異常(低血圧と心臓病)の三種類です。
高血圧の薬の効き過ぎで低血圧になった時のめまいは、朝の薬を飲んだ午前中に、立ちくらみ、ボーッとする、眠気がする、体がだるい等です。
心臓が原因のめまいなら、短時間意識を失う失神となりますが、病気が少し軽ければ気が遠くなる、一瞬フラーッとする等の「軽いめまい」に似た症状になることもあります。もし心臓のめまいが疑われたら非常に危険ですから必ず調べて下さい。
心配な時は医師に相談ください。
◆心臓病 症状から自己診断は、リスクあり危険
画像:”Vertigo めまい”, Alfred Hitchcocks 監督, James Stewart, Kim Novak
循環不全によるめまい
今日は、特に「全身の血液循環の不良が原因」のめまいについてお話しします。耳には問題なく脳・神経にも問題がなくて、心臓や血圧だけに異常があって起こるめまいを中心にお話しします。
周りがぐるぐる回転するめまいは耳から来るめまいだと思います。これについては別にお話ししました。 ◆天井がグルグル回る「めまい」は、怖い病気ですか?
何かの理由で血圧が低くなったり血液が十分に流れないために全身の血液循環に不調がおこり、「脳が貧血状態」となってめまいとなります。循環不全で起こるめまいです。脳血管障害でなければ原因のほとんどは低血圧によるものです。心臓の病気でおこるめまいは非常に少ないと思って下さい。
しかし可能性は非常に低くても、もしそうなら極めて悪質で重大な病気ですから絶対に見逃してはいけません。少しでも心臓を疑うなら必ず心臓専門医に相談することです。
今日は、めまいの原因で「低血圧と心臓病」の二つについて詳しくお話しします。
低血圧でめまい
血圧が下がってしまう原因として幾つかありますが、当クリニックで最も多いのはやはり高血圧の治療薬が効き過ぎた場合です。
1)降圧薬が効き過ぎる
立ちくらみ
当院では、高血圧患者の治療の降圧目標はほぼ正常血圧に設定しています。
常時このくらいに下げていますと、何かの原因で下がりすぎることがたまに起こります。危険な低下ではありませんが、血圧の下がりすぎで軽い低血圧症状が起こることがあります。患者もよく理解していますので低血圧になっても重大な問題が起きたことはありません。 ◆高血圧 薬で下り過ぎると危険ですか?
降圧薬の効きすぎで一番多い症状は立ちくらみ(起立性低血圧)です。典型的なのは、夏の暑い時などに腰を下ろしてしゃがみ込み、草むしりや畑作業を長い時間してから急に立ち上がる時です。長くしゃがんだ姿勢でいたために脚に貯まってしまった血液が立ち上がった瞬間に一瞬だけ循環不全となり脳での血圧が一時的に下がってしまいます。
これで「脳の貧血」状態となり、2~5秒間のクラーッとしためまいが起こります。同時に目の前が一瞬暗くなります。軽い吐き気や不調がでることもあります。しかし一瞬でありすぐにこの症状は消えてしまいます。
午前中の眠気、ボーッとする
降圧薬は朝に内服することが多いので、午前中は薬の効果で血圧がよく下がっています。午前中に頭がボートしたり、体がだるかったり、眠気が襲ってくる様な時も降圧薬の過剰効果による低血圧かも知れません。
この様なことが起こった時は、高血圧の薬を弱くする必要があります。診察室血圧がそれ程低くなくても降圧薬を減量します。ほとんどでは症状が消失します。秋から冬に向かって血圧は徐々に高くなっていきます。再び血圧の薬を少し強い方に微調整します。
夏の低血圧、降圧薬の衣替え
暑い夏と寒い冬では血圧がかなり変化しますので、夏用と冬用にそれぞれ血圧の薬を変える必要があります。これを「血圧の薬の衣替え」と当院では呼んでいます。 ◆高血圧の季節変化 降圧薬も夏冬の「衣替え」
そうすることによって、暑い夏の過剰な血圧低下を防ぐことが出来ます。しかし年間を通じて正常血圧維持を目標にしていますと、この過剰な血圧低下の出現を完全に防ぐことは出来ません。
2)体質的に低血圧
低血圧のめまいは体質的低血圧で悩んでいる方にも当然起こります。低血圧の人は夏の暑い時は特に苦手です。暑い夏になれば元々低い血圧が更に下がって非常に疲れやすく、体もフラフラしてシッカリせず体調不良になるからです。夏が嫌いになるようです。
