若い人は深刻な不眠にならない
誰でも時に不眠に悩まされることはあるでしょう。一度も経験がないという人がいたらむしろ珍しいと思います。ほとんどはそれで病院へ行ったり薬を使ったりせずとも上手にその問題を解決しているでしょう。日中の活動性が高い若い世代は不眠は深刻な問題とはならず短期間で自然に解消するものです。
もし慢性的な不眠に悩まされる50歳代以下の人がいればその不眠症は少し深刻かもしれません。場合によっては病院から薬を処方されていたり薬局で購入して睡眠剤を常用されているかもしれません。しかし社会活動が活発な若い人ならこの様に深刻な問題を抱える人は少数だと思います。
ただ現代のストレスが極めて多くなった社会では若い人であっても不眠の割合が増加しているだろうと日常の診察から感じています。
高齢者は睡眠時間が少なくてすむ
今日話題に取り上げたのはそのような相対的に若い世代ではなく高齢者の不眠の問題です。
高齢者は日中の活動性が低く、夜になっても身体の休養の必要があまり高くないのが普通です。従って睡眠時間もそう長い必要はないでしょう。また高齢者はしなければならない事が少ないため、夜になると早々と就寝してしまいます。
夕食後の7時には布団に入るという人もいます。そこで一旦は眠れたとしても7時間睡眠をとってさえ夜中の2時には目覚めてしまうのです。
深夜に目覚め朝まで眠れない
高齢者は体の代謝が低下しているのと日中の活動が大変穏やかであるためとで、実際には睡眠時間が5時間ほどあれば十分な人が多いようです。
そんな人が夜8時に入眠すれば深夜1時には目が覚めてもう眠れなくなります。高齢者は日中にテレビを見ながらウトウトと昼寝の様な短時間の睡眠を繰り返しています。そのため夜の睡眠時間がますます少なくて済みますから、夜9時に就眠しても深夜12時か1時に目が覚めてしまって後が眠れなくなります。
深夜に目覚めて朝までの眠れない状態を「不眠で大変辛い」と言って、私達に睡眠剤を強く希望することになります。高齢者の健康状態を考えても、深夜1時だからといって睡眠薬を使って眠らせる必要はないのです。
実際体にとって眠る休養などもう必要ないのです。しかし夜中の1時ですから、本人にとってはそれから朝までの5~6時間はただ一人だけ目覚めて不安感と焦燥感に襲われるのだと思います。
睡眠薬は習慣になりやすい
こんな人に睡眠剤を処方すると確かに追加の睡眠は得られるようになりますが、その効果が長期間持続するとは限りません。効果が低下すると増量やさらに強い薬を希望されてきます。睡眠剤の悪循環に陥ります。
一部の睡眠剤で習慣性が心配ないものもありますが、多くの睡眠剤は習慣性や依存性がありますから連日常用するといずれ薬が効き難くなって薬の増量に迫られことがよくあります。
睡眠薬で脳機能が低下する?
睡眠薬を飲むと代謝の落ちている高齢者では、睡眠薬が普通量の範囲であってさえかなり長時間効果を発揮して脳の活動性を落してしまうことがあります。
そのため翌日は朝からボーと座ったままだったり、何を聞いても覚えていなくて返事がますますトンチンカンとなったりすることがあります。いかにも認知症が悪化したように見えてしまいます。
最近、認知症の症状が急に悪化したように見える場合、常用する睡眠薬がないか、その量が増えていないか調べて下さい。それを中止するだけで認知症症状が良くなる事があります。
習慣性を断つには
高齢者の睡眠薬のこんな悪循環を断ち切るためには、昼寝をさせない、日中に体を良く動かして脳や肉体の代謝を高める、布団に入る時間をなるべく遅くする等の生活パターンを変えてあげると効果的です。
その上で睡眠剤の使い方は、連日の内服を一旦中断し、どうしても使いたい時だけに限定し、量を減らして半分程度を、臨時に使用する(頓服的に使う)様にと工夫するとよいでしょう。睡眠薬に頼らない生活に戻します。
連用していた睡眠薬を一度中止することを患者は強く抵抗するでしょうが、その強い抵抗こそ習慣性になった証拠ですから、余計に睡眠薬の一時中止をお勧めします。
最近習慣性のない新しい作用機序の睡眠剤が発売されました。これに切り替えるのも一つの方法です。ただしこれは作用が弱く切り替えが円滑にいくとは限りません。