一瞬の異常な動き
上室性期外収縮,心室性期外収縮
患者さんへの助言:
この症状を示す病気のほとんどは心配のない良性の心臓病です。しかし,生命にかかわる心臓病も時にはまぎれていますので油断は出来ません。
医師の診察を受け,胸部レントゲン写真,心電図,ホルター心電図,心臓超音波検査,トレッドミル運動負荷試験などを受けて病気を調べましょう。重症の心臓病の方は入院して精密検査が必要となるでしょう。
心配な時は医師に相談ください。
→◆222 心臓病 症状から自己診断は、リスクあり危険
期外収縮の症状
・「単発・一回完結」、が症状の大きな特徴
症状は人によって感じ方が違います。「ドキン!」 と感じる人もいれば、それ以外の症状で感じる人もいます。人によって以下のような様々な形で現れることは珍しくありません。しかし、どれにも共通なのは「一回完結」が特徴です。それが時間をおいて繰り返すこともよくあります。
「ウッとつまずいた」、「クッと詰まる」、「バクバクした」、「ハットした」、「ズキンと痛い」、「コロンと回る」、「一瞬の胸騒ぎ」、「心臓が動 きを一回休んだ」、「心臓が一瞬の空回り」、「胸が一瞬締めつけられた」、「心臓がクッと詰まる」、「脈が一回飛んだ」、「脈が一個抜けた」、などなどで す。
このタイプの不整脈は、検査で調べてもあまり大きな問題がないケースが多いのです。そんな場合には患者さんに、「この症状は、心臓のシャックリの様なものです」と喩えてお話します。
・症状が起こるきっかけ
この病気は、それが起きるきっかけとして最も数が多いのが「ストレス」です。ストレスの原因として、仕事、家庭、人間関係、経済的問題、病気の不安、受験、男女関係など本当に人さまざまです。しかしストレス以外にも、以下の多くの誘因とも関係するように思います。
・睡眠不足
・過労
・運動中
・きつい肉体的仕事をして疲れた後
・夜ふかしをした
・ストレスの多い仕事の時・心配事のある時
・不安
・悩み事
・緊張したり、興奮している時、怒った時
・イライラしている
・コーヒーを飲んだ後
・市販のドリンク剤(カフェイン入り)を飲んだ後
・タバコを吸った時
・お酒を飲んだ後
あなたの症状が出るきっかけがはっきりしていれば,その誘因を避けるような生活習慣を保つこともこの病気の治療に大変重要です。例えば,タバコを吸うと出やすい方はこの際に禁煙してはどうでしょうか。あなたには禁煙が薬の治療よりもっと効果的かも知れません。
・注目する症状:病気が軽くない場合とは・・
期外収縮なら、その多くは軽い上室性期外収縮や良性の心室性期外収縮なのです。しかし以下のような症状が同時にあったなら、それは症状は似てても、原因が全く異なる別の心臓病や別の不整脈であったり、普通とは違う軽くない期外収縮である可能性があります。→◆099 心臓病 「一瞬、ドキン!」 これはどんな病気? -精検ケースー
その病気の区別は簡単ではありません。しかし必ず病院を受診し専門医の診察を受けて下さい。このことは非常に重要です。忘れないでください。その時同時に症状が、
・何度も繰り返して起こった
・一瞬ではなく、5秒以上続いた
・ふらついたり、めまいがした
・目の前が一瞬暗くなった
・見えてるものが歪んだ
・冷や汗(あぶら汗)が出た
・息苦しかった
・顔色が悪くなった
・吐き気がした、吐いた
・尿がたくさん出た
・便意が出た(排便したくなった)
・気分が悪く横になった
・普通ではない不快な気分だった
・危険な心室性期外収縮とは?
これまで元気に活躍されてきたほとんどの患者さんにとっては,この心室性期外収縮はほぼ心配いりません。
しかし,ある一部の患者さんにとってこの病気が致死的な病気の前兆であることもまた事実です。このような場合には適切な治療を開始しないと,元気だった方が急死する場合があります。
普通なら軽い不整脈である心室性期外収縮の患者さんに、専門医が慎重に注意深く接するのは,一見して元気そうでありながら危険な不整脈が隠れている患者さんを見逃さないためです。
心室性期外収縮とは、心臓の心室という部屋で電気的な異常からおこった心臓の異常な動きという意味です。少し難しいお話になりますが、危険な心室性期外収縮とは,次のような場合のことです。
1)狭心症発作や急性心筋梗塞が起こった・・
その時に心室性期外収縮をひきおこした場合。
2)既に重い心臓病がある方で・・
その重い心臓障害が心室性期外収縮発生の母地となっている。心室性期外収縮が多発して、心臓が非常に不安定な状態にある場合。
3)一見元気だが、重い心臓病が潜んでいる・・
普段は軽い不整脈症状以外何も症状はなく、検診でも「異常なし」といわれる場合が多い。この隠れた重い心臓病の発掘は専門医でも難しいですが、もし血縁にある親族で若い時(50歳代以前)に原因不明で急死した方がいるなら積極的に調べることをお勧めします。こんなケースは極めて稀なのですが、当院のような小さなクリニックでも、20年間で3~4人位はいました。
この3タイプでは、普通の心室性期外収縮が致死的な不整脈(心室細動)に突然豹変してしまう可能性があります。極めて恐ろしいタイプの不整脈で、このタイプを、「危険な心室性期外収縮」、と言います。
治療・原因・検査
■期外収縮の治療
薬による治療の対象となるのは,問題の少ない心臓病ですが症状を頻繁に自覚し,その度ごとにいやな思いをしなければならない一部の患者さんと,この病気が生命にかかわる重症な期外収縮を呈する極めて少数の患者さんです。
