小さな村で、生活物資を運ぶ一頭の馬の物語を例にお話しします。
心臓の役割を馬に例える
心不全についてはこれまでにいろいろな角度から何度もお話ししましたが、今日は心不全と脈拍数の関係について出来るだけ分かりやすく説明しようと思います。
原因が何であれ心不全とは心臓が弱っている状態が背景にあります。弱った心臓では体の中でどんなことが起こっているでしょうか。これまで私は心臓の役割を荷物を運ぶ村の一頭の馬に例えてお話ししてきました、
今日もその例え話を使って説明します。
小さな村で各家庭に荷物を運ぶ一頭の馬がいます。その馬が各家庭の日常生活の必要物資を荷台に積んで毎日各家庭に運びます。家庭からは不要なゴミや排泄物などを回収して持ち帰り処理場で処分しています。この一頭の馬はこの仕事を毎日毎日休みなく働き続けています。
この馬が年老いて体力が落ちてしまいました。今では若い頃に較べると半分の荷物しか荷台に載せて運べません。この馬が弱った心臓の喩えです。毎日の仕事で決まった量を各家庭に運ばなければなりませんから、荷物を半分しか積めなければ運ぶ回数は2倍必要になってしまいます。
弱った馬ですから運ぶ回数を2倍にすることは無理です。どんなに頑張ってもこれまでの5割増しの回数が限度です。半分の積み荷の量を1.5倍の回数で運べば、本来運ばなければならい一日の荷物の75%しか処理出来ません。
村の各家庭から見れば、毎日の必要物資の75%しか貰えなく、ゴミの引き取りも25%は積み残して置いていかれます。
家庭では生活物資の慢性的な不足とゴミや排泄物の溜まりが起こります。馬は毎日運搬する回数が5割も増えて弱っている上に更に過労を強いられています。
心不全では心臓の拍動回数が増す
馬の荷台に積める量が心臓の送り出せる血液量、馬の1日の運搬回数が心臓の一分間の拍動回数(脈拍数)です。つまり、弱った心臓では送り出せる血液量が減った分だけ、拍動する回数(一分間の脈拍数)を増やさなければならなくなるのです。つまり一回分が少ないだけ運ぶ回数でこなさなければならないわけです。
しかし例え話のように、送り出す量の減った分に見合うだけ拍動回数を増やすことは実際には出来ませんので、結局全身の組織は必要な栄養が十分に貰えず、代謝した老廃物も十分に引き取ってもらえません。
この様に弱った心臓で起こる全身の変化は、上の例の通り、全身臓器の代謝不全となって表れます。これが心不全の病態の本質で、心臓が弱って心不全となる原因が何であっても似たような漸進的な症状となるのです。
心臓(馬)が弱れば、心臓の拍動回数=脈拍数(馬の運搬回数)は増えますが、回数を増やしてさえ、それでも十分な血液量(家庭への必要物資)を運べなくなっているのです。
心不全では脈拍数が増えてしまうことが理解できたと思います。健康な心臓で安静時なら脈拍数は50~80/分位ですが、心不全では安静時でさえ90~100以上の脈拍数になっているでしょう。もし安静時に50~80であっても、動き始めたり、運動すれば全身の臓器は必要な栄養量がかなり増えますので、脈拍数が健康な心臓に較べ遙かに多くなってしまいます。
心不全の最初は、階段の上り降りで心臓がドキドキし息がハーハーし疲れやすくなります。
運動や労働で心不全の症状は明確に
健康なら脈拍が100くらいになる運動でも、弱った心臓では150以上までに脈拍が増加しているかも知れません。弱った心臓の心不全では、安静では症状がなくても、動いたり運動などで一気に症状がはっきり出てくる理由は、運動の時こそ全身臓器への栄養供給不足が露わになるからなのです。
心不全の程度が進行すれば、そのうち安静の時でさえ全身への血液供給不足のため脈拍数が増えるでしょう。安静時でも脈拍がいつでも90以上なら、安静でさえ心不全症状がすでに現れていると考えてよいでしょう。
このように弱った心臓の心不全では、運動時の脈拍や安静時の脈拍を常時測っているだけで、大雑把ですが、心臓の状態を推測することが出来るのです。
脈拍数が多ければ多いほど(安静時でも)、心臓は弱ってきていると推測して大きな間違はないでしょう。脈拍数の目安は。安静時で90以上、家の中を歩いた後に脈拍数が120以上であれば心不全症状ありと予想する参考データになるでしょう。
参考情報
1.正常な脈拍数は?
健康な大人の脈拍数とは、静かに安静にしていれば大体50~79回/分くらいです。激しく運動すれば150回/分くらいまで速く動くでしょう。加齢とともに遅くなっていくのが普通です。
激しいスポーツを長年やってきた人なら、安静時に40回/分くらいかも知れません。しかしそれでほぼ正常です。そんな激しい運動はしない普通の生活なら、50回/分以下はすこし遅いと言えます。
安静で脈拍数が80回/分以上(80< 脈拍数 <100)や50回/分以下(脈拍数 <50)であっても、それだけで病気だとは言えません。しかしそれが長い期間続くなら一度は病院を受診して調べた方が良いでしょう。
いつも100回/分以上(100< 脈拍数)や45回/分以下(脈拍数 <45)が続くなら、病気の可能性が高くなります。病院を受診して下さい。
2.脈拍数の正しい測り方
脈拍数は環境の条件や精神状態で、血圧と同じように極めて敏感に反応し変化します。そのため脈拍数を測定する時は、あくまで安静時が基本となります。脈拍と血圧は、安静時に測る習慣をつけましょう。
自分で脈を測るのは、やってみると分かりますが、意外に難しいものです。そこで皆さんには家庭用血圧計を使って脈拍を測るのをお勧めします。家庭用血圧計は血圧表示の後に脈拍数も表示しますので簡単に分かります。大変便利な機械です。
まず静かに座った姿勢で最低5分間以上待ちます。この時に誰かと話したり、テレビを見たり、本を読んだりはしないことです。心を穏やかに静かに座っています。
この後に腕で血圧を測れば、血圧表示後に腕の脈拍数も表示されます。測定中は動いたり興奮したりしないことです。その時、たばこも吸わないで下さい。測定中は、測定器の表示を眺めないことです。出来れば目を閉じて下さい。
続く・・・
お勧め記事
●心臓病の「早期発見、前兆症状」なら
●心臓の「症状から病名」を探したいなら
●狭心症・心筋梗塞の「早期発見、前兆症状」なら
●速い脈、遅い脈なら
●期外収縮コラムの一覧
●心不全の「早期発見、前兆症状」なら