高血圧はサイレント・キラー(沈黙の殺人者)と喩えられます。しかしこの有名な言葉は誤解を生みました。高血圧は無症状だという神話です。
強調したいのは、高血圧は決して沈黙ではありません。明らかな症状がありその三大症状は、①頭痛、②肩こり、③疲労感です。
症状があっても、歳のせい、過労、ストレスが原因と自己診断し病気の症状という自覚がありません。治療で血圧が下がれば症状は消えますが、そのまま放置すれば確かにいずれキラーとなるでしょう。
もし生命に危険な程度まで血圧が高くなれば、胸が圧迫され、心臓はドキドキして、呼吸は苦しい、意識がおかしく、激しい頭痛や、身の置き所がないほどのだるさが現れます。こんな重症高血圧になったら救急車で病院に駆け込んで下さい。
高血圧はサイレント・キラー?
サイレント・キラー
高血圧は、よく「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれます。つまり高血圧とは何も症状がなくて静かに体の障害を進行させ、ある時突然重大な合併症(脳卒中、心筋梗塞、腎不全、大動脈破裂など)を発症すると言う事を一言でいい表した言葉です。
分かり易い喩えではありますが、この言葉が高血圧の症状について誤解を作ってしまいました。高血圧は無症状だと。
強調したいのは、高血圧は決してサイレントではありません。しっかりと症状があります。上の血圧(収縮期血圧)がたかだか140mmHg程度であっても症状は現れています。私が診察している高血圧の方々のほとんどは治療開始前に症状がありました。ただ私が教えて誘導するまで本人がそれと自覚していなかっただけでした。本当に症状がなかった人は例外です。
高血圧がサイレントと言われるのは、患者がその症状を高血圧のためだと自覚していないからです。高血圧の症状を「歳のせい、過労のせい、仕事のせい」にしていただけでした。
治療で血圧を下げれば患者の症状はすべて消えてしまうのです。 ◆高血圧の症状は、下がると消える! 高血圧は軽いうちから症状がある病気であることを理解ください。
高血圧の症状について今日は少し詳しく話します。高血圧の症状はよくある普通の症状から、極めて危険な高い血圧で起こる重い症状まで幅広くあります。その違いも理解しておいて下さい。
高血圧の症状
高血圧の三大症状
高血圧でよくみられる三大症状は次の三つと私は思います。
①頭痛、 ②肩こり、 ③疲労感
巷間よく言われる高血圧の症状のなかで、私がほとんど出会ったことのない症状もあります。そんな珍しい症状は高血圧の症状とここで強調しない方がよいと思います。
A). よくある高血圧の症状
●頭痛、頭が重い、頭がボーとする
●肩こり、首筋の張り
●ふらつき、ふわふわ感、雲の上を歩く様な、めまい感
●疲れやすさ、階段・作業・運動時の息切れや疲労感
●朝の起床時に疲労や脱力感
これらは血圧が140mmHg程度であっても起こりうる症状です。こんな症状があってもそれが高血圧のためだとは多くの人は考えません。
ありふれた症状なので、歳のせい、仕事が忙しいための疲れ、睡眠不足のため、過労のため、ストレスが原因などと自己流に解釈します。
しかし本当は全て高血圧の症状であり、降圧薬治療で血圧が下がれば症状は消えてなくなります。患者から喜ばれます。
もし治療せず放置していれば、たとえ話の通りに高血圧がいずれキラーになるでしょう。逆に、測定すると血圧が高いのに異常の症状が一つもなければ、本物の高血圧症ではない可能性があるかも知れません。
B). 高血圧では珍しい症状
鼻血、耳鳴り、目が赤い、しびれ
これらの症状はあちこちでよく高血圧の症状として記載されています。私の経験では、これらが高血圧の症状である事はむしろ珍しいと思います。別の病気の可能性が高いのではないでしょうか。
「鼻血」が出たので慌てて、血圧が高いからだと当院に飛び込んでくる人がいます。ほとんどは血圧とは無関係に鼻をかみ過ぎたため、鼻を指などでいじり過ぎたため等で起こった粘膜の傷による出血です。
血圧を測るとその時に高い人もいますが、それは驚いて興奮したから高くなってしまったのであり、鼻血の原因ではなく興奮による高血圧です。原因(高血圧)と結果(鼻血)が逆のことが多いと考えます。
