肥満は糖尿病,肝障害,狭心症,心筋梗塞の危険因子であるだけでなく,同時に心臓への大きな負担となります。たとえば、標準体重を10 Kgオーバーしていれば,あなたは10Kgの鉛の重い服をいつも身につけて,わざわざ弱った心臓に負担をかけ続けているようなものです。この大きな負担のことを良く理解して下さい。
高血圧は心臓への大きな負担です。同時に、心臓の拍動する回数(心拍数)と一回の拍動で送り出す血液量(一回拍出量)をなるべく少なくしておくことも、心臓の負担を少なくするために大切です。この負担を増やすのは、運動、貧血、肥満などです。
適度な短時間の運動は心臓にも良いとの報告があります。短時間の軽い運動はよろしいでしょう。しかし、肥満は24時間延々と休むことなく心臓から多くの血液拍出を要求します。また動いた時の心臓への負担も当然過重となるでしょう。
弱った心臓にとって肥満は大敵です。心臓を労わるのであれば、この点「肥満は悪い」を忘れないでください。→ ◆206 肥満 心臓病には負担 重症なら悲鳴!
体重減量とカロリー摂取量
肥満の度合いを評価するのに最近はボディー・マス・インデックス(BMI:体格指標)が使われます。それの計算式は、
BMI=体重 (Kg)/{身長(m)x身長(m)}
肥満とはこのBMIが25以上の場合をいいます。BMIが30以上に越えたときには,相当な肥満と思ってください。日本人の成人のBMI目標値は22以下です。
重い体重で心臓への負担を考えるなら、体重の目標はBMIは23以下になるよう痩せてください。
事務職程度のデスクワークなら、一日の栄養摂取量は体重1Kgあたり25Calとして計算してください。あなたの標準体重(目標体重)から計算した量を守り肥満を防ぎましょう。
「ベルトが伸びると寿命が縮む」
といわれます。その通りで、まずあなたの標準体重(目標体重)をボディー・マス・インデックス(BMI:体格指標)を利用して計算してみましょう。
標準体重(Kg)=身長(m)x身長(m)x22
です。この計算式には男女、年齢の区別はありません。
たとえば,あなたの身長が170cmであれば,標準体重(目標体重)は、1.70×1.70×22=63.6Kg、となります。そして、その一日必要カロリーの計算は、
一日カロリー(Cal)=標準体重(Kg)x25(Cal)
あなたの必要な一日のカロリー量は,63.6×25=1590 Calとなります。
嗜好と食事
■タバコ:
タバコは心臓病にとって「百害あって一利なし」です。タバコは心臓病には害と思って下さい。
一日に20本タバコを吸う方は吸わない方より,狭心症や心筋梗塞に三倍以上のかかりやすい危険性があります。
■アルコール:
アルコールは血管を拡張させ,血流を良くしますので心臓には有利に作用します。また心身をリラックスさせてストレスを減少させます。
アルコールを飲んでいる方の方が狭心症や心筋梗塞になりにくいという報告があります。適量であれば,「酒は百薬の長」かも知れません。しかし,量が過ぎれば有害であるのは言うまでもありません。
適量とは純アルコールに換算して一日に30グラム~40グラムくらいです。日本酒なら一合,ビールなら中ビン一本,ウイスキーならダブル一杯程度です。純アルコール量の計算方法はここでお話ししました。→◆091 「酒は百薬の長?」 それには条件あり
アルコールで発作が誘発されるような異型狭心症や発作性心房細動の患者さんには奨められません。また,肝臓病や糖尿病の方ではその量に注意が必要です。
■コレステロール:
コレステロールをとりすぎないように気を付けましょう。どのような食品にコレステロールが多く含まれているか,食品成分一覧表などで良く理解して下さい。
コレステロールを下げる薬を飲んでいる方と飲まない方の間には死亡率に差があることがはっきりと分かりました。薬を飲んでいる方の方が長生きできたのです。血液中のコレステロールを薬で下げておくことは寿命に良い影響があります。
コレステロールのなかでも善玉コレステロールと呼ばれる高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)は血管の壁に沈着したコレステロールを除去する良い働きがあります。
悪玉コレステロール(LDLコレステロール)と善玉コレステロールの比率(LDL/HDL)が最近注目されています。この値が2以下なら動脈硬化進行速度が遅くなることが報告されています。2以下を目標にして下さい。もしすでに心臓病があるならLDL/HDLは1.5以下になるように薬で治療しましょう。
■減塩:
減塩食を心がけましょう。日本人は塩分摂取量が多めの傾向にあります(日本人の平均は一日13グラム)。漬け物,味噌汁,梅干し,塩辛などが米飯に良く合うからでしょう。
食塩摂取は高血圧となり心臓に負担を加えるだけでなく,体に水分を貯留させますので,心不全の患者さんにとっては二重に悪いのです。
■魚の蛋白質:
肉よりも魚を多く食べましょう。蛋白質の多い食物として肉と魚がその代表です。
さんま,にしん,いわし,さけ,ます,うなぎ,ぶり,さば,まぐろ等の魚にはエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸が多く含まれています。この二つの物質には血液が固まり難くする作用があり,そのため動脈の粥状硬化発生を予防することが分かっています。
肉よりも魚の食事の方が動脈硬化になり難く,狭心症や心筋梗塞になりにくいのです。肉よりも魚を多めに取りましょう。ただし、魚をあまり多くとりますと、尿酸が高くなりますから、これもほどほどにしてください。