ここではめまいや短時間意識がなくなる心臓病を紹介します。
多くは脈が非常に遅い(徐脈)ために起こりますが、それ以外もあります。
気を失う心臓病
想定される病気
洞不全症候群,房室ブロック,狭心症,大動脈弁狭窄症,閉塞性肥大型心筋症,肺高血圧症,心室頻拍,ほか
患者さんへの助言
この症状を示す原因が心臓病であれば危険です。原因が脳血管やその他の病気であったとしても,やはり検査が必要になるでしょう。
いずれにせよ,その原因を調べるために医師の診察を受けてください。もし原因が心臓であれば,入院して特殊な治療が必要となる可能性があります。
心配な時は医師に相談ください。
◆222 心臓病 症状から自己診断は、リスクあり危険
めまい、失神、疲労感
心臓の拍動が遅くなると疲れ易くなります。さらに遅くなると、短時間ですが意識がなくなるようになります(失神)。
写真は人工心臓ペースメーカーの本体です。
心臓病が原因の、めまい・失神
めまいや失神がどんな病気によるのか、症状から簡単に診断が可能な場合もありますが,一般的には診断はそう簡単ではありません。幾つかの検査を組み合わせて、めまいや失神の病名を診断します。
心臓病以外の病気で起こる失神やめまいは最後にまとめてお話しします。これから先は、その症状は心臓病が原因であると想定して説明します。
このグループの症状は、短時間ですが次の三つのいづれかの原因によって起こります。
(1)心臓の動きが遅いため(徐脈性)
(房室ブロック、洞不全症候群、狭心症による房室ブロック、など)。このタイプが患者数としては最も多く見られます。
(2)心臓の動きが速いため(頻脈性)
(上室性頻拍、心房細動、心室頻拍など)。このタイプの患者数も多いのですが、めまいや失神が症状の中心になることは比較的少ないようです。症状はドキドキ感が前面に出てくることが多いようです。
(3)拍出される血液量が少な過ぎるため(低拍出量性)
(大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症、肺高血圧症、不整脈の心室細動など)。このタイプの病気は上の(1)、(2)と較べますとかなり少なくなります。あれば珍しい部類になるでしょう。病気そのものが少ないうえに、失神やめまいが出てくるのは病気が相当進行してからですから、余計に珍しくなります。
脈が遅すぎる:徐脈
心臓の拍動が遅くなると短時間ですがめまいや失神がおこります。
(1)心臓の動きが余りに遅いため・・・
■病名:房室ブロック、洞不全症候群、狭心症による房室ブロック、など
この病気のめまい・失神の様子をもう一度以下のサイトで確認しておいてください。
→心臓病■01 症状のリストの「めまい・失神」の症状リスト部分
老人では重大な病気と気付かない
若い方がこの病気になることは稀です。高齢者以外の方ならこの病気を想定する必要性は少ないでしょう。
この病気は、通常70歳代以上の日常活動の穏やかな高齢者に起きます。
この障害がおこっても日常生活がもともと穏やかですから、病気のために動くと疲れ易くなっているはずですが、生活する上で軽い活動制限を感じる程度で特別大きな支障を感じないことが多いようです。
したがって自分がその様な重大な病気になっていることをあまり自覚しないで生活しています。
心臓の電気時計が故障して5秒以上も作動しなくなったり,完全な断線が5秒以上も続いたりしますと,心臓は5秒以上拍動を停止します。そうなると脳に血液が行かず意識がスーッと遠くなるめまいや失神の症状が出てきます。
突然の意識喪失からくる危険性
症状がおこれば大変に危険であることはすぐ分かると思います。心臓の電気時計の故障時間が5秒程度ですから軽くてすんでいますが,もし3分間も故障すれば、その間心臓の拍動は止まりますから、脳細胞は死んでしまうでしょう。
3分間の故障後に再び心臓が動き始めれば,脳以外の細胞は生き返りますが,脳細胞が生き返らなければこの患者さんは二度と意識が戻らないのです。植物人間の状態となります。
もし自動車の運転をしている時に30秒間でもこの故障が起きれば,直ちに大きな自動車事故につながります。お風呂に入っている時なら、水の中に頭を漬けて溺れてしまうかも知れません。高いところに上がっていれば、そこから転落するでしょう。
いったん故障してもしばらくすれば心臓の拍動が回復するのは分かっていても、心臓拍動停止中に起こる意識消失の影響があまりに危険なのです。非常に危険な病気を抱えていることがお分かり頂けるでしょう。
治療は人工心臓ペースメーカーの挿入
この病気の治療は人工の電気時計を体の中に植え込み,この時計で強制的に一分間に最低60回心臓を動かしてやることです。
故障した心臓時計と心臓内の断線を人工の時計で補助するのです。この植え込んだ人工時計のことを人工心臓ペースメーカーと呼びます。