血圧を上げる薬もありますが、当院ではそれよりも水と塩分を多めに摂ることをお勧めします。塩分摂取は味噌汁、梅干しや漬物が便利です。毎食事に味噌汁、梅干しや漬物を多めに食べればよいのですが、低血圧症の人はこの食べ物が昔から嫌いな方が多いようです。
3)脱水で一時的に低血圧
暑い夏の日に長時間の屋外作業をした時や、激しい下痢などが続く時に脱水になることがあります。こんな場合も体の中での循環水分量が減るために一時的な低血圧となります。この場合は水分補給すれば容易にめまいなどの体調不良は軽快します。
心臓の病気でめまい
心臓病が原因のめまいは、耳や脳が原因のめまいや起立性低血圧が原因のめまいとはかなり様相が異なります。心臓の病気からくるめまいで最も多いタイプは、突然の数秒間の意識消失(失神といいます)です。
全く予想しないタイミングで突然に意識がスーと消えていきます。わずかな前兆があることもありますが突然やってきます。その時にドキドキなど動悸があることは珍しくほとんど無症状です。
典型的な症状では、意識の消失は10秒以内の数秒間がほとんどで、目が覚めると失神したための事故や怪我でもなければ何事もなかったかのように元気な体に戻るでしょう。
この心臓病には数種類のタイプがあります。
1)洞不全症候群、完全房室ブロック
この心臓病は脈が非常に遅くなったのが原因で失神となります。
この失神は突然起こる、何時起こるか予測できない、短時間ですが完全に意識がなくなる等の特徴があり、おこった状況場面によっては極めて危険なことになります。
例えば、屋根の上なら転落するでしょう、階段を上っていれば下まで落ちるでしょう、車の運転中なら大事故になるでしょう、風呂に浸かっていれば水に頭を浸けて窒息するでしょう。心臓病そのものの危険性よりも、突然の意識消失で誘発される事故が危険なのです。
多くの場合、心臓人工ペースメーカーを体内に植え込む治療が必要となります。当院では2~3年に一人くらいの頻度で発見されます。ほとんどが高齢者です。全員が人工ペースメーカーの植え込みで元気な日常生活に戻っています。 ◆「動くと、ひどく疲れる。脈が遅い」これはどんな病気?:脈が遅い心不全
2)心臓弁膜症、狭心症・心筋梗塞、閉塞性肥大型心筋症
<h5●大動脈弁狭窄
最近の高齢化社会で増えています。この心臓病でも意識消失=失神の症状が出ることがあります。失神からの事故や怪我も危険ですが、失神そのもので心臓が止まってしまうこと(つまり死亡)もありえる非常に危険な症状です。早急に心臓手術等の治療が必要になります。
大動脈弁狭窄は高齢者では珍しくない病気ですが、失神まで悪化するような患者さんは珍しいと思います。そうなる前に手術等の治療をしているか、それ程重くないままで安定しているか、年齢が高すぎて手術等が出来ないかに分かれます。手術が出来ない高齢の方にこの失神が起こることがあります。
●狭心症や心筋梗塞
損傷された血管の場所によっては脈が異常に遅くなる事が起こりえます。この場合は1)の遅い脈の心臓病と同じ様な治療が必要になるかも知れません。
●閉塞性肥大型心筋症
かなり珍しい心臓病があります。この病気も大動脈弁狭窄のような失神を起こすことが知られています。大学勤務時代に一人経験しましたが当院では20年間に一度も見たことがない珍しさです。
3)心房細動、ブルガダ症候群、心室細動など
●心房細動
起こった瞬間にたとえ強い症状が出ることがあっても、その瞬間に生命が危険になることは滅多にありません。しばらくすればその症状も治まっていきます。
症状が治まってもこの病気の治療は必ず始めて下さい。むしろ症状が何もない人がけっこう多くて、この病気に気付かないことが大きな問題です。
●ブルガダ症候群、心室細動
一方ブルガダ症候群や心室細動の不整脈群は極めて悪質で危険です。直ちに生命の危険があります。すぐに専門的で適切な治療を開始しなければなりません。
症状のめまいや失神が軽く終わった場合には、病気の重大性に気付かないことがあります。しかし非常に危険な病気なので出来るだけ早く適切な治療を開始しなければなりません。
極めて珍しい病気で確率は低いのが幸いです。当院ではこれまでに4人程度を診療しました。
心臓病のめまいは、危険なサイン!
