高血圧を薬で治療すると血圧が下り過ぎて危険ではないかと不安に感じる人がいると思います。
薬剤治療で血圧が必要以上に下がり過ぎることはありますが、軽いめまい、ボーとする、体がだるい等の軽い症状がほとんどで、危険な症状が現れることは決して多くありません。
条件によって稀に一瞬意識が消失し転倒や事故が誘発される可能性がありますが、慎重に薬を選び患者も体調変化に注意していれば、そのような重大なトラブルは避けられるでしょう。
血圧を十分下げるメリットとデメリットの天秤になりますが、可能なら正常血圧まで下げる治療で若々しい健康を獲得して下さい。
次のコラムも参考になります。 ◆心臓病や低血圧でおきる「危険なめまい」とは?
その血圧は低すぎか?
低すぎる血圧
高血圧で降圧薬を飲んでいる人は薬が効きすぎて血圧が下がり過ぎる事があります。血圧は高いと弊害がありますが、下がり過ぎてもまた問題となります。下がり過ぎた血圧と思っても、無症状で元気であればあまりその低い血圧に不安を持つことはありません。体調がしっかりしていればその程度の低い血圧でもあまり問題となりません。
患者が低いと思う血圧は人によりますが120mmHg台でも下がり過ぎと思う人がいます。条件にもよりますがこの血圧なら正常血圧です。ある意味で理想的によい血圧といってもいいと思います。
若い女性は100mmHg以下も普通
高校生や20歳頃の若い女性が風邪等で当院を受診することがあります。風邪であっても私は血圧を測りますのでこのような若い女性の血圧を診察する機会がよくあります。若い健康な女性の血圧は上が100mmHg以下は普通のことです。それで全く健康に生活しています。
こんな人では低血圧の症状はありません。健康であれば年齢にもよりますが上が100mmHg前後で何も問題ない血圧です。その人にとって「血圧が低すぎる」基準とは何かですが、年齢、持っている病気(合併症)、家庭血圧の値によって変わるでしょう。
健常者で無症状なら低くてよい
高齢者で脳血管障害、心臓病、腎臓病の合併症があって血圧が170mmHgの人に、強い降圧薬で急速に120mmHg程度まで下げるならそれは下げ過ぎでしょう。かなり性急な下げ方だと思います。合併症がなければゆっくりと120mmHgに下げるなら危険とは言えません。
この様に「低すぎる血圧」とは患者の体の基礎条件によって違いますから簡単ではありません。ここでは大雑把ですが上の血圧が100mHg以下で低血圧の症状がある場合を「低すぎる血圧」とします。
目標が厳しければ低血圧がでやすい
高血圧の薬を毎日服用している患者です。当院の様に高血圧の治療目標を家庭血圧で125mmHg以下診察室で130mmHg以下になるよう薬を調節しているなら、ある状況では100mmHg以下になる事は十分あり得ます。またなる事を想定しなければなりません。それでもし低血圧の症状が出るようなら降圧薬を変更する必要があります。
外来での降圧薬の調整には神経を使います。降圧目標に近づけながら同時に低くなり過ぎないよう緊張感を持ちながら毎回治療薬を選択します。当院では最初の数ヶ月間は2週間毎、それ以後では長くて一ヶ月毎のリズムで診察します。最初の内は患者が毎日家庭血圧を測定しその値が110mmHg以下が続くようなら自己管理で薬を調節するよう指導し変更する際の詳細も事前に教えます。
この様に患者が自分自身で薬を細かく管理できれば低血圧のトラブルは回避出来ると思います。しかしどんなに注意しても一時的に低くなりすぎることを完全に防ぐことは出来ません。家庭血圧の治療目標を125mmHgと低値に設定する以上、血圧の一時的な下がり過ぎは完全には避けられないと思います。
下がり過ぎたために起きたと推測されるトラブルを経験しました。20年以上で数回ですが、幸いどれも重大なものではありませんでした。部屋の中でふらついて転びお尻を打った、めまいで転んで頭を打った、運転中にボーとして道路わきに車を乗り上げた等です。ほとんど高齢者です。
目標が甘ければ病気の抑制は不十分
血圧の治療目標を150mmHg程度の高めに設定すれば、様々な生活の場面でも100mmHg以下になる事はほとんどないでしょう。このような場合では血圧が下がり過ぎて不都合な症状やトラブルに出会うことはまずないと思います。