軽い期外収縮で問題の少ない心臓病の患者さんの場合は,先ずこの病気は安全であり心配しなくてもよいことを充分に説明します。しかし,症状が強く患者さんが日常生活を送るうえで障害がある場合には,薬による治療を始めなければなりません。
ほ とんどの薬には病気を治す作用(主作用)となにがしかの都合の悪い作用(副作用)とがあります。しかし多くの薬では,副作用は軽くわずかであり,医師はこ れをそれほど気にかけずに患者さんに処方することができます。しかし,一部の薬には重大な副作用を持っているものがあり,この薬を処方する場合には厳重な 注意が必要となります。
また薬の投与量が多くなりますと薬が効きすぎて生命に関わる重大な問題を起こす場合があります。心臓病の薬剤にはこの薬剤が比較的多いのです。
・治療薬
心臓病の薬の多くは(程度の差はありますが)劇薬でもありますので,このような軽い病気の患者さんにはまず最初に”穏やかな薬”から処方を始めるのが当院では普通です。この心臓病の薬の副作用についてはここも参照ください。→◆042 心臓病の薬の意外な副作用、「薬の過剰効果」
“穏やかな薬”とは劇的な治療効果はそれほど期待できないけれど,重大な副作用も無い薬のことです。たとえば安定剤などです。
こ の病気は精神的な状態が症状の起こり方と深く関係する場合が多いですから(ストレスなど),安定剤によってストレスを抑え込むと心臓の症状が軽くなることがよくあります。安定剤は比較的安心して服用してもらうことが出来ます。ただし、この薬には軽い習慣性や依存性がありますので、毎日服用しないで症状の強い時だけ内服する「頓服」で処方しま す。→◆121 「とんぷく=頓服」とは、どんな薬ですか?
そして安定剤で効果が無い場合やこの薬が使い難い場合には,心臓に直接作用する中では比較的穏やかな薬のベータ遮断剤を処方することになります。このような軽い不整脈の病気に対して,当院ではまず副作用の軽微な薬から投与し,注意深くその効果を試すことにしています。一般的にこの病気の治療薬としては、
・ベータ遮断薬または安定剤
・一部のカルシウム拮抗薬
・抗不整脈薬
軽いこの病気では最初に受診した日には薬が処方されないのが普通でしょう。様々な検査の後に必要であれば薬が開始されます。しかし,患者さんの症状によっては最初の段階で薬が開始されることもあります。
■発生する理由
この病気の症状は,心臓の規則正しい動きが突然一つ乱れる(これを期外収縮といいます)ことから表れます。従って,症状の出現は突然で1,2秒以内の一瞬だけで終わってしまうのが普通です。しかし,症状が短時間の間隔で繰り返すことやこの期外収縮が数回連続しておこることもあります。
心臓は一日に十万回程度規則正しく正確に動きます。正常な心臓であっても時にはこのように乱れた動きをすることがあります。もし心臓を取り出して詳しく調べることが出来れば,顕微鏡でしか分からない程度のごく小さな異常が見つかることがあります。
この小さな異常が原因となって一回だけの乱れた動きが出ることがあるです。このような小さな異常による病気は,ほとんど心配することはありません。
期外収縮というこの異常な心臓の動きがあったとしても,それを症状として感じる機会はむしろ非常に少ないのです。一日に3回も症状があると不安そうに話す方でも,この異常な動きの回数を正確に調べてみると,一日に三千回も出ていることもよくあります。一日に三千回起こった乱れのうち、たった3回しか本人は自覚していないのです。
心臓のこの異常な動きは,ほとんどが自分ではあまり自覚しないものです。この病気はほとんどの患者さんにとって,生活する上で支障となることは少なく,何の薬を飲まなくとも一生平穏に暮らすことが出来ます。
■検査
それでは命に関わる重症な心臓病のある患者さんと,何の治療もいらない軽い病気の患者さんをどのように区別するのでしょうか。次のような順番で検査を進めて診断します。
◆期外収縮診断のための検査
1:医師の診察,基本的な血液と尿検査,胸部レントゲン写真,心電図
2:ホルター心電図,心臓超音波検査
3:トレッドミル運動負荷試験,心臓核医学検査
4:心臓カテーテル検査,心臓電気生理学的検査
医師による診察,基本的な血液と尿検査,胸部レントゲン写真と心電図については患者さん全員が該当します。心臓専門医はこれだけの診察と検査で重症な心臓病の患者さんの多くを見つけだすことが出来ます。
しかし,心臓専門医でも確実に重症な心臓病患者を見落とさないためには,さらにホルター心電図,心臓超音波検査,トレッドミル運動負荷試験などを患者さんにして頂く必要があります。24時間でどの様なタイプの期外収縮が何回おこるかを心電図に記録するホルター心電図検査をします。心臓超音波検査により、この期外収縮という不整脈をおこす原因が心臓にないかを確認します。
また運動によってこの異常な心臓の動きが頻繁に出現することがあります。仕事や趣味で相当な運動をこなす必要のある方や,この不整脈が狭心症の発作と関連がありそうな方は,トレッドミル運動負荷試験と心臓核医学検査によって運動中におこる異常な心臓の状態を観察する必要があります。
◆予約のいる検査、入院して調べる検査
ホルター心電図,心臓超音波検査,トレッドミル運動負荷試験,心臓核医学検査は通常すべて予約検査となりますので,改めてこの検査のために病院を訪れることになります。従って,この病気で受診しますと,検査1をその日の内に終わらせ病気の概略が説明されますが,同時に検査2や3が予約されます。また、入院して更に詳細な精密検査が必要になれば検査4の心臓電気生理学的検査や心臓カテーテル検査が予定されるでしょう。
しかし,この入院の精密検査が必要になるのは極々一部の患者さんだけです。