アニサキスとは
まずアニサキスは寄生虫(線虫)の一種であり、成虫はクジラ、イルカなどの胃に寄生しています。アニサキスの幼虫が、サバ、タラ、ニシン、イワシ、カツオ、サケ、イカ、サンマ、アジなどの魚介類に寄生します。幼虫の形状は、およそ長さ2~3cm、幅は0.5~1mmくらいの白色の糸状をしていて、肉眼で見ることができます。アニサキス幼虫は魚介類の内臓に寄生し、魚介の死後は内臓から筋肉に移動します。
アニサキス症
わが国では、一年間に2000~3000名のアニサキス症の患者が発生しているとの報告があります。日本人の食習慣ではアニサキス症は我が国でかなり古くからあった病気と思われます。以前は診断の方法がなく激しい腹部症状から手術で患部が切除され病理学的に初めてアニサキス症の診断がされました。近年内視鏡検査の普及とともに虫体摘出が可能となり次々と報告されるようになりました。アニサキスによる食中毒発生件数はこの5年ほどで増加していますが、これは平成21年頃までは保健所等に届けられる件数が少なかったことによることも考えられます。しかし未だに届け出は少ないため、医療従事者が届け出の必要性を認識していない問題があるとされています。
アニサキスの症状
アニサキス症の発生は刺身や寿司など、海産魚介類の生食を嗜好する食習慣と強く関連しています。諸外国に比して圧倒的多数の症例が日本で発生しているのはこのためです。
アニサキス症の分類は、緩和型と劇症型二つに分けられます。緩和型は、長さ2~3cmの幼虫がヒトの胃壁や腸壁に突き刺したり、もぐり込んで症状を直接的に引き起こす異物反応であり、一般的にアニサキス症といわれる多くのものがこちらになります。一方近年アニサキス症にはアレルギー反応が関係していることが分かり、過去に感染したことのある人が再感染で強い即時型過敏症のアレルギー反応を起こし劇症型を発症する場合があります。このアレルギー反応は胃粘膜損傷部位から抗原が粘膜血管に入り込むことで症状をもたらすと言われています。よく混同されますがこれはサバアレルギーとは異なるものです。
緩和型アニサキス症は症状が軽微で、自覚症状もあまりない場合も多いですが、劇症型のアニサキス症では、腹痛のほか蕁麻疹を伴ったり、時にはアナフィラキシーショックをもたらし、呼吸困難、血圧低下を引き起こし重篤化することがあるので注意が必要です。緩和型でも症状がある場合には、胃壁に入り込み数時間で上腹部痛や吐気、嘔吐が起こります。一般的な感染性胃腸炎と違い下痢は起こりません。またアニサキスが腸に入り込んだ場合には数時間から数日以内腸閉塞を起こす可能性があり、開腹外科手術も考慮されます。
治療
シメサバやお寿司を食べた後しばらくしてから、急激に胃痛に見舞われ、時間が経っても全く改善しないという症状で外来に来る患者さんがいます。この場合、上部消化管内視鏡検査を緊急で行いアニサキスが胃の内壁に潜り込んでいるのを発見できればすぐに診断がつきます。内視鏡の先から鉗子でそっとアニサキスをつまみ、胃壁にもぐり込んだ頭と体が引きちぎれないよう注意して虫体を体外に取り除きます。痛みがすぐに和らげば緩和型のアニサキス症で問題なく、これで処置は完了です。万が一劇症型を起こし、アナフィラキシーショックのような重篤なアレルギー反応を起こした場合は、速やかに医療機関での緊急治療が必要です。
対策について
アニサキス幼虫は熱に弱いため、加熱することで死滅させることができます。(60℃~70℃)また、逆に-20℃以下を24時間以上の冷凍によっても死滅すると言われますが、家庭の冷凍冷蔵庫等では-20℃まで下がっていないこともありますので、加熱の方が安全でしょう。しかし、アレルギー反応によるアニサキス症の場合には、加熱した食品であっても食品中のアニサキス抗原を摂取することでアレルギー症状が引き起こされるとも言われ、基本的にはサバ、サケ、タラ、ニシンなどの海産魚介類の摂取を避けることが一番となります。