この高めの管理目標では十分低くした場合に較べて高血圧による血管障害(血管の老化や劣化)の進行を十分に抑制することは難しくなるだろうと思います。前提条件はありますが原則的に血圧は「the lower, the better」で、低いほど体によいと言われます。当院では正常血圧まで下げるのを長年の目標にしています。
正常への降圧か少し高め維持か
血管の動脈硬化(老化)予防を優先し厳格な降圧管理をするか、低血圧の問題を避けて少し高めに血圧管理するか悩ましい問題です。しかしメリットとデメリットを秤にかけると厳格な降圧の方が有利だろうと考えました。 ◆医学データは、健康な20歳が目標
患者に心臓病、腎臓病、糖尿病等が合併しているなら、とりわけ厳格な降圧を維持する事が大切な意味を持ちます。正常レベルに血圧を維持することが、心臓病、腎臓病、糖尿病の病状悪化を確実に抑えます。多くの医学報告があります。 ◆心臓病 最も大切なのは正常血圧
低血圧の症状
どんな時に下がり過ぎか
どんな状況で血圧が下がり過ぎるのでしょうか?高血圧治療中の患者で血圧が下がり過ぎるもっともありふれた場面は気温が上がった暑い時です。
春から夏に向かうと気温が上昇します。気温が上がれば血圧は下がります。冬用の強い降圧薬を夏用の弱い薬に変更しなければ血圧は110mmHgを下回る事が起こるかもしれません。その時に低血圧の症状が出るか出ないかは人により異なります。
低血圧症状はなくても常時に100mmHg以下は避けた方がよいと考えます。低血圧症状のあるなしに関わらずこの様な患者には降圧薬を弱く変更するのが普通です。当院では原則として冬用と夏用で違った降圧薬を処方します。 ◆高血圧の季節変化 降圧薬も夏冬の「衣替え」
それ以外に一時的に血圧が下がり過ぎる場合としては、
・入浴、シャワー
・飲酒
・運動の終了後
・下痢
・発熱
・高温の環境
・発汗が強い時
・座ったままで動かない生活
体を温めた時や脱水状態になった時が特に下がりやすくなります。一時的に降圧薬を中止するか減量して水分をよく補給し脱水を解除します。患者には家庭血圧測定の意義をよく知ってもらう事と脱水の可能性が高い時は薬を減らす事を事前によく説明するようにします。
低血圧の症状
高血圧の薬内服にかかわらず血圧が下がった時の症状に違いはありません。血圧が下がり過ぎると最初に現れる症状は脳に血液が十分回っていない症状ですから、いわゆる「脳貧血」の症状です。
・体がシッカリしない
・フラフラする
・しゃがんで立ち上がると、一瞬クラーッとなる
・だるくて疲れやすい
・頭がボーッとする
・元気が出ない
・意欲の低下
・判断力の低下
・注意力が散漫
・あくび多発
・眠気
・認知症が悪化
・全身の倦怠感、脱力感
・一時的な意識消失
なかでも大切なのは「眠気」と「集中力や注意力の低下」です。危険な作業や車の運転などでは特に注意が必要です。高齢者なら「認知症が悪化」しているように見えるかも知れません。認知症の進行悪化と誤解されます。
まとめ
正常血圧まで上げる厳格な降圧で得られるメリットとデメリットを考えて、一時的な軽い症状を恐れず、正常血圧まで下げましょう。体調を注意深い観察し降圧薬を慎重に選択して、若々しい健康な体を獲得しましょう。 ◆高血圧 それでも長生きできますか?
降圧の目標値:正常血圧
*参考情報
当院の降圧目標値
当院での目標血圧は以前の日本の学会の正常血圧を指標にしました。
●診察室 130/80mmHg 以下
●家庭血圧 125/75mmHg 以下
長い間この値を目標にして、降圧薬を増減してきました。
米国心臓病学会(ACC)・米国心臓協会(AHA)
2017年11月の米国心臓病学会(ACC)・米国心臓協会(AHA)の高血圧ガイドラインでは、以下の様に基準がかなり厳しく改定されました。
●正常血圧 120/80mmHg 以下
●高血圧 130/80mmHg 以上
そして・・・
高血圧の五部作
血圧は高度に自動制御されている:
◆248 高血圧 測る度に違う。どの血圧が本当か?
高血圧にはハッキリと症状がある:
◆239 高血圧 三大症状
急に血圧が上がる理由は?:
◆080 安定していた血圧が急に上がった その原因は?
薬で下がり過ぎることもある:
◆254 高血圧 薬で下り過ぎると危険ですか?
薬でも下がらない訳は?:
◆064 薬を飲んでも、血圧が下りません
高血圧でも、長生きするなら・・:
◆258 高血圧 それでも、長生きできますか?