一度人工心臓ペースメーカーを植え込むと,電池は7年間ほど保ちます。電池が切れる頃になったら電池を新しいものに交換すればよいのです。 人工ペースメーカーの新規の植え込みも電池の交換も危険は少なく簡単に出来ます。いったんこの人工ペースメーカーを植え込みますと,二度と気を失うようなことは起こりません。
症状の発現機序:心臓を動かす「電気時計」の故障
心臓はいつも規則正しく動いていますが,この規則性は心臓の中にある洞結節が支配しているのです。この洞結節を電気時計に例えて言いますと、電気時計から規則的に電気信号が出されると,この電気信号が心臓の中の配線を伝わって、心臓全体を刺激し心臓は動きます。
こ の症状は、細胞変性、心筋梗塞、心筋虚血、薬剤の副作用などが原因となって、電気時計が故障するか,配線が切れるとこのグループの病気になります。これ を、洞不全症候群、房室ブロックなどといいます。しかし、このような故障や断線が起きても、直ちに心臓が止まってしまうわけではありません。本時計が故障 すると,新たに別の心臓内時計が作動して、心臓は一分間に30回とか40回の以前よりもゆっくりした遅い動きをするようになります。したがって,この状態 ではあなたが活動しても心臓の動く回数が充分に増えないため,疲れやすくなります。また、心臓内の配線も時々切れたり繋がったりを繰り返します。
脈が速すぎる:頻脈
心臓の拍動が速くなりすぎても、めまいや失神となります。
(2)心臓の動きが余りにも速いため・・・
■病名:上室性頻拍、心房細動、心室頻拍など
この病気の詳細は「脈の速い心臓病(頻脈性不整脈)」に書いてありますから、そちらも参照ください。 →脈の速い心臓病(頻脈性不整脈)
原因
上室性頻拍、心房細動、心室頻拍などの不整脈が原因となって、突然心臓の動きが非常に速くなります。
この不整脈がおこり,いくつかの悪条件が重なると、心臓から送り出される血液の量が極端に減少します。こんな時にめまいや失神の症状がおこります。短時間のめまいや失神となることがあります。
心室頻拍は直ちに致死的ではありませんが,時に血圧が大きく低下することもあり、かなり危険な不整脈す。
治療
治療は,次の方法がとられます。
・抗不整脈薬
・カテーテル心筋焼灼術
・植え込み型の電気的除細動器
拍出量が少い:低拍出量
心臓がら拍出される血液の量が少なくなりますと疲れ易くなります。さらに少なくなるとめまいや意識低下がおこります。
(3)心臓から拍出される血液量が少な過ぎるため・・
■病名:大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症、肺高血圧症、不整脈の心室細動など
原因
めまい、失神の症状を示す第3番目の理由は,短時間ですが心臓から送り出される一回の血液量があまりに少な過ぎる場合です。その原因として,
1)大動脈弁狭窄症:心臓の一つの弁が何かの原因で障害されて,僅かの隙間しかなく血液が流れ難くなってしまった
2)閉塞性肥大型心筋症 :心臓の筋肉があまりに厚くなり過ぎて,血液が送り出される心臓の中の通路を塞いでしまい、血液が流れ難くなってしまった
3)肺高血圧症 :肺の病気のため心臓に入る血液の量が減ってしまった
4)心室細動 :心室細動になれば心臓は血液を送り出せません。突然死の形をとり、そのまま死亡するのが普通です。ただ運良く心室細動が短時間で自然に止まってくれれば(一過性心室細動),めまいや失神程度で回復します。非常に危険なこの病気は直ちに入院して原因を詳しく調べて、治療しなければなりません。
治療
・大動脈弁狭窄症は心臓手術で人工弁に交換すれば治ります。
・閉塞性肥大型心筋症では心臓の動きを弱めればこのような症状を起こさないと考えられています。そのためにベータ遮断薬を内服します。また、通路を塞いでいる心臓の筋肉の一部を削り取る手術をする場合があります。そして理由は不明ですが,人工心臓ペースメーカーを植え込むと、この病気の症状が軽くなると最近は言われています。
・肺高血圧は肺気腫,肺線維症,原発性肺高血圧症,肺塞栓などでおこり,肺の動脈の血圧が異常に高まったため肺を流れる血液の量が少なくなる病気です。そのため心臓から送り出される血液量も減ってしまうのです。この病気ではまず肺の病気を治療することです。
・致死的な心室細動では、そこでただちに緊急除細動器で電気ショックをしなければ救命できません。
心臓病以外の原因
心臓以外の原因で、めまいや失神を起こす病気です。
心臓病以外の原因で、めまい・失神:
(回転性、浮動性、失神性めまい、平行失調)
めまい・失神を起こす病気は心臓病だけではありません。心臓病以外としては,次のような病気も考えられます。心臓病よりも、むしろこちらの方が原因として多いのが現実です。これらは心臓が原因であるめまい・失神と較べ比較的軽い病気と言えます。
・一過性の脳虚血等の脳血管障害
・起立性低血圧
・貧血
・自律神経失調症
