心臓の病気にはどんなものがあるか、よくある病気をやさしく解説します。
1. 不整脈: 正確な拍動リズムに乱れ
2. 冠動脈疾患: 栄養を通す血管に劣化
3. 心臓弁膜症: 心臓の弁が不調
4. 心筋障害: パワー源の筋肉に傷み
5. 心不全: ついに心臓がパワー不足!
画像:映画「ミクロの決死圏 fantasitic voyage 1966」より
1. 不整脈:正確な拍動リズムに乱れが
不整脈とは?
心臓は規則正しく動き続けます。速くなったりゆっくりになったりはしますが定常状態では測ったように正確に動いています。
この正確な拍動リズムに乱れが起こった病気を「不整脈」と言います。
不整脈には種類が多いのでよくある代表的な不整脈を紹介します。
ここで説明する以外の不整脈は、以下のコラムで解説しました。
■. 期外収縮(上室性期外収縮、心室性期外収縮)
心臓の動きが一回だけ乱れた動きになります。正確には上室性と心室性の二種類がありますが、詳しい説明は省略します。
普通は上室性の方が病気は軽いでしょう。非常によくある病気ですが不整脈の中では最も軽い病気です。
稀に危険なものもありますから甘くは見ないで下さい。
■. 房室ブロック
心臓の中に電気が流れる線が配線されてます。脳からの指令はこの線を通じて心臓全体に伝達されます。その経路で心臓は動かされています。もしこの線が切れると脳の司令が届かなくなるので、止まりませんが、極端に遅くなってしまいます。
この病気には3段階あります。最も障害が高いレベル3では、突然意識を失って失神することもありますから危険で早急の治療が必要です。
■. 発作性上室性頻拍症
心臓がある瞬間に突然動きを速める状態になります。例えば安静で一分間65回で動いていた心臓が突然一分間130回ほどに速くなります。
患者は速く動いた心臓をドキドキと異常な不快さを感じます。恐ろしい病気ではありませんが診察を受けてください。
■. 心房細動 (発作性と慢性)
心房細動では、心臓が速く動くだけでなく規則性もなくなり拍動の間隔がデタラメになるのが特徴です。バラバラなリズムで心臓は速く動いています。
発作性心房細動も発作性上室性頻拍症も起こった瞬間は似たような症状ですが、患者はその違いを区別できません。この二つは症状としては似ていますが病気の重大さには大きな差があります。対応は心房細動の方が相当に複雑で面倒です。
すぐに治療を開始することを勧めます。詳しくは別のコラムでお読み下さい。
■. 洞不全症候群
この病気は心臓の動きが遅すぎることです。心臓は普通は一分間50回以上で動いていますが、45回やそれ以下になると全身への血液供給が不十分で、疲れやすさや脳の栄養不足からボーとなります。
更に病気が進行すれば、たまに10秒間くらい心臓が動きを止めてしまうことが起こります。普通は1秒に一回程度動きますからこんなに長く心臓が動かなければ脳の細胞は機能不全となり、短時間ですが意識を失います。
これを失神発作と言います。短時間で意識はすぐに戻りますが危険な状態ですから厳重な治療が必要です。
2. 冠動脈疾患:栄養を送る血管が劣化
冠動脈疾患とは?(虚血性心疾患)
心臓が活動するために必要な栄養は血液からもらいます。心臓へ血液を送りこむための血管を「冠動脈」と言います。
この冠動脈は心臓の周りをぐるりと取り囲むように張り付いています。
その血管の病気を冠動脈疾患と言います。たとえると下水道管が長い時間で劣化して管内にこびり付いたゴミやヘドロで管の中が狭くなって水が流れにくくなってしまった状態と似ています。
血管の老化ですから本来は老化が進んだ高齢者におこる病気です。最近はこの老化が若い年代におこり若い患者が増加していることが問題です。
病気としては、狭心症と進行し重症化した心筋梗塞の2つがあります。症状はどちらも胸の痛みや圧迫感ですが個人差は大きく様々です。
■. 狭心症
冠動脈(パイプ状の管)の内腔が老化で狭くなってしまいました。そこを栄養を運ぶ血液が円滑に流れていけない状態です。それで起こる症状です。
狭心症は大別しますと3種類あります。
1)代表的な労作性狭心症(狭心症と言えばこのことです)
2)異型狭心症(安静型、冠れん縮性、異型狭心症とも言います)
3)最近注目されている、微小血管狭心症
→ ◆117 女性に特有で、診断つかず不安が長びく心臓病:微小血管狭心症
この三つの違いは重要ですからもしこの可能性があるなら区別をよく理解しておいて下さい。別のコラムで詳しく話しました。→ 心臓病の症状と治療■05 胸痛(狭心症と心筋梗塞)
■. 心筋梗塞
冠動脈の一部が老化で狭くなって血液が円滑に流れなくなった狭心症の状態から、血管の劣化が更に進行し完全に閉塞して詰まってしまいました。
詰まってしまった場所から先は血液が完全に遮断されます。そうなった瞬間におこる病気が心筋梗塞です。狭心症から進んだ病態で狭心症よりもっともっと危険な状態です。
狭心症で命を落とすことは稀ですが、心筋梗塞では統計的に10人に1人が命を失うと言われています。命に関わる病気ですから狭心症の患者なら絶対に心筋梗塞に進行させてはいけません。
狭心症の段階で見つけて十分な治療と対策をすれば心筋梗塞へ行かずに済むでしょう。その対策はここで詳しく話しました。→ ◆168 狭心症から心筋梗塞に! 行かせない生活スタイル
3. 心臓弁膜症:心臓の弁が不調に
心臓弁膜症とは?
