医療の急速な進歩
医学の進歩は速く、新しいテクノロジーを活用し急速に進化しています。医学の広い分野にわたってドンドン新しい検査や治療が展開されています。それはそれで大変に良いことですが、私たちの土俵に限定して考えますと実はそれほど急速に新しい手法が押し寄せているわけではありません。
当院の守備範囲は狭い
私達は自分の土俵から外れて仕事をすることは慎重に控えます。自分たちが責任を持ってある程度の自信を持って検査したり治療したりできる範囲は狭いのです。医学全体は膨大な広さがあります。
しかし私たちが戦える病気の種類と程度はそのほんの僅かな一部でしかありません。この狭い土俵を超えることに自信がありません。患者にも納得してもらえる医療の質はその土俵の範囲内に限定されます。
その医療の範囲内で私たちは力いっぱい仕事をしています。しかしこの範囲内では新しい検査や治療の展開がそれほど多くないのです。年間でも新しい医薬品の採用は数件にとどまります。新しい検査では数年に一つあるかないか程度です。
患者はテレビやマスコミで新しい検査や治療を見て話しますが、多くは当院の範囲を超えるものです。範囲内であっても画期的に新しいものであれば、私たちはあえてその検査や治療は直ぐに採用しません。
画期的な検査や治療の初期トラブル
工業製品でも同じことが言えますが、全く画期的な新製品は発売されるとしばらくは初期故障や初期トラブルが多発するものです。これは仕方がないことです。
医療の世界でも新しい検査機械や医薬品に同じことが当てはまります。初期トラブルの発生です。しかし医療ではその発生確率が工業制品と較べ少ないでしょう。安全を重視しているからです。
新しい検査機械や医薬品でなければ検査や治療ができないならやむを得ない側面もあります。しかしもし代替の検査機械や医薬品があるなら新しい検査機械が検査中に故障したりエラー結果を示したり、また新しい内服薬で重い副作用に苦しむのは避けたいものです。
「初期トラブル期間」を過ぎてから
新発売の「初期トラブル期間」を過ぎて、効果が正しく評価され副作用も明確になってから使い始める方が安心でしょう。
もし私自身が新しい検査機械で検査されたり新しい薬を内服するなら、その「初期トラブル期間」を過ぎてから使いたいものです。そして私達の患者にも全く同じ考えでありたいと思います。
画期的な新医療の採用は忘れられた頃に
ですから画期的な検査機械や治療であっても、世の中で大騒ぎしているうちは私たちの土俵では使いません。皆さんの熱が冷めてそんな話題をスッカリ忘れてしまった頃になりようやくその機械や治療の採用検討を始めるでしょう。
画期的な新薬ほど人体に複雑な影響がある?
医療とは治療のために人体に介入する行為(異物を入れて影響させる行為)です。介入は目的の治療以外にも未知の予測できない影響の可能性があります。
決して悪い事だけではありませんが一般的にこれを副作用と言います。私たちはいつもその問題を気に留めています。特に画期的な新治療ほど人体により複雑な未知の影響があると考えてよいと思います。
画期的な新治療法の採用では、私達がより慎重な姿勢にしている大きな理由です。
古い薬剤は安全
古い薬が全て良いというわけではありませんが、古い薬は長い歴史で問題点が明らかになっていることが多く、かつその問題の影響もあまり重大ではないことも分かっているという安心感の長所があります。
数種類の治療薬が選択できて、効果にそれほど大きく差がなければ、私達は長い歴史のある安定した医薬品を使うようにしています。
古い薬は新しい薬に較べ価格がはるかに安いこと、現在ではこれは特筆する利点と考えます。
最近の新薬は、古い時代の薬と較べ驚くほど高価になっているのは誠に残念な現象です。
以下の「特集:薬あれこれ」も参考になると思います。