「耳鳴り」や「目が赤い」も当院では高血圧の症状として出会ったことはほとんどありません。血圧以外の別の病気が原因でしょう。
「しびれ」も高血圧の症状と言うより、神経系に異常が起こっている時の症状と考えられます。脳異常の原因として危険なほどの高血圧の可能性はありますが、その時はシビレだけではなく別の症状が幾つも揃っているはずです。シビレだけしかないのは原因が高血圧ではない可能性が高いと予想されます。
C). 高血圧の危険な症状
●胸痛、胸が締め付けられる、圧迫される
●動悸、心臓がドキドキする
●息苦しい、呼吸困難
●吐き気
●強く激しい頭痛、意識がおかしい、体が痙攣する
●異常な全身のダルさ、気分が悪くて動けない
元々高血圧がある人にこんな症状が現れることがあります。同時に幾つか現れたら、血圧が危険なほど高くなっている状態が想像されます。血圧を測定して、非常に高ければ安静を保ち、いつも飲んでいる血圧の薬が手元にあるなら一回分を臨時に内服し、救急車を呼び適切な治療をして下さい。
D). 高血圧のその他の症状
●頭をハチマキで締められたような
●後頭部の凝り
●軽い運動や作業でも疲れる
●朝の起床時に起きたくない、疲れ感が残る
●体が重い
●帰宅した時、休まないと家事などに入れない
などがあります。
血圧が一時的に高いだけではなく、長期にわたって持続する場合は、こんな症状が現れます。安静時で150mmHg以上が続けば、そんな症状が常時あっても不思議ではありません。
高血圧の緊急事態
異常に高い血圧で、緊急事態に
●非常にダルい、強い倦怠感、体調不良
●安静でも胸が圧迫される
●息苦しく、酸素が足りない
●心臓のドキドキが治らない
高い血圧に心臓が耐えられなくなってきた時の症状です。心臓が悲鳴を上げているサインだと思って下さい。しかしこんな病気は、心臓病をはじめ肺の病気、胸の筋肉や骨の病気、神経の病気、食道と胃の病気など、高い血圧と無関係ないろんな病気がありますので単純ではありません。
高い血圧のために、本来丈夫な心臓でさえ苦しく悲鳴を上げるほどですから、脳、末梢血管、腎臓では心臓以上に重い負担となっているでしょう。そんな時には、
●いつもより強い頭痛、強い肩こり
●全身の何とも言えない疲労感、脱力感、倦怠感、違和感
●最悪の体調
●吐き気
●意識がおかしい、体が痙攣する
等が表れます。異常に高い血圧が短時間であれば心臓も脳も末梢血管も腎臓も耐えられますが、長時間に及ぶと耐えられる限界を超えてしまうかも知れません。もし耐えられる限度を超えて続けば、
●急性心不全
●高血圧性脳症
●脳出血
●急性腎不全
●大動脈解離、大動脈破裂
など、生命に危険な病気が誘発されます。こんな恐ろしい状態にさせないために、もし危険な高血圧の状態になったなら、直ちに絶対安静にして十分休んで下さい。救急車を呼んで下さい。
この緊急事態については、ここでお話ししました。◆危険な高血圧 症状と対応
降圧の目標値:正常血圧
*参考情報
当院の降圧目標値
当院での目標血圧は以前の日本の学会の正常血圧を指標にしました。
●診察室 130/80mmHg 以下
●家庭血圧 125/75mmHg 以下
長い間この値を目標にして、降圧薬を増減してきました。
米国心臓病学会(ACC)・米国心臓協会(AHA)
2017年11月の米国心臓病学会(ACC)・米国心臓協会(AHA)の高血圧ガイドラインでは、以下の様に基準がかなり厳しく改定されました。
●正常血圧 120/80mmHg 以下
●高血圧 130/80mmHg 以上
そして・・・
高血圧の五部作
血圧は高度に自動制御されている:
◆248 高血圧 測る度に違う。どの血圧が本当か?
高血圧にはハッキリと症状がある:
◆239 高血圧 三大症状
急に血圧が上がる理由は?:
◆080 安定していた血圧が急に上がった その原因は?
薬で下がり過ぎることもある:
◆254 高血圧 薬で下り過ぎると危険ですか?
薬でも下がらない訳は?:
◆064 薬を飲んでも、血圧が下りません
高血圧でも、長生きするなら・・:
◆258 高血圧 それでも、長生きできますか?