心臓は拍動することで全身に血液を送り出す力を与えています。この拍動で血液が確実に前に送り出されます。その血液拍出のために心臓には4つの弁が配置されています(大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁の4種類)。
この弁のおかげで血液は確実に前方に送り出され逆戻りすることはありません。毎回の拍動で血液は常に前に流れていきます。
この心臓の弁が故障した状態を心臓弁膜症と呼びます。
弁がうまく閉じなくて血液の一部が元に戻ってしまう病気を弁の閉鎖不全症。弁の開放が不十分で血液を前方に送り出しにくい病気を弁の狭窄症と言います。
心臓にある4つの弁はすべてにこの二通りの病的な状態が起こりえます。
最近この異常は高齢者でよくみる様になりました。原因はやはり老化です。
最近は多くの心臓弁膜症は70歳以上の高齢者で発見されます。定期的に病院に通院していない高齢者では、病気がかなり進行しないと気がつかず見つかった時には相当に重症ですぐに手術と言うこともあります。
若い人にこの病気はほとんどなくなりました。もしあれば珍しくて特別な原因と思われます。
■. 大動脈弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症
4つの弁のうち、最も大切な大動脈弁にその異常があります。
■. 僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症
大動脈弁に次いで大切な僧帽弁に異常がおこりました。
■. 三尖弁閉鎖不全症、三尖弁狭窄症
三尖弁という名前の弁に異常があります。
■. 肺動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁狭窄症
肺動脈弁という弁に異常がある病気です。
4. 心筋障害:パワー源の筋肉が傷んだ
心筋症や心筋障害とは
心筋症とは心臓パワーの源泉である心臓の筋肉そのものに何かの障害や傷みがある病気のことです。
心臓の筋肉は元来非常に丈夫に出来ています。簡単にダメ(機能障害)になりません。
母親の胎内にいる時から動き始めて100歳くらいまでの一生を1日に10万回以上も動き続け、1日どころか1分さえも休まず延々と働き続けることが出来るます。
心臓はこんなに丈夫な臓器です。そんな心臓の筋肉に異常がおこったのが心筋症です。
病気の原因が分かるものと分からないものがあります。分かる原因で最も多いのは「高血圧」でしょう。高血圧は心臓の筋肉に悪い因子の代表と言っていいでしょう。
「血圧が高くても健康だ。どこも悪くはない。だから血圧の治療は必要ない」と豪語する人がいます。
その人の人生観ですから自由ですが、そんな人は恐らく高血圧という病気の真実をまだ知らないのだと思います。
■. 高血圧性の心肥大、心臓弁膜症の心拡大や心筋障害
心臓の筋肉がダメになる原因がハッキリしている病気として、数が多いのは高血圧です。血圧が高いと心臓の筋肉に大きな負担となります。長年この負担が続けば心臓の筋肉が回復できないほどに疲れ切ってしまうと考えて下さい。
その治療は簡単です。降圧薬を飲んで血圧を正常にまで下げておくことです。これで心臓の筋肉には問題解決です。
高血圧と較べれば遙かに少ないですが、もう一方のよくある病気は心臓弁膜症です。心臓弁膜症も弁が不調であるため長年月にわたり心臓の筋肉に負担がかかり続けます。
結果として心臓の筋肉に障害が出てきます。心臓の筋肉に大きな障害がでる前に傷んだ弁を正常なものに交換する手術(最近はカテーテルでできる治療があります)を医師から進められるでしょう。交換すれば筋肉の損傷はそこで停止します。
これらの病気を心筋症とは言いませんが心臓の筋肉がダメになるので便宜的にここでお話ししました。
■. 心筋梗塞から虚血性心筋症へ
心筋梗塞が原因で心臓の筋肉が大きく損傷されることはよくあるケースです。
本来は心筋症とは言いませんが、実質的には心臓の筋肉の高度な損傷ですからここで話します。
