高齢化で増加する心房細動
心房細動という心臓の不整脈は、高齢化社会の進行とともにその数が増加しています。70歳以上になると、加齢とともに心房細動になる確率は飛躍的に高まります。当院の様な小さな町の小さなクリニックでさえもその患者数は140人以上になっています。
心臓専門医だけでなく一般内科医もこの病気の治療を避けて通る事が出来ない時代になっています。また患者も医師任せではなく自分の命にかかわる問題として、この病気についてよく整理して理解していなければならないと思います。
心房細動の3つの問題点
心房細動でありながら無症状でそれに気づかないという大きな問題点はありますが(◆心房細動 無症状の人がいる 悲劇を作らないために)、心房細動の通常の治療管理ならその問題点は以下の3点です。
1)心臓が速く動く
心房細動では心臓の動きが速くなりますから、その速い動きをどのように抑えておくかが大切です。心臓の動きが速いと静かな時でもドキドキと感じます。動いた時にはさらに早くなるので疲れやすくなり息が切れます。
2)心臓が大きく心不全や血栓が出来やすい
心房細動では、この病気になってからの年月の経過ととともに、心臓がゆっくりと大きくなっていきます。心臓が大きくなればなるほど心臓の中で血液の流れが滞留しやすくなり、心臓の中で血液の小さな固まり(血栓)が出来やすくなります。肺に水が貯まりやすくなりますので肺の呼吸が苦しくなります。
3)重症の脳卒中が起きやすい
最後の問題が実は一番大きな問題かもしれません。心房細動では心臓の内の壁に血液の固まり(血栓)が出来やすくなりますが、その血栓が壁から離れて血液の流れに乗り脳の太い血管で突然詰まってしまいます。ひどく重症の脳塞栓(脳卒中)となります。
この脳塞栓は突然起こり起きた時は普通の脳出血や脳梗塞に較べ非常に重症になる場合が多いことが分かっています。なぜなら心臓内の小さい血栓とは言え脳内の血管から見ればかなり太い血管を塞ぐに十分なサイズがあるからです。なんの前兆もなく脳内の健康な太い血管が突然詰まってしまうような病気を想像して下さい。その影響する範囲は広くて病気は甚大なのです。
この脳塞栓が起こると一発で生命が危険になるか助かっても後遺症が重く社会復帰が非常に困難となる場合が多いのです。◆心房細動 50歳代男性、突然の重症脳卒中で社会性を失う
管理のポイント
心房細動になった患者の管理は、以上の問題点を起こさせないように、3つを同時に上手にコントロールすることです。
1)心臓の速い動き(頻脈)を抑制
心臓の動きが速くなるのを抑えるのは薬を使えば十分に可能です。これは医師の治療に任せて下さい。患者の努力では何ともできません。
2)心臓拡大に注目し心不全発症を抑制
心房細動になってからの経過時間とともに、心臓はゆっくり大きくなります。しかしこれを抑え込んだり止めたりはなかなか簡単に出来ません。毎年心臓の検査をしながら大きくなる経過を観察し、心不全が起こりそうな時期になったら(心不全予備軍)、患者に心不全予防の生活習慣を徹底してもらうことです。予防の第一の要点は飲水制限です。毎日飲む水分の量を真面目に制限できれば、大きな心臓になっても心不全の発生は最小限に抑えることが可能です。
3)脳塞栓予防の抗凝固薬内服
実は最も重大な問題は脳塞栓でありこの予防が最大の治療目標と言っても良いでしょう。一般的には抗凝固薬のワーファリンか最近の直接経口抗凝固薬(DOAC)を内服することです。どちらにも一長一短がありますが、私のクリニックでは原則的にはまずワーファリンをお勧めしています。◆心房細動の抗凝固薬 ワーファリンかプラザキサ(新経口抗凝固薬)か?
4)認知症の抗凝固薬について
高齢者が多くなる病気ですから認知症のある人は、ワーファリンか直接経口抗凝固薬(DOAC)どちらでも薬の正確な管理が必要です。
きちんとした内服が困難な場合(家族も内服管理を支援できない)は、家族の同意を得て抗凝固薬は使わないようにします。この薬は飲み間違いがあると逆に体に非常に危険だからです。この薬のためかえって寿命を縮めることにもなりかねません。
家族の同意があれば抗凝固効果としては十分ではありませんが、比較的安全で穏やかな他の薬で代用することもあります。あくまで本人や家族が抗凝固薬を確実に管理できる場合のみワーファンか直接経口抗凝固薬(DOAC)を始めます。
脳塞栓予防のもう一つの因子
抗凝固薬をたとえ飲んでなくても脳塞栓は意外によく予防できるのではないかと推測しています。
当院での経験ですが、抗凝固薬がまだ今ほど徹底して使われていなかった15~20年以上前の時代から、当院では心房細動で重症な脳塞栓を起こした患者がそう多くなかったような印象があります。
当院では開院以来、血圧、糖尿病、コレステロール、肥満、心不全等を徹底して抑え込む治療を患者全員にしていますが、そのように治療すればたとえ心房細動があったとしても意外に脳塞栓は起こらないのではないかと密かに感じていました。
記憶している患者では、開院してしばらくした20年近く前のことです。その頃は今ほどワーファリンを患者に使っていませんでした。抗凝固療法としてバイアスピリンを少量投与だけというのがほとんどの時代でした。
ワーファリンを使っていない当院の心房細動患者が、ある朝重症な脳血管障害で他病院に緊急入院してその後亡くなったことがありました。心房細動の血栓による脳塞栓であっただろうとその時は想像しました。
そんな患者が稀にはいましたが、当院では心房細動にワーファリンを使わなくても報告されるほど脳血管障害(脳出血も含む)の発症率が高くない印象がありました。
厳格な全体管理が重要
世界的な大規模臨床試験でも「高血圧、糖尿病、心不全、過去に脳卒中を起こしたことがある」等の危険因子が複数あればあるほど脳塞栓は起こりやすいと報告されています。心房細動でももし危険因子がなければ脳塞栓の起こりやすさは心房細動のない人と較べて変わりません。
従って、これらの危険因子を徹底して正常化しておくことは少なくとも脳塞栓に関して抗凝固薬内服よりももっと重要かもしれません。
高血圧、糖尿病、コレステロール、尿酸、肥満、喫煙など、いわゆる動脈硬化を進行する原因を十分コントロールして心不全発症を抑え込んでおいて、さらに抗凝固薬も内服していれば、心房細動があっても脳塞栓は高確率で起こらないのではないか?と予測しています。
全体管理は心房細動でも非常に大切
心房細動の治療の原則は、月並みですが、普通の心臓病の治療管理と同じで取り立て珍しい点はありません。
いつもお話しするように、心不全予防のために厳格な飲水制限や塩分制限を中心にした日常生活、血圧の完全な正常化、糖尿病、尿酸、コレステロール、中性脂肪、肥満等のデータの厳格な正常化を目指すことが、心房細動の合併症抑制に繋がっていくと考えます。
これは開院した20数年前から当院で徹底して実践してきたことです。
心房細動における抗凝固薬の占める役割は小さくないかも知れませんが、一般的な全体管理の重要さに較べてはるかに大きい訳でもないとの印象を持っています。
若々しく健康な人生を生涯にわたり過ごすために、十分な医薬品の内服と日常生活の改善が、心房細動でも、同じように重要な原則であると思っています。
続く・・・
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