心筋梗塞になった人に「なる前に何か気になる症状はありませんでしたか?」と聞くと「何もなかった。いきなりだった」と話す人が多いようです。しかし「こんな症状はありませんでしたか?」と問われれば、恐らく「あれが前兆の初期症状だとは思わなかった。知っていれば・・」と残念に思うでしょう。
症状が静かで穏やかで軽くそんな重大な心臓病の前兆の初期症状だとは気付かなかったのでしょう。見逃して後悔しないために警報サインとも言うべき超早期の前兆をよく理解しておきましょう。知っていれば後から役立つと思います。
心配な時は医師に相談ください。
◆心臓病 症状から自己診断は、リスクあり危険
前兆で早期発見・早期治療
●超早期の症状は、静かで軽く発見は難しいが
狭心症であれ進行した心筋梗塞であれ予防したいのが本音です。しかしもしなってしまったなら出来るだけ早期に発見し治療を開始してその後の人生への影響を最小限に止めておきたいものです。
心筋梗塞になった人に「発症前に何か軽い症状はありませんでしたか?」と聞くと「全く何もなかった。いきなり心筋梗塞になった」と話す方が少なくはありません。
前兆の初期症状が全くなかった人もいたでしょうが、恐らく多くの人は「こんな症状はありませんでしたか?」と問われれば「まさかあの症状が前兆の症状だとは思わなかった」と驚き残念がるでしょう。
●予備知識があれば、超早期の発見は可能?!
それが軽い症状なので狭心症や心筋梗塞の前兆だとは気づかなかったのが本当のところだと思います。もしその時点で予備知識があり狭心症の前兆だと気づけば、早期に検査や治療が出来て今頃は違う人生であったかも知れません。事前にその知識があったなら・・と思うでしょう。
前兆となる初期症状は非常に軽いことが多いので、事前の予備知識が無いとこの様に警報サインを見逃してしまいます。結果的に早期治療のタイミングを逃して残念な結果になってしまいます。
自分の生命や将来の人生を考えて、狭心症や心筋梗塞の前兆の初期症状を事前に良く理解し憶えておくことをお薦めします。今日は皆さんにそのための予備知識を整理して少し詳しく説明したいと思います。
今後の人生をいつまでも健康でいるために是非この知識を活用下さい。
●医師にとっても、超早期診断は難しい
もし狭心症や心筋梗塞の前兆の初期症状のようなものがあって、疑ったら心臓専門医に相談下さい。
典型的な症状まで進行した狭心症や重症になった狭心症なら診断(病気の確定)は比較的容易です。しかしここで話題にするような前兆段階の非常に軽い初期症状を診断するのはベテランの内科医でさえかなり難しい判断になります。
患者自身が折角見つけてくれた願ってもない狭心症や心筋梗塞の早期治療開始のチャンスに「ハッキリしませんから少し様子を見ましょう」と貴重なチャンスを逃してしまうことになります。
もしこんな早期の段階で診断ができ適切な治療や対応が開始できれば、狭心症や心筋梗塞は決して恐ろしい命を奪う病気ではありません。その後は何事もなく平穏な人生が可能になるでしょう。
症状=発作(ほっさ)について
狭心症とは心臓を養う血管(冠動脈)が老化で狭くなり、そこを血液が流れにくくなったために起こる症状です。心筋梗塞はその血管が完全に詰まった状態の症状です。この症状を発作(ほっさ)といいます。狭心症や非常に軽い心筋梗塞なら、この症状が突然に起きて数分間の短時間で終わって後は何でもないのが普通です。
この発作の緊急性と重症度をその場で推測する方法はここで詳しくお話ししました。 ◆狭心症・心筋梗塞 発作からわかる、緊急性と重症度
1)初期症状(静かで軽い発作)の特徴
初期症状の中で最も特徴的で重要だと思われることをここにまとめます。最小限これだけでも憶えておくと役立つでしょう。
●胸が痛いこともあるが、多くは胸が押される、締め付けられる、心臓がギュッと手で握られる、胸の奇妙な感じや嫌な感じなど、何とも説明しにくい今まで経験したことのない違和感
●チクン、チクチク、ズキン、ズキズキ、ピリピリ、ヒリヒリ等の鋭い痛みではない
●「あれ?、何だろう、気分悪いな」程度の軽さ。苦しいや冷や汗もなく、我慢できないほど強くない
●数分から長くて30分くらいまで、数秒以内ではない
●終わるとなんともなく、忘れてしまう
●発作を忘れた頃に、再び繰り返す
●同じような状況(誘因がある場合)では、同じ症状がおきる
●静かにしている時や睡眠中にも多いが、歩行、緊張、興奮、寒い時、作業・運動中だけにおこる場合もある
●ストレスや緊張が続く時だけでなく、それが解けた直後におこることもある
2)起こるタイミング
●突然に起こる。「突然」が特徴です。いきなりです[page_tree]
狭心症の症状がある胸の場所です。
3)体のどこが?
