降圧薬の医薬品情報
高血圧の薬の副作用について患者からよく質問されます。やはり薬の副作用には敏感になっているようです。しかし実際は治療の場で心配するほど有害な副作用はほとんど問題になりません。
すべての医薬品には医薬品情報があります。そこには薬の詳しい医学情報が掲載されます。国が記載項目を指定し製薬会社が責任を持って作成します。詳細に薬の特徴が書かれ医療関係者にとっては薬の基本情報と言ってもよい重要なものです。
この情報はネットにも公開されていますから誰でも読もうと思えば簡単に読むことが出来ます。もし興味があればお読みください。
降圧薬で深刻な副作用は少ない
医師もその副作用情報には大きな関心を持っています。もし皆さんがその情報を読めば、自分の飲んでいる薬の副作用の多さに驚き、こんな怖い薬だったのかと思うに違いありません。しかし医師はそんな薬を多くの人に処方して普通に治療を続けています。
問題となるような有害な副作用は少なくても患者は薬の副作用に大変神経質になっています。その不安の原因は以下で説明しますが、薬本来の効果が少し強く出た場合の不快感も「薬の副作用」と解釈してしまうことが主な理由だと考えます。
多くの使用経験から、医師は医薬品情報に書かれた重大な副作用は実際にはほとんど起こらないことを熟知しています。医師は自分が使い慣れた薬なら使い方を間違えなければ安全であることを確信しています。
患者に安心して処方できますし自分や家族にも安心して使っています。もし自分や家族に使うのをためらうような薬であれば私は使用しません。当院の方針です。
患者のいう「副作用」とは?
では患者の副作用の不安は一体どこからくるのでしょうか。その理由は患者が考える副作用をいくつかに整理すると理解しやすいと思います。
1)薬が効いている症状で問題ない
■「体が熱くなる、火照る」、「顔が赤くなる」、「ドキドキする」、「体がいきなりカーッとなる」、「頭が痛くなる」など
或る降圧薬では全身の血管が拡がるため血行が良くなって起こる症状です。有害な問題はありません。時間がたつと体が薬に慣れて自然に消えたり軽くなります。
■「尿のトイレ回数が増えた。特に夜に寝てから多くなった」
或る降圧薬で腎臓への血流が多くなったり利尿作用が出たために起こった症状です。これも薬の本来の効果であり問題ありません。
■「いきなり喉がイガラッポクなって激しく咳が出るがすぐ収まる。繰り返す」
或る降圧薬ではブラディキニンという成分が増えたためです。血圧を下げる良いホルモンですが、これが喉を刺激して咳になります。薬がよく効いている証拠だと高血圧専門家は言います。実害はありません。ただ生活に支障があれば類似薬で咳がでない薬に変更するとよいでしょう。
どれも降圧薬がその効果を発揮するとおこっても不思議ではない症状です。飲み続けて体が薬に慣れればそのうち消えることもあります。しばらく我慢できれば薬を飲み続けます。
しかし不快で生活に支障がでるようなら薬の量を減らしたり別の薬に変更します。心配ありませんが患者は薬の副作用で体に何か問題が起こったのではと心配します。
この問題は、医師が投与開始時にあらかじめ可能性のある症状を説明しておけば、おこっても患者は安心してその症状を気にせずに済むと思います。
2)薬の効き過ぎ症状で減量すれば消える
■「体がフラフラする」、「立ちくらみする」、「だるく疲れる」、「頭がボーッとする」、「元気が出ない」、「しゃがんでて(草むしり等)立ち上がると一瞬クラーッとする」。
降圧薬を飲んでから2~3時間くらいたちますとなりますが、そのうちに消えてしまいます。恐らく薬の降圧効果が強過ぎて、血圧が下がり過ぎた時の低血圧症状です。
不快な症状の時もあり患者は薬の副作用と思ってしまいます。薬を変更や減量すれば症状は消えます。
■「脈が遅くなった」、「スーッと意識が遠くなった」、「息切れや心不全の症状が悪化した」、「性的な活力が減退した」、「やる気、意欲、闘争心が減退した」
或る降圧薬ではこの様な症状になることもあります。これもその薬の効き過ぎですから薬を減量すれば治るでしょう。
3)有害な副作用であり減量か中止する
■軽いものとしては、検査で尿酸値、血糖値、腎機能、肝機能等のデータが悪化したなど血液検査や尿検査で軽度の異常値が出ることがあります。
■中程度以上では、「むくむ」、「湿疹が出た」、「口の中にタダレが出た」、「体が黄色くなった」、「元気がなく食欲もない」、「体がだるい」等、副作用の病態によって多彩な症状があります。
薬の悪い側面が出てきた場合の状態と予想されます。本来の意味での有害な「薬の副作用」です。患者と薬の相性が悪いようですから直ちに薬を減量するか中止します。
この有害な副作用は事前に発生を予測することはできません。薬を使い副作用が起こってから初めて薬との相性の悪さが分かるのです。早期に発見して素早く適切な対応をすることが大切です。
まとめ
薬の有害な副作用は稀にしか起こらないのに患者が副作用に大変神経質なのはなぜでしょう。
患者のいう副作用とは、1)薬が効いている症状でそのままでも問題ない。2)薬の効き過ぎで減量すれば消える。3)有害な副作用であり薬を減量や中止する。
この3点ですが実際に多いのは1)と2)であり、3)は非常に少ないと思います。一番重要な点は有害な副作用の発生を早期に発見し直ちに薬を中止することです。
そのためには患者が自分の体調変化に常に関心を持っていることと、薬剤投与開始の早期はこまめな検査を繰り返し無症状の段階でデータの異常を早期発見することです。患者と医師、その両者が重大な副作用発生(稀ですが)にいつも敏感でいることです。
よくある薬本来の効果が少し強く出た時の不快な症状を怖い副作用と誤解しているのが患者の副作用不安の主な理由だと思います。
そして・・・
高血圧の五部作
血圧は高度に自動制御されている:
◆248 高血圧 測る度に違う。どの血圧が本当か?
高血圧にはハッキリと症状がある:
◆239 高血圧 三大症状
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◆080 安定していた血圧が急に上がった その原因は?
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◆064 薬を飲んでも、血圧が下りません
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◆258 高血圧 それでも、長生きできますか?