私自身はこれまで健康には恵まれてきました。開院以来の20年間大した病気もせず、病気のために外来診察を休むことは一日もなく診療を続けてこれました。丈夫な体をくれた親のお蔭と感謝しています。
医師になって間もない若いころでしたが、医師が病気になって患者さんの立場になることがあれば、その経験は医師の勲章であるという話を義父(内科医)から聞きました。自らが患者さんの立場に立つことによって、病気と闘う患者さんの苦しみ、痛さ辛さ、病気に対する恐怖感や不安感、将来に対する焦燥感や絶望感、献身的な家族の支援や看護、医療関係者の有り難さと同時に不満不足などが、心から実感できる得難い機会となるでしょう。
病気から回復し、医師として仕事を再開した時には、その貴重な経験から患者さんの心情を身を以て理解でき、それまで以上の深い理解と愛情で診療が出来るようになることでしょう。医師が実際に患者さんの立場になることは何物にも代えられない貴重な体験となると思います。あたかも勲章のようなもので、たくさん持っていることはたくさんの立派な経験をした証だとする喩え話でした。
初めてこの話を義父から聞いた時は、なるほどと強く感心しました。しかし幸か不幸か私自身は入院して患者さんの立場になり治療を受ける機会がありませんでした。残念ながらまだ患者さんの本当の立場を実感できずにおります。
これから先の何時、自分自身が患者さんの立場になるかまったく予想できませんが、今後もその立場を思いやりながら毎日の診療をしていきたいと思っております。