●胸の高さで、その中央部ないし少し左よりのエリア(これ以外もよくある)
●片手のひら程度の広さの範囲。指でさし示す狭さではない
4)発作の特徴を追加
●痛みと言うより、圧迫される,締めつけられる、握られるような感じ
●体がけだるい、何となく疲れた様な感じ
●なんとも表現し難い胸の(全身の)違和感
●嫌~な感じ
●身の置き所がないような感じ
●胃のあたりの、不快感、もたれ感、痛み
●胸やけ
以上の症状が起こっているその時だけ、以下の症状も同時に起こることがあります
●背中の、痛み、締め付けられる感じ
●おく歯の、痛み、うずき
●首(のど)の、締めつけ
●肩凝り
●左腕の、しびれ、だるさ
5)発作の続く時間
●症状は数分間~30分くらいまで、自然に消える
●数秒や、数時間から一日中続くことは稀(そんな場合もあります)
●歩行中、作業中、運動中なら、中止するとしばらくで消える
6)発作が終わった後は・・
●消えた後は、何もなかったかのように戻る(しばらく違和感が残ることもある)
●発作が終わると、以上の症状全部が一斉に消える
重要なのは「発作が終わると、すべてがほぼ同時に一斉に消える」ことです
7)発作シーンの具体例
それでは具体的な症状(発作)の例を示します。ほんの一例です。現実には患者毎に非常に多彩です
● (11) 静かにしているのに急に胸が締めつけられたが、そんなに苦しくはなかった。
● (16) 深夜から明け方にかけての睡眠中、胸が圧迫され少し苦しくなり目が覚めた。
● (17) 寒い日や運動をしている時など,胸が圧迫されるような,押されるようになることがある。同時に左腕が奇妙にだるくなる。症状は消えるのも早い。
● (18) 緊張したり不安があったりすると、胸が焼けるような落ち着かないような気分になる。
● (20) 胃の辺りから変な感じが起こって、だんだんに上の方に移動していく。
● (22) 突然何とも言えない嫌な感じに襲われた。いてもたってもいられない、身の置き所がないようなと言う表現に一番近い。
● (23) 下顎から喉(ノド)にかけて詰まるような,絞めつけられるような変な感じと、奥歯がうずく感じが出る。耳鼻科や歯医者さんでは問題なしの話だった。
● (24) 食事の後に,みぞおちあたりに軽い吐き気がでて胸やけのような違和感があるがすぐ消える。胃の検査をしたが軽い胃炎と言われた。胃薬を飲んでも良くならない。
発作の誘因
狭心症・心筋梗塞の発作を誘発する因子として、以下のようなものがあります。静かにくつろいでいる時に発作がおこるのは普通です。
狭心症・心筋梗塞の発作は「運動や活動している時に起こるもの」と誤解している人がいます。睡眠中だから、安静の時だから、活動時にも安静時にも両方でおこるから違う、とは考えないで下さい。どれもあります。
1.ストレス
●心配事、心労、過労、ストレスがあった時、あった日
●心配事、心労、過労、ストレスがしばらく続いている間
●心配事、心労、過労、ストレスが消えてホッとした時
2.運動中、作業中、直前と直後
●スポーツなどの運動中
●仕事に入る直前の、慌ただしい準備中
●労働の作業中
●散歩中、急ぎ足、走った時
●階段や坂道を登っている時
●買い物の途中
●掃除中
●布団のあげおろし
●台所の仕事中
3.寒い環境
●寒いトイレや廊下
●暖かい家から寒い室外にでた時
●寒い風に向かって歩く時
4.緊張感、興奮
●車の運転中
●口論や喧嘩、怒り、興奮した時
●テレビ,舞台,スポーツ,ゲームなどを見て興奮した時
●ゴルフで最後のパットを打つ瞬間