・不安神経症
・耳性のめまい(メニエール症候群,突発性難聴)
・神経反射性失神
・てんかん発作
・脳腫瘍
★耳性のめまい:(回転性めまい)
天井や体が回転する感じがあり,多くは耳鳴り,難聴,吐き気なども伴います。
★高血圧など:(浮動性めまい)
体がふわふわしたり,雲の上を歩くような感じは,高血圧、自律神経失調症,脳動脈硬化や不安神経症によく見られます。
★貧血や起立性低血圧:(失神性めまい)
貧血,起立性低血圧や心臓病のめまいは,気が遠くなり,頭がボーとし,自分が引き込まれる感じや目の前が暗くなる感じがするようです。
★脳腫瘍:(平行失調)
歩くときによろめいたり,酔ったように歩くのは脳腫瘍などが推定されます。
★神経反射性失神
めまいや失神をおこす一群の病気に神経反射性失神というのがあります。この病気は心臓の病気ではないのですが,心臓血管系への神経の反射が異常に強く出るために失神します。神経反射性失神は、血管迷走神経性失神,頚動脈洞過敏症候群、situational syncopeという三つの病気に細分化されます。
・血管迷走神経性失神
血管迷走神経性失神では,強い恐怖感,強い痛み,精神的ショック,非常に緊張する医療行為(恐い検査や痛い治療)などがあった場合に失神がおこります。
この失神では皮膚が暖かく感じます。たとえば、映画で若い女性が何かにショックを受けて一時的に気絶して倒れる場面がありますがこの病名がそれです。
・頚動脈洞過敏症候群
頚動脈洞過敏症候群では首を傾けたりした時に、めまいや失神がおこります。
・situational syncope
situational syncopeでは、トイレで尿や便が出た後,ものを食べた後,酒を飲んだ後,強い咳が出た時におこるめまいや失神です。
起こる原因
心臓が原因でめまいや失神をおこすメカニズムを考えてみます。
心臓病で失神が起こる機序
私たちの心臓は、安静にしていますと正常では、一分間に60回から80回規則正しく拍動しています。つまり心臓はほぼ1秒間に1回動き,血液を絶え間なく全身に送り続け、全身の細胞は血液に溶け込んだ酸素や栄養を絶え間なく血液から補給してます。
また全身の細胞から出た老廃物は血液の中に溶け込み腎臓に送り込まれます。腎臓では血液中の老廃物を選び出し,尿にして体の外に捨て去ります。
このように全身の細胞が活きて行くための運び屋としての血液を,心臓はどんな時でも休みなく,死ぬまで全身に送り続ける役割を果たしています。
■脳と心臓と血液
人間にとって最も重要な臓器は脳です。安静時,心臓から送り出される血液量の約15%が脳に,5%が心臓に,20%が腎臓に,25%が消化管・肝臓に供給されます。
もし何かの理由で重大な異常がおこり,体内を流れる血液量が極端に少なくなった時でも,他の臓器への血液は減っても,脳への血液は出来るだけ減らないように自律神経によって巧妙に調節されています。それほど脳は体の中で特別に大切にされているのです。脳こそが人体の中の皇帝なのです。脳以外の総てはこの皇帝のために奉仕している働き蜂に過ぎないのです。
心臓が一時的に止まって,脳への血液が3秒から5秒間ほど途絶えますと,脳細胞は一時的に”貧血”状態となりその活動が低下しますので,意識がスーッと遠くなります。そして再び心臓が動き始めて血液が循環し始めると意識が元に戻るわけです。これがこのグループの心臓病の症状が起こる根本的な原因の第1番です。
もし、7秒以上の間,脳への血液が途絶えますと完全に意識がなくなり,10秒以上では体が痙攣を起こし始めます。3分以上途絶えれば脳細胞は死滅してしまい,二度と生き返らないでしょう。普通であれば心臓は1秒に1回動いて血液を全身に送り出しているわけですから,脳には何も問題はありません。
めまい、失神を起こす心臓病の検査:
(この検査は入院が必要)
1:医師の診察,基本的な血液と尿検査,胸部レントゲン写真,心電図
2:ホルター心電図,心臓超音波検査
3:トレッドミル運動負荷検査,チルトテスト
4:心臓電気生理学的検査,心臓カテーテル検査
医師による診察,基本的な血液と尿検査,胸部レントゲン写真と心電図については患者さん全員が該当します。
心臓の動きが遅くなる時の心電図を記録して,病気を確実に診断するためにホルター心電図で検査します。また不整脈をおこす背景として心臓に何か特別な原因がないかを確認したり,心臓弁膜症や肥大型心筋症の有無を調べるためにも心臓超音波検査が必要です。
運動中に心臓が良く反応するかどうかを調べたり,狭心症の可能性を検討する必要があればトレッドミル運動負荷検査が予定されます。チルトテストは神経反射性失神が疑われるときに行われす。
この症状の心臓病では、ほとんどの患者さんは出来るだけ早く入院して、詳細な精密検査をすることになるでしょう。その時には心臓電気生理学的検査や心臓カテーテル検査が予定されるでしょう。