Apple Computer Macintosh Plus
私の診察室の窓際カウンターに一台の古いパソコンが置いてあります。Macintosh PlusというApple computerの初期のパソコンです。
私が大学の循環器内科にお世話になったのが33歳春のことでした。東京にある大学の工学部を卒業し外資系のコンピューター会社に入社しシステムエンジニアとして都市銀行オンラインシステム開発の仕事をし、数年後には方向転換して医学の道に志したのが27歳の時でした。
医師として普通より9年も遅いスタートでした。医師国家試験を通過し母校の大学医学部を離れ別の医科大学に入局しました。そこで2年間の研修医が終わる頃に私は心不全に強く興味を感じ始めていました。心不全をテーマに何か新しい研究をしてみたいと漠然と考えていました。
その医局には当時心不全研究を指導してくれる先輩の先生がいませんでしたので自分の意志で研究分野を決めました。当時強い関心があった、心筋の分子レベルと心臓全体のそれぞれの力学特性とエネルギー特性を理論的に統合して説明するという壮大な問題を自分の研究テーマにしました。
もしその時に心不全研究の指導医が医局にいればこんな大胆なテーマには大反対したでしょう。指導医から見れば100%無駄な努力になると思うからです。
論文作成専用だった Plus
自分だけの学習からまず始めましたが僅かな成果が出始めたので、成果を発表するために研究論文を書き始めました。最初は手書きで英文原稿を作りそれを医局の秘書さんがタイプライターでタイプしてくれました。
まもなくこのやり方は何度も推敲を重ね修正を繰り返しながら完成する論文作成作業には不向きだとわかりました。当時はパーソナルコンピューター(PC)が世の中に出たばかりの時代でした。8年前に数年間ほど働いていたIBMでは超大型コンピューターばかりでしたから、個人が使うレベルのパソコンなどまだ存在せず見たこともない時代でした。
コンピューターといえば大会社の特別な部屋に鎮座する大型のものしか知りませんでした。 丁度その頃○○大学の第二内科のI先生がアメリカ留学から帰られ、私と同じ医局に派遣されていらした時でした。I先生がアメリカで論文作成用に使っておられたアップルのMac Plusを私にも英語論文作成用のパソコンとして勧めて下さいました。
それを購入して論文作成用に使うことにしました。 当時アップルは「パソコン界のポルシェ」と評されるほど高価なものでしたが、近くの街のアップル専門に扱う会社から割安で購入して次々と論文を書き発表し続けました。
このアップルのパソコンはその後次々と進化していきました。私の方も追いかけてより高性能のパソコンに乗り換えながら英文論文を書き続けたものです。当時このパソコンの購入代金を工面するのに大変苦労しました。
研究の記念として残したMac PlusとPowerBook 170
ある時期になって古い所有パソコンを処分しましたが、この最初のMac Plusと最も愛用したアップル最初のノートブック型パソコン(PowerBook 170)だけは記念に手元に残しておきたくて処分せず残しました。
今でも使おうと思えば動くと思いますが、何十年と電源を入れていませんのでスイッチを入れても本当に動くかどうか分かりません。(先日試したら作動しました)
Plusは私の心不全研究論文の最初から付き合ってくれたパソコンです。懐かしくて捨てられませんでした。最近はこのPlusが珍しい存在で貴重品になったそうです。診察室に飾ってあるPlusを見た若い患者さんがそのことを教えてくれました。
大学での研究を離れてクリニックでの診療を始めてからは論文を書く必要がなく、現在の仕事はWindowsばかりとなりマックはほとんど使わなくなりました。少し淋しい気がします。
続く・・・