心筋梗塞に一度でもなればその時一部の心臓の筋肉はダメになってしまいます。一発で心臓の一部の筋肉はほぼ完全にダメになります。高血圧の場合なら数年の時間をかけてゆっくりと障害は進行するのですが、心筋梗塞は発症した数時間で筋肉は完全にダメになってしまうのです。ここが高血圧と全く違う点で心筋梗塞の恐ろしい特徴です。
たとえ心筋梗塞が軽くダメになった筋肉量は少なくても、その後からも軽い心筋梗塞を何度も繰り返せばダメになる筋肉の量はどんどん増え、そのうち筋肉の大部分がダメになり、生きていくために必要な力を心臓は出せなくなるでしょう。この段階になればその心臓を虚血性心筋症と言います。
一回の心筋梗塞で軽く済んだ場合、それ以後は二度と心筋梗塞を繰り返さないことです。心筋梗塞後の狭心症発作さえ起こさないことです。それが心臓を守る最善の対策です。
基本の対策は狭心症で話したことと同じです。心筋梗塞だからといって新しく付け加えることは特にありません。ここにまとめました。→ ◆狭心症から心筋梗塞に! 行かせない生活スタイル
■. ウイルス性心筋症(ウイルス感染後の心筋症)
ウイルスの感染よっておこった心筋症です。ウイルス感染症とは分かりやすく言えば「風邪」です。一見ただの風邪をひいただけですが、その感染したウイルスが同時に心臓の筋肉に入り込んで悪さを働き筋肉をダメにしてしまいます。最悪なら重い心不全になるかも知れません。
この心筋症がおこった時、心臓の筋肉にかなり強いダメージが加わりますが、病気の回復の過程で数年単位の時間はかかりますが、ゆっくりと筋肉の状態が回復していくことがあります。その意味で心筋梗塞などとは違って長期に回復可能な病気と言えるでしょう。
■. 拡張型心筋症、肥大型心筋症
このタイプの心筋症はどのようなメカニズムで病気になるのか原因不明です。幸いにも病気がおこる頻度は非常に少なく幸運です。
大きく分けて二つあります。「拡張型心筋症」と「肥大型心筋症」です。この病気の原因はともにまだ正確には解明されていません。治療法も十分に確立されたとは言えません。病状は長期間かけてゆっくりと進行していくようです。
5. 心不全:ついに心臓がパワー不足になった!
心不全とは?
心不全とは元々心臓に何かの病気があってその病気から引き起こされた全身の循環不全の状態です。
元の心臓病が何であれ、そのために心臓の拍動パワーが大きく低下し能力が不十分となりました。そのため全身への血液供給が不足して全身の代謝活動が低下します。
その結果で全身がどうなるか、別のコラムで分かりやすくお話ししました。
心不全の原因となる心臓の病気はたくさんあります。最近多い心臓病を取り上げます。
■. 心房細動で心拡大が進行
高齢化社会になり心房細動患者は増加の一途だと思います。心房細動は将来心不全になる確率はかなり高く、現在も患者数は多いですが更に多くなっていくと予想します。
きちんとした医学管理をすれば病気の進行を少しでも遅らせることが可能です。無症状だからと放置するのが最悪です。
■. 心筋梗塞の心筋障害が進行
心筋梗塞で心臓が大きく広く損傷されれば心不全は必発です。心筋梗塞の重症にもよりますから、心不全にならない人もいると思います。狭心症だけなら通常は心不全にならないでしょう。
■. 高血圧で心臓は心拡大。さらに心肥大へ
高血圧を長期間無治療で放置していると心臓は拡大し筋肉が肥大しますが、それでも治療しなければ最終的には肥大した筋肉はダメになっていきます。そうなった時には心臓の筋肉全体の力が落ちてしまい心不全が表に出てきます。
予防は降圧薬を内服し血圧を正常まで下げておくことです。
■. 心臓弁膜症で心筋障害に
これも高齢化の波で増えている病気です。弁膜症が重症化すれば心不全が起こってきます。軽ければ心不全は起こりませんが、進行して心不全になったら最終的には弁交換手術です。
しかし心不全が出てくる前に弁交換の手術をするのが理想です。患者は高齢者が多く手術するか否かは年齢などとの関係で決まるでしょう。
最近は手術をせずにカテーテル操作で弁を修復できる新しい弁修復技術が開発されました。
■. 拡張型心筋症、肥大型心筋症が進行し悪化
心不全にまで行く可能性は他の心臓病より高いと思います。新しいよい治療法の開発が待たれます。