心臓病　症状から自己診断は危険！　◆598

心臓病を疑っても、そうでない人も多い

心臓病を心配して来院した人を数多く診察してきましたが、心臓病ではない患者も多くいました。

患者に初めて会って話を聞き、一通りの診察をしてから基本的な検査をします。間もなく結果が出ますから所見を総合して診断を話します。病名だけではなく、なぜその症状が起きるか、その原因は何が想像されるか、分かる範囲で出来るだけ患者に理解できる言葉を選んで解説します。

問題ない患者では話を聞いて安心するせいか本当に嬉しそうな表情になって帰ります。一部の人は話の途中から嬉しさと安堵感からか、ホロリと涙を流す人もいます。それほど病気を心配していたのでしょう。

その後、同じ症状で当院を再受診する人は珍しいと思います。私の診断が間違っていたので来なくなったのか、安心して病気を忘れてしまったためか、私には分かりません。しかし数年後に以前の症状とは違う症状（不眠や風邪など）で再度診察に来る人がいます。以前の心臓の症状について確認すると「あれ以来すぐに治ってしまってもう忘れていた」と答える人が多いように思います。

 

治療が必要な心臓病は少ない

心臓病を疑って来院する患者のうち、一部は本物ですが軽い心臓病、一部は心臓病ではない病気です。多くは一回の診察で軽い心臓病であるが治療は不要か、心臓病が否定される患者です。いずれもそれで安心しその後は治ってしまうようです。

そして本物の心臓病で、精密検査をし病態を詳しく評価して、治療しなければならない心臓病の人は、大雑把な印象ですが、心臓病の患者の半分程度でしょうか。

重症の心臓病で緊急検査や治療のため専門病院に直ちに紹介しなければならないケースは当院では本当に珍しく、数年～10年に一人あるかないか程度です。また本人は心臓病だと考えてもいなかったのですが、診察で原因が心臓病であったというケースも時にはあります。これが当院のような小さなクリニックの実態です。

しかし大病院や心臓専門の病院ではまた違った病気構成だと思います。しかしそのような病院に最初に行く患者はむしろ少数であり、患者が最初に受診する当院のような小さなクリニックでの心臓病の病気構成が真の心臓病の姿であると思います。

 

病院に行かなくてもよい？

本物の心臓病で治療を開始する必要がある患者は心臓病を疑って受診する患者の少数派に留まるだろうと言うのが私の印象です。

この現実のうえでも「心臓病を疑う症状があっても、多数は心臓病ではないか、治療の必要のない心臓病です。だから病院に行かなくて様子を見てもよい」とは絶対に言えないのです。ここが大切なところです。

 

ミスは癌の見落しより怖い？

それらしい症状があっても、それが心臓病であるかないか、心臓病であってその病気の重症度と緊急性はどの程度か。

これは我々心臓の専門医であっても簡単ではありません。ましてや患者が症状だけで自分で判断できるレベルのものではありません。判断ミスがあれば命に直結するリスクがあるのが心臓病です。或る意味で癌を見逃すより恐ろしい結果になります。

癌は早期の段階で万一見落しても、症状が進んで再検査して見つかる事があります。その時点でも十分治療可能なことがよくあります。

しかし心臓病はそれまで比較的穏やかな症状で大したことはないと思っても、ある時の一回の発作で命を失うか人生が実質的に終わってしまう病態に追い込まれる事があります。数は多くないですが一瞬で人生が終わったり回復が絶望的になったりする恐ろしさがあります。

「生兵法は大怪我の基」

それが心臓病ですから判断ミスは極めて重大です。こんな病気を患者が自分で判断するのは高いリスクが伴います。危険な心臓病である確率はたとえ非常に低くても、生命を賭けるギャンブル性がありリスキーな行為だと私は思います。

患者がどれほど心臓病の自己学習をしたとしても、医学生の正規の６年間の医学教育にまず及ばないでしょう。そして医学生は６年間の医学教育課程を修了し医師国家試験に合格し研修医となって内科の２年間の実地臨床経験を終了してさえも、初めて診察する患者が心臓病か？、心臓病でありその重症度と緊急性をはどうか？等を患者の症状から診断するのはなかなか難しいのです。

重症の心臓病なら診断は困難ではないかも知れませんが、ここで話題にしている心臓病の初期段階の穏やかな症状での患者の診断は本当に難しいのです。ベテラン心臓専門医でさえ悩むことが実際には多いのです。

専門的な知識と多くの経験が必要な初期段階の心臓病の診断を、患者が正しく自己診断するのはまず無理だと思います。

人間とは自分の病気を客観的に判断出来ないと指摘されています（医師でさえも）。患者が判断ミスする確率は高いでしょう。当たるか否かはギャンブルの様なものです。「ロシアンルーレット」のような命のかかったギャンブルです、賢明な皆さんがそんな危険なギャンブルはしないと思います。

自分の症状は心臓病ではないだろうと感じても、心臓病を疑っているなら専門医に相談するべきです。

以下は心臓専門医の診断する思考過程を解説したコラムです。参考にして下さい。 ◆「胸が痛い」のは心臓病？ーその診断の方法ー

早期発見と医師の説明を理解するために利用

コラムは皆さんに心臓病について多くの情報を提供します。しかしあくまでもアマチュアの皆さん向けに大胆に割り切って書いています。心臓病の実態はここで描ききれるほど簡単ではありませんし、心臓病の全貌を皆さんに正確にお伝えすることは絶望的で不可能です。従って私のここでの話はあくまで参考程度として下さい。

症状から心臓病を疑うべきかの判断材料、診察を受けて主治医からの説明を理解する上での心臓病の事前学習、それにお役立て下さい。

 

再度強調します。自己診断しないように！

どのコラムにも言えることですが、この話を参考にしても自分で病気の診断はしないように注意して下さい。 Webコラム閲覧者へのお願い

続く・・・

病気を上手に克服して、残り人生をより健康にするには・・

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◆369 心臓を健康にする

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