心臓病が原因の「めまい」とは、本来は失神となるはずなのですが、軽くて済んだ症状です。一見するとめまいと同じ様な「一瞬、気が遠くなる」「一瞬のフラーッとした感じ」になります。これを深刻な病気と考える人は少ないでしょう。
心臓病の症状が「失神」ではなく軽い「めまい」だから病気は軽いと言うことにはなりません。表れた症状が軽く見えても危険の度合いは高いのです。
はっきりとした失神(短時間であっても意識の消失)があれば必ず病院で心臓を調べて下さい。一方、軽いめまい症状であっても、心臓の不安を感じるなら重大な病気が潜んでいないか一度は調べることをお薦めします。
高齢者なら心臓である確率はそれほど低くありませんが、40歳代までなら、家族に若くして突然死した人がいなければ、心臓が原因である確率はかなり低いでしょう。
★参考情報
「めまい」の原因分類
めまいは体のフラフラした感じを表す漠然として曖昧な言葉です。その症状を少し詳しく分類しますと、
体がフラフラする、ふわふわする、目が回る、頭がくらくらする、目の前が暗くなる、気が遠くなる、周囲がぐるぐる回る、体が揺れる、くらくらする、頭がぼーっとする、目の前が暗くなる、体がシッカリしない、脚がよろける、ふらついて立てない、ふらついてまっすぐ歩けない、等を全て「めまい」と表現するようです。
非常に多彩な症状ですが、その原因は、耳の異常、脳の異常、血液循環異常の三種類に分類されます。耳や脳由来「めまい」の詳しい内容はここで調べて下さい。
●耳の異常が原因の場合
耳が聞こえにくくなり(難聴)、耳鳴りがして(キーン、シューンなどの音が聞こえる)、耳がふさがった感じ(耳閉感)など耳の症状と一緒に起こります。周りがぐるぐる回る(回転性の)、気分が悪く何度も吐く、起きていられない等のめまいが特徴的です。症状は非常に激しいのですが危険ではありません。 ◆天井がグルグル回る「めまい」は、怖い病気ですか?
病名:メニエール病、前庭神経炎、突発性難聴、聴神経腫瘍、良性発作性頭位変換性めまい、等
●脳・神経の異常が原因の場合
一方、脳・神経の異常や全身の血液循環異常が原因であれば、難聴、耳鳴り、耳閉感などの耳症状は普通では同時に表れません。症状も耳が原因のめまいの激しさよりも軽く見えるでしょう。しかし病気の重さとしては軽くない場合が多いと考えます。
病名:脳卒中(脳梗塞、脳出血)、椎骨脳底動脈循環不全、てんかん、血管迷走神経反射、等
●全身の血液循環不全が原因の場合
多くは低血圧や心臓病が原因のめまいです。一見して軽く見えるめまい症状であっても、実際は非常に重い病気のこともあり、症状と病気の重さが関係しないのが特徴です。症状だけから病気を甘く見ないことが大切です。
病名:低血圧(起立性低血圧、脱水など)、遅い脈(洞不全症候群、完全房室ブロックなど)、大動脈弁狭窄症、心房細動等
正常な脈拍数は?
健康な大人の脈拍数とは、静かに安静にしていれば大体50~79回/分くらいです。激しく運動すれば150回/分くらいまで速く動くでしょう。加齢とともに遅くなっていくのが普通です。
激しいスポーツを長年やってきた人なら、安静時に40回/分くらいかも知れません。しかしそれでほぼ正常です。そんな激しい運動はしない普通の生活なら、50回/分以下はすこし遅いと言えます。
安静で脈拍数が80回/分以上(80< 脈拍数 <100)や50回/分以下(脈拍数 <50)であっても、それだけで病気だとは言えません。しかしそれが長い期間続くなら一度は病院を受診して調べた方が良いでしょう。
いつも100回/分以上(100< 脈拍数)や45回/分以下(脈拍数 <45)が続くなら、病気の可能性が高くなります。病院を受診して下さい。 ◆脈の異常:速い、遅い、飛ぶ、抜ける、止まる、弱い、強い
脈拍数の正しい測り方
脈拍数は環境の条件や精神状態で、血圧と同じように極めて敏感に反応し変化します。そのため脈拍数を測定する時は、あくまで安静時が基本となります。脈拍と血圧は、安静時に測る習慣をつけましょう。
自分で脈を測るのは、やってみると分かりますが、意外に難しいものです。そこで皆さんには家庭用血圧計を使って脈拍を測るのをお勧めします。家庭用血圧計は血圧表示の後に脈拍数も表示しますので簡単に分かります。大変便利な機械です。
まず静かに座った姿勢で最低5分間以上待ちます。この時に誰かと話したり、テレビを見たり、本を読んだりはしないことです。心を穏やかに静かに座っています。
この後に腕で血圧を測れば、血圧表示後に腕の脈拍数も表示されます。測定中は動いたり興奮したりしないことです。その時、たばこも吸わないで下さい。測定中は、測定器の表示を眺めないことです。出来れば目を閉じて下さい。
そして、速い脈と遅い脈では・・
速い脈と遅い脈の五部作
脈が異常になる種類は?:
◆379 脈の異常:速い、遅い、飛ぶ、抜ける、止まる、弱い、強い
脈が80以上ならどんな病気がある?:
◆141 頻脈?:安静で脈80台以上、長く続く時は病気が潜む?
脈が100前後なら心臓の病気か?:
◆283 脈が100前後、速くて気になる どんな病気?
脈が異常に遅く、すごく疲れるのは?:
◆303 動くとひどく疲れる、脈が遅い。これはどんな病気? ー脈の遅い心不全ー
めまいや気を失って、脈が遅いと危険か?:
◆314 心臓病や低血圧でおきる「危険なめまい」とは?
心臓病の究極予防:
◆369 心臓を健康にする ー心臓病・心不全の超予防ー