●悲しい出来事があった時
5.その他(これも多い)
●深夜、寝ている時に限って
●朝の明け方に集中しておこる
●静かにくつろいでいる時、本を読んだり台所仕事の時
●こわい夢や嫌な夢を見て目覚めた時
●アルコールを多く飲んだ深夜や翌朝
●性行為中や終わった時
なりやすい因子
或る年齢以上なら、誰でも狭心症や心筋梗塞になる可能性があります。特に以下の因子がたくさんある人により高い確率で起こることが分かっています。この病気にならないよう、可能ならそれらの因子を出来るだけ改善して良い状態にしておきましょう。
●一般的には、中高年がなる血管の老化による心臓の病気
●男性は30歳代からでもありえるが、女性は月経が終わる頃(閉経)から急に可能性が高まる
●男性は肥満で多量喫煙など高リスクなら若くてもありうる。女性では非常に高いリスクがあったり、卵巣摘出手術後なら若くても可能性がある
●微小血管狭心症は例外で、リスク因子がなくても30歳代でありうる。知的な?(仕事の)女性に多い。症状が狭心症らしくなく間違えられることが多い。注意注目するべき病気。
●狭心症になりやすい一般的な生活環境、身体条件、遺伝的素因などは以下に整理しました。
・血圧が高い
・強いストレス、過労、緊張感が続く
・過酷な仕事が続く
・コレステロールのLDL-C/HDL-Cの比率が高い(動脈硬化指数)
・食後2時間の血糖が高い(食後!の高血糖)
・ヘモグロビンA1c(HbA1c)が少し高め(少しだけ高い)
・中性脂肪が高い、尿酸が高い
・タバコを吸う
・運動不足
・肥満や太め体格(BMI>23)
・不規則、変則的な生活
・親や家系に狭心症・心筋梗塞がいる
狭心症:3種類のタイプ
狭心症には現在3タイプあることが分かっています。それぞれ症状に特徴的な違いがあります。この違いは大切です。症状の違いを出来るだけ整理して理解しておきましょう。
1. 労作性狭心症(代表的な狭心症)
散歩中、寒い時、運動した時、作業中、興奮した時などに発作が起こります。
2. 異型狭心症(冠れん縮性狭心症、安静型狭心症)
静かにしている時、特に夜中や明け方の睡眠中に発作が起こります。運動時にはまずなりません。
3. 微小血管狭心症(第3の狭心症)
特に女性に多い狭心症。30歳代の若い人でもあります。静かな安静時や夜間に多く発作が起こる。一般的な狭心症の症状と少し違っていることが多い。ニトロも効果が無いことが多く、「狭心症ではない」とされて間違えられやすい。
どんな検査でも所見が見つからない。適切な治療が開始されず、長年にわたり悩み苦しむ人がかなりいる。 ◆女性に特有で、診断つかず不安が長びく心臓病:微小血管狭心症
4. 混合型
先の3つのタイプの全ての組み合わせがあり得ます。症状は複雑になり診断は難しくなります。
3種類の違いについては、ここで少し詳しく解説しました。 心臓病の症状と治療■05 胸痛(狭心症と心筋梗塞)
そして・・、狭心症なら?
狭心症・心筋梗塞の五部作
胸痛を専門医が診断する手順:
◆062 胸が痛いのは心臓病? ーその診断方法ー
狭心症を早期発見する:
◆290 狭心症・心筋梗塞 超早期の発見は、静かな症状に注目!
発作から病気の重さを予想する:
◆349 狭心症・心筋梗塞 発作からわかる、緊急性と重症度
狭心症になり初めて診察:
◆130 狭心症の治療開始 初めての診察の風景
狭心症を、薬と生活で治す:
◆257 狭心症・心筋梗塞 食事・運動・薬でなおす
心臓病の究極予防:
◆369 心臓を健康にする ー心臓病・心不全の超予防ー