病院代の自己負担払えぬ人急増 年延べ700万人が減免
11月23日(日) 朝日新聞 配信記事の要約
病気になっても治療代が払えず、病院窓口で払う自己負担分の治療代を無料にしたり安くしたりする病院にかけこむ人がいる。普通の診療とはちがう「無料低額診療」という仕組みだ。患者数は年間で延べ700万人を超え、ここ数年で延べ100万人近く増えた。年をとって病気になったり失業で収入が途絶えたりして、医療を受けにくくなった人たちが増えている。
「無料低額診療」とは
公的医療保険は原則として保険から治療代の7~9割が払われ、患者の自己負担が1~3割になる。自己負担分を無料にしたり安くしたりするのが無料低額診療で、病院などの医療機関が自治体に届け出て運営する。
財源は医療機関が負担する。一部の医療機関は税金の軽減が適用されるため、その分を回すほか、住民からの出資金や寄付を募ってまかなう医療機関が多い。受診希望者には、医療機関が設けた基準に沿って収入などの審査がある。収入は生活保護を一定程度上回る基準が多い。
無料低額診療は戦後、貧しい人のための社会福祉の一環として始まった。1960年代から国民皆保険制度が始まり、厚生労働省は2001年に新規の無料低額診療を抑制する通知を出した。ただ、非正規労働や失業が増えて医療を受けにくい人がいるという指摘などから08年に撤回した。
全国の年間患者数は全体で延べ10億人近い。厚生労働省の調べでは、2012年度に無料低額診療を受けた人は延べ約706万人いる。このうち延べ約1万8千人は無保険だった。
09年度より延べ約90万人増えた。無料低額診療をする医療機関も339施設から558施設に増えた。
■実例:月3万円払えず倒れた
大阪市に住む元タクシー運転手(58)は、血液のがんの一種である悪性リンパ腫と糖尿病で二つの病院に通う。どちらの病院も無料低額診療をしていて、窓口で払う自己負担分をただにしてもらっている。
2011年春、糖尿病が悪化して倒れた。少し前から営業成績が落ちて給料が減ったため、自己負担で月約3万円の治療代が重荷になり、治療のためのインスリン注射を減らしたからだ。心配した病院から無料低額診療をすすめられた。
その後にリンパ腫で手術し、今年1月には仕事をやめざるを得なかった。3月には妻(52)もパート先の食品工場が移転して解雇され、夫婦で月に合わせて約20万円の収入は途絶えた。
元運転手はずっと公的医療保険の協会けんぽに入って保険料を納め、失業後も国民健康保険に入っているため、治療代の7割は保険から出る。だが、病気で収入が減り、自己負担の3割分が払えない。妻も高コレステロールで月に1回、無料低額診療を受けている。
西淀病院(大阪市)の場合
元運転手が通う西淀病院(大阪市)では、11年から無料低額診療を始めた。13年度には、生活保護を受けている人を除くと、年間で延べ約6200人が無料低額診療を受けたという。
人事・総務部長の山本嘉子さんは「高齢化や非正規労働者の増加で格差が広がり、普通に生活していても大病で医療費が払えなくなる人が増えている」と話す。
日本では、公的医療保険から治療代の多くが出る「国民皆保険」の仕組みがあり、窓口で払う自己負担は比較的安く済む。だが、自己負担分を払えず、国民皆保険の恩恵を受けられない人が増えている。
本来は生活が改善するまで利用する診療だが、生活が苦しいまま生活保護を受けた人も多い。西淀病院によると、治療代を払えずに無料低額診療を受けてから生活保護になり、そのまま通い続ける人も多いという。生活保護は国と自治体が自己負担分も含めて治療代を出し、すべて税金でまかなわれる。(松浦新)